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「1強断然ムード」にいささか翳りが出てきている英オークス展望

  • 2016年05月25日(水) 12時00分


人気の中心は2歳牝馬として過去10年で最高のレイティングを獲得したマインディング

 日本同様に英国も、3歳世代の頂点を決める戦いが繰り広げられる季節を迎えている。今週のこのコラムは、6月3日(金曜日)にエプソムで行われる第238回オークス(芝12F10y)の展望をお届けしたい。

 2歳秋にG1モイグレアスタッドS(芝7F)、G1フィリーズマイル(芝8F)を連勝した段階で、13年生まれ世代の牝馬では最強と、自他ともに認める存在となったのが、A・オブライエン厩舎のマインディング(牝3、父ガリレオ)である。ことに、後続に4.1/2馬身差をつけたG1フィリーズマイルのレース振りは強烈で、2歳牝馬としては過去10年で最高のレイティング120を獲得。シーズンオフの間、千ギニーでもオークスでも前売りで抜けた1番人気に支持されていた。

 同馬が今季初戦のG1英千ギニー(芝8F)を3.1/2馬身差で快勝すると、オークスの前売りオッズが1.5倍前後にまで下がり、1強ムードに益々拍車がかかることになった。更に「これほど強いのなら」と、オークスではなくダービーに挑むプランが浮上したのがこの頃で、大手ブックメーカーの中にはダービーの前売りで1番人気に支持する社も出たほどだった。

 ところが、船頭が多いがゆえに時おり見られる、クールモア陣営の迷走が始まったのが、その後だった。英千ギニーの直後は「次走は愛千ギニー」と言われていたのが、「愛千ギニーは、英千ギニーで2着となった同厩のバリードイルに任せて、マインディングはオークス直行」と方針が変わり、これが愛千ギニー当該週になると、「バリードイルは愛千ギニーを回避し、マインディングを愛千ギニーに使う」と、またもや方針を転換。愛千ギニー当日のカラはYielding to Softという道悪馬場となり、重巧者ジェットセッティングの2着に敗退。更に、それが競走能力にどれだけ影響したかは不明だが、発馬直前にゲート内でぶつけ、顔面に外傷を負うというアクシデントがあったことが、レース後になって判明。「使わなければよかった」という、先に立たない後悔をする羽目に陥ったのである。

 愛千ギニー後、同馬のオークスへ向けた前売りオッズは2倍前後まで上がったが、それでも抜けた1番人気であることには変わりはない。ただし、母リリーラングトレーはG1コロネーションS、G1メイトロンSと、8FのG1を2勝している馬で、ゆえにオークスの12Fには疑問符がつくと、これまで全く囁かれていなかった距離不安が、ここへきて取沙汰されるようになるなど、「1強断然ムード」にいささか翳りが出ていることも確かである。

 なお陣営は、顔面に負った外傷の治り具合を見つつ、今週末か来週早々にも、オークスの出否を明らかにするとしている。

 5月11日にヨークで行われたG3ミュードラSを、G1・3勝馬ダーレミの2番仔ソーミダー(牝3、父ドゥバウィ)が4馬身差で快勝した段階では、同馬がマインディングに迫る2番人気に急浮上したのだが、残念ながらソーミダーは16日の調教後に左後肢跛行を発症して戦線を離脱。オークスの2番人気の座は、G1英千ギニー2着のバリードイル(牝3、父ガリレオ)が横滑りで務めることになった。

 2歳8月のG2デビュータントS(芝7F)では、マインディングに先着して優勝しているバリードイル。続くG1モイグレアスタッドSではマインディングに3/4馬身及ばぬ2着に敗れたが、その後、マインディング不在のG1マルセルブーサック賞(芝1600m)を快勝。今季初戦のG1英千ギニーは、後方待機から抜け出す時に進路が狭くなる不利があって、マインディングには完敗したが、しっかりと2着は確保し、世代屈指の力量の持ち主であることを実証している。

 同馬は全姉ミスティーフォーユーが、10FのG1愛プリティーポリーSを制している他、11FのG1BCフィリー&メアターフでも僅差の3着となっていることから、12Fは守備範囲内と見られている。

 9〜11倍のオッズで3番手評価のターレットロックス(牝3、父ファストネットロック)は、昨年秋のG1マルセルブーサック賞でバリードイルの2着だった馬だ。今季初戦のG1英千ギニー6着の後、G1愛千ギニーは道悪で取り消している。3歳年上の半姉に、豪州で走って2300mのG3ゴールドニューキャッスルCを制したビヨンドサンクフル(父ウィッパー)がおり、距離延長はプラスに働きそうな1頭である。

 同様に、1つ年上の半姉が昨年のG1セントレジャー(芝14F132y)勝ち馬シンプルヴァーズ(父デュークオヴマーマレド)と、スタミナ豊富な牝系を背景に持っているのが、オッズ9〜11倍でターレットロックスと3番手評価を分け合うイーヴンソング(牝3、父マスタークラフツマン)である。ここまでの戦績3戦1勝。今季初戦となった前走ニューマーケットのLRプリティーポリーS(芝10F)は3着だった。

 オッズ13倍前後で5番手評価のサムハウ(牝3、父ファストネットロック)も、英愛オークス連覇に加えてG1ヨークシャーオークス(芝12F)も制した、アレグザンドローヴァの5番仔という良血馬である。ここまでの戦績3戦2勝。5月4日にチェスターで行われたLRチェシェアオークス(芝11F79y)を快勝している。

 以下、5月7日にリングフィールドで行われたLRオークストライアルS(芝11F106y)の1・2着馬セヴンスヘヴン(牝3、父ガリレオ)とアーキテクチャー(牝3、父ゾファニー)。5月14日にニューバリーで行われたLRフィリーズトライアルS(芝10F6y)2着のビューティフルモーニング(牝3、父ガリレオ)。G3ミュージドラSがソーミダーの2着だったファイアグロウ(牝3、父テオフィロ)と、前哨戦の上位馬たちが続いている。

 マインディングであっさり決まる確率が高そうだが、一方で、大波乱の火種も宿したオークスと言えそうである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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