スマートフォン版へ

ラニにとって最も適した競走条件となるベルモントS展望

  • 2016年06月08日(水) 12時00分


常歩やダクにたっぷりと時間をかける調整方法が、アメリカで話題

 今週土曜日(11日)にニューヨーク州ベルモントパークで行われる、北米3歳3冠最終戦G1ベルモントS(d12F)の展望をお届けする。

 当初は、10頭以下の落ち着いた頭数になることが予測されていたが、ここへきて、クリエーターの陣営がラビットを出すことになったり、メイドン(未勝利戦)を勝ち上がったばかりの馬が2頭出走表明したりと、新たな顔触れが加わって、7日(火曜日)の段階では13頭立てになる模様だ。

 ブックメーカー各社が2倍〜2.25倍のオッズで1番人気に推すのが、2冠目のG1プリークネスS(d9.5F)を制しての参戦となるイグザジェレイター(牡3、父カーリン)だ。

 2歳時から、2つの重賞を制した他、G1ブリーダーズフューチュリティ(d8.5F)2着、G1BCジュヴェナイル(d8.5F)4着などの実績を残し、この世代のトップグループの一角を占めてきた同馬。今季3戦目となった道悪のG1サンタアニタダービー(d9F)を6.1/4馬身差で快勝してG1初制覇。続くG1ケンタッキーダービー(d10F)ではナイクィストの2着に敗れたが、再び得意の道悪となったG1プリークネスSでは、これまで3連敗を喫していたナイクィストに4度目の直接対決で初めて先着し、見事に優勝を果たしている。

 叔母にカナダとアメリカで6.5〜8.5Fの重賞を3勝したエンバーズソングがいるという牝系は、必ずしもスタミナ豊富なわけではないが、父カーリンの産駒に13年のベルモントS勝ち馬パレスマリスがいる他、母の父は3冠馬シアトルスルーの直仔だから、アメリカ血脈の中では距離延長に対応出来そうな背景を持っていることも、人気が被っている要因の1つであろう。

 3冠皆勤は、この馬とラニの2頭のみである。ましてや2冠目のプリークネスSは泥田のような馬場での消耗戦となり、ここで3着と敗れたナイクィストはレース後に熱発を発症し、戦線離脱を余儀なくされている。デビューから前走まで11戦と、ベルモントS出走馬の中で最も使い込んでいるのがイグザジェレイターだけに、目に見えない部分も含めて、心身両面でどんなコンディションで出て来るかがポイントとなりそうだ。

 オッズ6〜7倍の2番手評価が、サドンブレーキングニュース(牡3、父マインシャフト)である。前走ケンタッキーダービーは5着に終わったものの、道中は20頭立ての19番手というポジションから追い込んだレース振りは印象的で、頭数が手頃になるここは見直したいと見るファンが多いようである。この馬もベルモントSがデビュー10戦目とかなり使われているが、ケンタッキーダービーの後、プリークネスSはスキップしたローテーションには好感が持たれている。

 祖母のパーティサイテッドは、距離が11Fだった時代のG3イェルバブエナH(芝11F)の勝ち馬で、欧州を拠点としていた時代はグッドウッドのG3セレクトS(芝10F)で牡馬相手に3着になったこともある。そのパーティサイテッドに、05年のベルモントS勝ち馬アフリートアレックスの配合で生まれたのがサドンブレーキングニュースの母アチテルで、同馬の牝系はスタミナのエッセンス豊富と言えそうである。

 オッズ8〜9倍で3番手評価を分けているのが、チェリーワイン(牡3、父パディーオプラド)と、ストラディヴァリ(牡3、父メダグリアドロー)の2頭である。

 キーンランドのG1ブルーグラスS(d9F)で3着となった後、ケンタッキーダービーはポイント不足で除外となり、プリークネスSでイグザジェレイターの2着となったのがチェリーワインだ。父パディーオプラドはG1セクレタリアトS(芝10F)の勝ち馬で、その父エルプラドは、代表産駒にG1ターフクラシック(芝12F)を制しているキトゥンズジョイや、仏国でG1サンクルー大賞(芝2400m)を制したスパニッシュムーンらがいる種牡馬である。そしてエルプラドの父は欧州の巨魁サドラーズウェルズと、父系は距離延長大歓迎だ。更に、本馬の叔父に英国で走って12F戦で2勝した後、豪州に移籍し豪州のアスコットを舞台としたG2パースC(芝3200m)2着、フレミントンのG3クイーンエリザベスS(芝4100m)4着などの実績を残したベイストーリーがおり、牝系もまた距離延長がプラスに働くことを示唆している。

 ただしこの馬、デビュー5戦目のメイドンを9馬身差で制して初勝利を挙げた際の馬場がSloppy(不良)だっただけに、プリークネスSでの好走も多分に馬場に助けられた面があったことは否定できない。そしてこの馬も、ベルモントSがデビューから10戦目と、かなり使い込まれており、当日の状態には充分注意を払いたい1頭である。

 ここまでご紹介した3頭がいずれも豊富な出走経験を誇るのに対し、ベルモントSがデビュー5戦目と、フレッシュな状態で臨むのがストラディヴァリだ。デビュー2戦目のメイドンを11.1/4馬身差で、続く一般戦を14.1/2馬身差で制した後、初めて強敵と戦ったプリークネスSが4着だった同馬。上がり目の充分にありそうな臨戦態勢であるのに加え、父メダグリアドローはG1トラヴァーズS(d10F)の勝ち馬にして、ベルモントSの2着馬。そしてその父は、チェリーワインの父パディーオプラドと同じエルプラドだから、この馬もチェリーワイン同様に父系から豊富なスタミナを受け継いでいる点が魅力である。一方、母ベンディングストリングスは6F〜8Fの重賞4勝の他、G1テストS(d7F)2着、G1ラブレアS(d7F)2着の成績を残したスピードタイプだったが、総体的に見て平坦馬場ならば10Fを越えてパッタリくる配合ではなさそうである。

 続いて、オッズ11〜13倍で5番手グループを形成する一角に、ケンタッキーダービー6着のデスティン(牡3、父ジャイアンツコーズウェイ)、ケンタッキーダービー7着のブロディーズコーズ(牡3、父ジャイアンツコーズウェイ)とともにいるのが、我らがラニ(牡3、父タピット)である。

 北米遠征が決まった当初から、この馬に最も適した競走条件が整うのは「ここ」と言われていたのが、ベルモントSだった。その根拠となるのが、12Fという距離に対する適性である。父タピットの代表産駒の1頭に14年のベルモントS勝ち馬トナリストがいて、母の父サンデーサイレンスの産駒にG1天皇賞・春(芝3200m)の勝ち馬が4頭いて、祖母の父がサドラーズウェルズで、祖母の1歳年上の半姉にG1愛セントレジャー(芝14F)勝ち馬ダークローモンドがいるという血統構成は、ベルモントS出走馬の中で最もスタミナのエッセンスに溢れていることは間違いない。

 何よりも気になるのが、ドバイ経由で北米入りした後、ケンタッキーダービーから中1週でプリークネスSという、極めてタフなローテーションをこなしてきたことによる消耗だが、1日(水曜日)に6Fから時計を出し、6F=1分15秒8、5F=1分2秒09をマーク。このあと8日(水曜日)に最終追い切りが掛けられる予定で、これだけ乗り込めるということは、まだ充分に余力のある状態にあると判断したい。

 常歩やダクにたっぷりと時間をかける調整方法が、アメリカで話題となっているラニ。ベルモントSの結果次第で、定番化しているアメリカの調教手法に一石を投じることにもなりそうである。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング