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地方の舞台で能力発揮、タイニーダンサー/関東オークス・川崎

  • 2016年06月16日(木) 18時00分

(撮影:高橋正和)



横綱相撲ともいうべき完勝

 昨年の地方2歳牝馬チャンピオン、というより北海道2歳優駿も制して、牡馬も含めた2歳チャンピオンとなったタイニーダンサーが、あらためて2歳時の活躍に恥じない能力のあるところを見せてくれて、ほっとした。

 中央での2戦は、ともに勝ち馬から1秒以内の差なのでそれほど負けているわけではないが、ほとんど見せ場のないレースだった。脚部不安があって復帰が遅れたということもあっただろうし、あらためて聞いたところ、芝からのスタートで戸惑ったということもあったようだ。たしかに端午Sでは最初に前脚がダートに入ったところでガクッと躓くような場面があった。しかも両レースともに内目の枠で、特に青竜Sではラチ沿いで馬群に包まれ砂をかぶって嫌がるような素振りがあった。それが今回は外枠に入って、スタートも決めて絶好位の外目3番手につけた。

 川崎2100m戦では1周目のスタンド前でペースがガクっと落ちるのが常だが、それにしても今回は特に遅いペースのまま流れが落ちついてしまった。スタート後の序盤はアルセナーレ、エメンタールベルンが競り合うように先行してやや速いペース。とはいえ3番手あたりにつけた2頭、タイニーダンサー、ミスミランダーはやや差があっての追走で、速かったのは前の2頭だけ。最初の3〜4コーナーで隊列は早くも縦長となった。

 4コーナーの手前からペースが落ち、向正面に入って残り800mのところまで、ハロンごとのラップで14秒台が4つも続いた。過去10年の関東オークスを見ても、14秒台のラップが4つも続いたことは一度もない。そんなペースでもタイニーダンサーは掛かることもなく折り合った。対照的に、タイニーダンサーの直後で併走していたディーズプラネット、ブライトリビングは行きたがるのを必死に抑えている様子だった。

 それほどペースが遅くなれば、馬群がギュッと凝縮するか、そうでなければ昨年のホワイトフーガのように一気に行ってしまう馬がいるかだが、馬群として固まったのは、ディーズプラネット、ブライトリビングまでの6頭。そのペースで、さらにうしろからという馬たちは勝負にならない。

 そしてこれも川崎2100mの常で、向正面の中間から徐々にペースアップ。追っても差を詰められなかったのがブライトリビングで、スタンド前で掛かったぶんもあっただろうが、ここでついていけないようではそもそも調子落ちだったのかもしれない。ディーズプラネットは3コーナー過ぎで3番手にいたミスミランダーに並びかけ、直線を向いて一旦は交わしたものの、ゴール前で差し返されてしまった。向正面からのロングスパートで最後は息切れという形。ダートで結果を残していたのが1400m以下だったということで、やはりこの距離は少し長かったのだろう。

 勝ったタイニーダンサーは、逃げていたアルセナーレを3〜4コーナー中間でとらえると、直線で堂々と抜け出すという横綱相撲ともいうべき完勝だった。

 中央4頭が人気を分け合い、地方馬はもっとも人気を集めたポッドガゼールでも単勝47.1倍というなかで、単勝85.0倍の7番人気ミスミランダーがアルセナーレをゴール前でとらえて2着に食い込んだ。結果、2番手を追走していたエメンタールベルンこそ3コーナーあたりから後退してしまったが、先行4頭のうちの3頭で決着という、スローペースの前残りという結果でもあった。

 勝ったタイニーダンサーは、1800mの北海道2歳優駿では、ハナを奪いながら3コーナー手前あたりで4番手に位置取りを下げ、そしてゴール前でまとめて差し切るという2歳馬らしからぬレースを見せていたが、今回は戸崎騎手が初騎乗ながら落ち着いたレース運びを見せた。サウスヴィグラス産駒ということでは、ナムラタイタンをはじめとして地方同士なら2000mの重賞を制した馬もいるが、2000m以上のグレード重賞を制したのはこれが初めて。母の父アサティス、母の母の父アローエクスプレスという、母系のスタミナが強く出ているのだろう。グランド牧場の生産所有、伊藤圭三厩舎ということでは、2000年に関東オークスを制したプリエミネンスがいる。タイニーダンサーは2歳時だけの活躍で落ち込まず、3歳になってこの長距離のレースで復活を見せたということでは、GI勝ちには至らなかったものの、GIIの浦和記念を制し、JBCクラシックでも2着があったプリエミネンス級の活躍が期待できるかもしれない。

 地元南関東勢では東京プリンセス賞の上位馬を含め有力馬のほとんどが1週前の東京ダービーに出走してしまったため、予想では中央の4頭にしか印をつけなかったが、地方馬では唯一重賞勝ち(笠松・ラブミーチャン記念)のあるミスミランダーが気を吐いた。そもそも東京2歳優駿牝馬では、その後に浦和・桜花賞を制するモダンウーマン、東京プリンセス賞を制するリンダリンダという、この世代のトップを争う2頭に、1馬身半+3/4馬身差の3着に好走した経験があった。当時は笠松の所属で、その後に船橋に移籍しての初戦となった3歳一組特別で3着に負けていたので予想では見切ってしまったのだが、それが4カ月ぶりの復帰戦で、そこを叩いて調子を上げていたのだろう。スローペースの4番手で折り合ったということもあったし、それに加えて勝ちタイムが過去10年でもっとも遅いタイムでの決着だったということもあった。それにしてもディーズプラネットを差し返して、逃げ粘っていたアルセナーレをもとらえてという2着は立派だった。ホッカイドウ競馬デビュー馬のワンツーということで、あらためてそのレベルの高さを示す結果でもあった。

 以下は予想がハズレた言い訳になる。関東オークスは、過去5年で3着以内に5頭の地方馬が入っていて、そのうち2頭が8番人気ということは事前に頭に入っていた。それでも地方馬に印を回さなかったのは、今年の中央馬はダート実績のある馬ばかりだったから。それでもやはりこの時期の3歳牝馬だけに、まだまだそれぞれの馬の実力が見えていないところもあるし、波乱になる要素は多分にあるということは、来年以降のためにも覚えておきたい。

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1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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