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凱旋門賞へ向け目の離せない一戦、愛ダービー展望

  • 2016年06月22日(水) 12時00分


ラクレソニアが無敗の7連勝で仏オークスを制す

 先週末のG1ディアーヌ賞(=仏オークス)に続いて、今週末にはG1愛ダービーと、シーズン掉尾の大一番であるG1凱旋門賞へ向けて、目の離せない競馬が続いている。

 本番と同じシャンティイを舞台としている上に、近年の凱旋門賞は牝馬の優位性が顕著なだけに、ことさら熱い視線を浴びたのが、19日に行われた仏オークスである。

 そして結果も、凱旋門賞戦線に大きな一石を投じることになった。

 勝ったのは、オッズ3.8倍の1番人気に推されていたラクレソニア(牝3、父ルアーヴル)だ。前走のG1プールデッセデプーリッシュ(=仏千ギニー)に続く2冠達成で、しかもこれでデビューからの成績を7戦7勝とした同馬を、ブックメーカー各社は凱旋門賞へ向けた前売りで、オッズ11〜13倍の4〜7番人気に浮上させている。

 管理するのは南仏を拠点とするジャン・クロード・ルジェで、2歳7月にクラレフォンテンのメイドン(芝1400m)でデビュー。ここを白星で飾ると、続くクラオンの条件戦(芝1650m)、ドーヴィルのLRイゾノミー賞(芝1600m)、シャンティーのLRヘドロ賞(芝1400m)を全て制して2歳戦を終了。3歳緒戦となったサンクルーのLRラカマルゴ賞(芝1600m)も勝って迎えたのが、今年はドーヴィルの直線コースを舞台に行われたG1仏千ギニー(芝1600m)で、これを制して6連勝でクラシック制覇を達成した。

 父ルアーヴルはG1仏ダービー馬で、その代表産駒には14年のG1仏オークス馬アヴニールセルタンがいるのだが、ルアーヴルの父はG1サセックスSを制しているマイラーである。そんな点から、距離延長を不安視する声もあったことが、仏オークスにおける同馬が突出した人気にならなかった理由だが、走ってみれば全く問題なく距離を克服。同馬の母の父はガリレオであることも含めて、凱旋門賞における2400mという距離も守備範囲というのが、仏オークス後の評価である。

英国と仏国のダービー上位組による直接対決が呼び物だったG1愛ダービーだが…

 そして、今週末のG1愛ダービーにも、凱旋門賞前売り上位に顔を出している馬が複数出走を予定している。

 かつては、英国と仏国のダービー上位組による直接対決が呼び物だったG1愛ダービーだが、G1仏ダービーの距離が短縮され、なおかつ、G1パリ大賞の距離が2400mになって、仏国における戦勝記念日(7月14日)の開催が定着すると、仏国からの遠征はほとんどなくなり、近年のG1愛ダービーはG1英ダービーの再戦というのが、戦いの構図となっている。

 実際に、過去10年の同競走の1・2着馬20頭のうち、実に15頭が前走G1英ダービーを走っていた馬で、別路線組同士の1・2着というのは、過去10年に一度もない。ただし、08年の勝ち馬フローズンファイアは前走英ダービー11着、11年の2着馬セヴィルは前走英ダービー10着、14年の2着馬キングフィッシャーも前走英ダービー10着と、特殊な形態を持つエプソムの馬場では全く力を出せず、カラにコースが替わって一変という馬もいる点にはおおいに注意したい。

 もっとも、前売り人気上位にいるのは、英ダービーの上位組である。中でも、当日1番人気を争うことになりそうなのが、英ダービー勝ち馬ハーザン(牡3、父シーザスターズ)と、2着馬ユーエスアーミーレンジャー(牡3、父ガリレオ)である。

 ハーザンは、アガ・カーン殿下の自家生産馬。G3アサシS(芝7F)勝ち馬ハザリヤの5番仔で、半姉にG3シルヴァーフラッシュS(芝7F)勝ち馬ハラシヤ、叔母にG1愛オークス(芝12F)3着馬ハザリスタがいるという血統背景を持つ。

 2歳9月にゴウランパークで走ったデビュー戦(芝8F)は5着に敗れたものの、シーズンオフを挟んで出走したコークのメイドン(芝10F)を16馬身差で制して初勝利。続いて4月10日にレパーズタウンで行われたG3バリーサックス(芝10F)に駒を進め、ここも制して重賞初制覇を果たして迎えたのが、G1英ダービーだった。

 初勝利も初重賞制覇も“Heavy”という馬場コンディションで、スピード競馬に一抹の不安を抱える陣営は、馬場が硬ければ英ダービーには出ないと言っていたが、ダービー週のエプソムの馬場が“Good to Soft”となったため、出走を決断。こうして射止めたダービー制覇の栄冠であった。

 その背景には、実はもう1つドラマがあって、愛国の自厩舎からエプソムへの当日輸送の際に、ダブリン空港でハーザンが前脚の蹄鉄の1つを落鉄。折悪しくこれを踏んでしまったようで、蹄底にわずかながら外傷を負ってしまったハーザンは、エプソム到着後に患部を冷却して経過観察をするという、まさに薄氷を踏むような局面が舞台裏では進行していたのである。改めて蹄鉄を打ち直し、歩様に問題のないことが確認されて出走に踏み切り、結果は1.1/2馬身差の完勝。高い能力水準を示すことになった。

 その英ダービーで、オッズ4.5倍の1番人気に推されていたのが、ユーエスアーミーレンジャーである。G1愛オークス勝ち馬ムーンストーンの4番仔で、1歳年上の半姉にG3ミュンスターオークス(芝12F)勝ち馬ワーズがいるという良血馬だ。

 デビューしたのは今季になってからで、4月3日にカラのメイドン(芝10F)でデビュー勝ち。管理するエイダン・オブライン師の評価が非常に高く、この段階でいきなり英ダービー前売り上位人気に浮上した同馬は次走、5月5日にチェスターで行われたG3チェスターヴァーズ(芝12F66y)に駒を進め、ここも白星で通過して2戦2勝の成績で英ダービーを迎えることになった。

 16頭立ての最後方で直線に向いたユーエスアーミーレンジャーは、馬場外目を通って粘り強い末脚を発揮。1頭ずつ抜いて行ったものの、ハーザンだけは捉えられずに2着に終わっている。敗れはしたものの、その末脚に大きな魅力を感じるファンが多いようで、目下のところブックメーカーの前売りで、ハーザンとユーエスアーミーレンジャーはオッズ2.25倍から2.5倍で、ほぼ横並びの状態となっている。

 蛇足ながら、凱旋門賞へ向けた現時点での前売りでは、ハーザンのオッズが7〜11倍に対し、ユーエスアーミーレンジャーのオッズが11倍〜13倍と、ハーザンの方が売れている。秋のパリ周辺は雨が多くて重馬場になる公算が高く、そうなった場合には道悪巧者のハーザン優位という分析が、その背景にあるようだ。

 G1愛ダービーに話を戻せば、G1英ダービー3着馬アイダホ(牡3、父ガリレオ)も出走の構えを見せており、オッズ5.5倍〜8倍の3番手評価。出否保留だったG1英ダービー4着馬ウィングスオヴィザイヤは、どうやら回避する模様だ。

 英ダービー大敗組にも注目という点では、G3愛ダービートライアルS(芝10F)を制して臨んだG1英ダービーが16着だったムーンライトマジック(牡3、父ケイプクロス、オッズ21〜26倍)が、これに該当する1頭となろうか。

 英ダービー上位組の序列が保たれるのか、崩れるのか、思わぬ伏兵の台頭はあるのか、G1愛ダービーの行方に注目したい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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