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欧州中距離路線の見逃せない戦い、エクリプスS展望

  • 2016年06月29日(水) 12時00分


キングジョージへ向けた前哨戦としても因縁浅からぬ位置づけにある一戦

 18日のG2ハードウィックS、19日のG1ディアーヌ賞(=仏オークス)、25日のG1愛ダービーと、欧州では中距離路線の見逃せない戦いが毎週のように展開されているが、今週末にもまた、この路線の基幹競走が英国で行われる。

 2日(土曜日)に英国のサンダウン競馬場で行われるG1エクリプスS(芝10F7y)が、その一戦だ。

 8F路線のG1サセックスS、12F路線のG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスSと同様、10F路線ではここが、3歳世代と古馬世代のトップクラスが顔を合わせる初めての機会となる。同時に、過去10年を振り返ると、12年にナサニエルがここを勝って本番が2着、11年にワークフォースがここ2着で本番も2着、09年にコンデュイットがここ3着で本番1着と、G1キングジョージへ向けた古馬の前哨戦としても因縁浅からぬ位置づけにある一戦だ。

 今季のエクリプスSへ向けて、ブックメーカーが早くから前売りマーケットで1番人気に推してきたのが、タイムテスト(牡4、父ドゥバウィ)だった。ロイヤルアスコットのG1プリンスオヴウェールズS(芝10F)に登録があり、出てくればエイシンヒカリにとって最大の敵と見られていた馬だから、ご記憶の読者の方もおられると思う。

 ジャドモントの自家生産馬で、G1クリテリウムドサンクルー(芝2000m)勝ち馬パッセージオヴタイムの3番仔という良血馬のタイムテスト。3歳春のクラシックには乗れず、昨年のロイヤルアスコットでG3ターセンテナリーS(芝10F)を制して重賞初挑戦初制覇。秋にはニューマーケットのG2ジョエルS(芝8F)を制したが、一方で、G1インターナショナルS(芝10F88y)は4着、G1BCマイル(芝8F)は10着と、超一線級に入ると足りなかったのが3歳時のタイムテストだった。

 昨年は8Fと10Fの路線の行き来した同馬だが、陣営は今季「10F路線を進む」と言明。緒戦に予定していたカラのG1タタソールズGC(芝10F110y)を道悪で回避した後、サンダウンのG3ブリアディアジェラードS(芝10F7y)に駒を進めて、ここを快勝。その後、G1プリンスオヴウェールズSを再び道悪のため回避して迎えるのが、この一戦である。

 もともと陣営が素質を高く評価していた馬で、現段階ではG1未勝利の身ながら、馬場さえ向けばここで主役の座を務めておかしくはない器であると評価したからこそ、ブックメーカー各社もこの馬をエクリプスSの本命に推してきたのである。ところが、レース当該週を迎え、情勢は変わりつつある。英国は相変わらず天候が不順で、サンダウン周辺も雨が多く、タイムテストが望む馬場にはならないことが、ほぼ確実になってきたのである。

 場合によっては回避の可能性もあるタイムテストに代わって、ここへ来てブックメーカー各社が本命の座に据えたのが、エイダン・オブライエン厩舎のザグルカ(牡3、父ガリレオ)だ。

 オブライエン師は当初、エクリプスSには同じ3歳世代のドーヴィル(牡3、父ガリレオ)をぶつけ、ザグルカはグッドウッドのG1サセックスS(芝8F)に向かうとしていたのだが、26日(日曜日)になって急遽、ザグルカの矛先をエクリプスSに変更する可能性を示唆。前売りマーケットが大きく動くことになった。

 5月15日のG1仏二千ギニー(芝1600m)を5.1/2馬身差で快勝した後、6月14日のG1セントジェームスパレスS(芝8F)は2着だったのがザグルカだ。仏二千ギニーの直後、同馬のG1英ダービー参戦が噂され、実際にダービー前売り市場で同馬が1番人気の座に躍り出たことが、極めて短い期間ながらあったことを、熱心な海外競馬ファンならご記憶であろう。陣営の同馬に対する見解は当初より、マイル路線に特化する馬ではないというもので、馬場状態や相手関係を見ながら戦略の再構築を行った結果、このタイミングで10F路線のエクリプスSへというプランが急浮上したようだ。

 ただし、急遽の路線変更であることを陣営もはっきり認めており、出走態勢が整うかどうかは、今週の調教の動き次第であることを、オブライエン師は合わせて公言している。

 馬場悪化で評価が浮上しているのが、G1プリンスオヴウェールズS(芝10F)を最低人気で制して世間をあっと言わせたマイドリームボート(牡4、父ロードシャナキル)だ。同馬は、翌3日に仏国で行われるG1サンクルー大賞(芝2400m)にも登録をしているが、これまで11Fを越える距離のレースには出走したことがなく、常識的にはこちらに廻って来るというのが、大方の見るところだった。

 ただし、このメンバーに入って良馬場では足りないだろうというのが、前売りマーケットにおける評価だったのだが、前走のアスコット同様に、今週末のサンダウンも道悪巧者のこの馬にお誂え向きの状態になる公算が大きくなって、人気が急上昇している。

 これに続く4番手評価が、この路線の重賞4勝馬で、前走G1プリンスオヴウェールズS(芝10F)は3着だったウェスタンヒム(牡5、ハイチャパラル)だ。

 こうした古馬勢に対し、ザグルカとともに3歳勢の代表として挑むのが、前述したエイダン・オブライエン厩舎のドーヴィル(牡3、父ガリレオ)である。

 G3アークトライアル(芝11F5y)勝ち馬ザコルシカンの、2つ年下の全弟にあたるドーヴィル。2歳5月という早期デビューで、リストウェルのメイドン(芝7F)で緒戦勝ちを飾ったのに続き、レパーズタウンのG3タイロスS(芝7F)に優勝。その後は、ニューマーケットのG2ロイヤルロッジS(芝8F)からドンカスターのG1レイシングポストトロフィー(芝8F)という、英国で「ダービーへの登竜門」と目されている路線を進んだが、ここはそれぞれ2着と5着に敗れ、2歳シーズンを終えている。

 今季初戦となったのが、これもダービーへの最重要プレップと言われているG2ダンテS(芝10F88y)で、ここは勝ったウィングスオヴディザイヤの首差2着に健闘。前走G1英ダービーは11着だったが陣営は前走の敗因を「スタミナ切れ」と見ており、距離10F7yで、なおかつ、古馬との間に11ポンド(約5キロ)の斤量差があるここに照準を据えてきた。

 世代間の力量比較を見る上でも、エクリプスSは興味深い一戦となりそうである。

 なお、これも前述したように、翌3日(日曜日)には仏国でG1サンクルー大賞(芝2400m)が行われる。こちらは次の登録ステージが日本時間の水曜日夜に設定されているため、この原稿を書いている段階でははっきりしたメンバーは不明だが、現段階では、G1ガネイ賞(芝2100m)勝ち馬で、前走G1イスパーン賞2着のダリヤン(牡4、父シャマーダル)。G1ロワイヤルオーク賞(芝3100m)を含めて昨年7月から長距離路線を7連勝中で、12F路線への転身をもくろむヴァジラバッド(セン4、父マンデュロ)。G1ガネイ賞2着、G1イスパーン賞3着という、仏国のこの路線における安定勢力シルヴァーウェイヴ(父シルヴァーフロスト)、昨年のG1キングジョージ(芝12F)2着馬イーグルトップ(牡5、父ピヴォタル)らが登録に名を連ねており、こちらも見逃せない一戦となっている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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