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高い支持に応える完勝/ラジオNIKKEI賞

  • 2016年07月04日(月) 18時00分


成長しだいでこなせる距離の幅は広いタイプか

 54キロの軽ハンデと、1番枠の利をフルに生かしたゼーヴィント(父ディープインパクト)の快勝だった。最初にパドックに入った瞬間から落ち着きがなく、首を上げてチャカつくなど若い仕草が目立ったが、レースでは出負けすることもなく、巧みにインを通って追走。追い出してスパッと切れた。小回りコース向きの一瞬の切れに勝る印象があったが、接戦の2着争いを尻目に最後までしっかり伸びて1馬身4分の1差。高い支持に応える完勝だった。

 1980年代のビワハヤヒデ、ナリタブライアンの大成功を契機に輸入された「パシフィックプリンセス(1973年、米産、父ダマスカス)」から発展する一族の出身。現在は、今年2016年春から種牡馬入りしたキズナ(父ディープインパクト)、その半姉ファレノプシス(父ブライアンズタイム)が代表するファミリーといったほうが理解されやすいが、その母になるキャットクイル(父ストームキャット)も、ナリタブライアンなどの母になるパシフィカス(父ノーザンダンサー)も、そして今回のゼーヴィントの場合は3代母に相当するアサーティブプリンセス(父アサート)など、「パシフィックプリンセス」のファミリーとして日本に輸入された馬は、手元の資料だけでも12頭に達する記録がある。ゼーヴィントの出現で、また牝系の評価は高まることになった。

 これまでは必ずしも一般的ではなかったが、ほかにも多くの名牝系が確立したこれからは、たとえばパシフィックプリンセスの「4×5」、エアグルーヴの「4×4」など、ファミリーのベースになる牝馬のクロスもけっして特殊ではなく、数多く出現する時代となるのだろう。

 力でねじ伏せたというより、小回りで平坦に近い福島コースを巧みに乗り切ったという観点では、目下騎手ランキング1位の戸崎圭太騎手のリードが光った。その活躍はコースを問うものではないが、難しいコースになるほど信頼度は高まる。勝ち負けがみえたとき、最後の1ハロンのために残しておいた余力が爆発する。ゼーヴィントの今後だが、いまのところは成績通り1800-2000mが合うと思われるが、成長しだいでこなせる距離の幅は広いタイプか。

 9番人気で2着に粘り込んだ牝馬ダイワドレッサー(父ネオユニヴァース)は、牝馬で53キロのハンデだからけっして軽量ではなく、流れに乗って粘っただけではない。勝負どころでほぼ同じような位置にいたジョルジュサンクロードヴァンドールミライヘノツバサなどが失速した中、最後までがんばってアーバンキッド(父ハーツクライ)以下の追撃を封じたから見事なものである。強気に先行した石川裕紀人騎手の好騎乗だった。出遅れて追い込んだ「オークス」が勝ったシンハライトと0秒4差。秋華賞を目標にする公算が大きい。レース全体は、小回りコースでカーブが4回ある1800mながら、前後半が「47秒2-(12秒4)-47秒4」=1分47秒0という絵にかいたような平均ペースだった。恵まれた先行残りではない。

 ダイワドレッサーにアタマ差及ばず3着のアーバンキッドは、位置取りと通ったコースを考えると、6番枠と外の15番枠の差だろう。外々を回された距離の差は非常に大きかった。これで通算【1-3-1-2】。やや詰めが甘いが、母コックニー(父スウェイン)の半弟ダイワワイルドボア(父アグネスタキオン)は、08年のセントライト記念を制し、菊花賞でもそう差のない8着だった。ここまで1800mまでの経験しかないが、ハーツクライ産駒でもあり、もう少し距離が延びたほうが流れに乗りやすいだろう。

 ゼーヴィントと人気を分けたブラックスピネル(父タニノギムレット)は、この日、中京の新馬戦で半妹モーヴサファイア(父ハービンジャー)が快勝したので、いい流れが続いている(母モルガナイトは、宝塚記念のマリアライトといとこ同士)と思えたが、スタートで出負けしてしまった。仕方がなく後方に控える策に出たものの、バラける流れではない。3コーナーからスパートしたが直線はアーバンキッドのさらに外に回るしかなかった。上がりは34秒1。一応は最速でも、鋭く伸びたが届かなかったというより、57キロが示すほど能力上位でもないから、置かれて追走となった時点で苦しかった。トップハンデで、最外16番枠は厳しい。

 ゴール寸前の脚いろが良かったのは、小差4着のアップクォーク(父ベーカバド)。柴山雄一騎手の騎乗スタイルからして、ゴール寸前まだ脚があったように映るケースが多いから、過信できないところはあるが、タイキフォーチュン、タイキダイヤ、クラリティシチーなどの一族だからというだけでなく、ベーカバド(その父ケープクロス)産駒は、こういう平坦に近いローカルコースは合っている印象を与えた。

 四位騎手が駆けつけたロードヴァンドール(父ダイワメジャー)は、ここまでずっと先手を奪うレースをしていたので、やがてはともかく、行けずに好位追走では苦しかった。

 中京の「CBC賞」で珍しいラップが記録された。今季はいったいどんな芝コンディションなのか全国のファンが注目する中、突然、魔法のように変わった高松宮記念の週ほどではないが、中京の芝は確実に高速コンディションを求める方向に傾斜している。

 CBC賞は、「12秒2-(10秒7-10秒9-10秒9-10秒8)-11秒7」=1分07秒2。新潟の直線1000mでも出現しない不思議なハロンラップだった。前半33秒8-後半33秒4という妙に落ち着いたバランスで、なんと「10秒7-9」の高速一定ラップが4ハロンも連続したのは日本のレース史上初めてのはずである。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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