大きなプラスをもたらした絶好調=戸崎圭太騎手
この時期だから時計が速くなることはないと予測されたが、グランデッツァ(父アグネスタキオン。今春から種牡馬)の昨年のレースレコード「1分58秒2」に迫る歴代2位の速い時計「1分58秒4」の決着に持ち込まれた。レース全体の前後半1000mのバランスは、
▽15年 「59秒5-58秒7」=1分58秒2 (上がり34秒5)
▽16年 「57秒9-60秒5」=1分58秒4 (上がり37秒2)
決着タイムの差はないのに、逃げ馬のラップだけでなく、多くの馬が関係するレース全体の流れがまったく逆だったことが分かる。
昨年、好位からスパートして抜けた快速系グランデッツァの上がりは「46秒1(推定)-34秒3-12秒0」だった。一気のペースアップでレースレコードをたたき出している。
一方、14年の勝ち馬
メイショウナルト(父ハーツクライ)がぐんぐん飛ばし、これを
クリールカイザー(父キングヘイロー)、
ヤマニンボワラクテ(父キングカメハメハ)などが早めに仕掛けて追走した流れはきびしく、6〜7番手から抜けだすことになった今年の勝ち馬
アルバートドック(父ディープインパクト)の上がりは「47秒6(推定)-35秒9-12秒6」。前年と大きく異なっている。
小回りコースゆえ、大きく置かれては勝負にならない。前が飛ばせばスパートのタイミングも早くなりがちになる。人気勢の多くが、前後半の1000mに「2秒6」もの差が生じた前傾バランスの流れに少なからぬ影響を受けただろう。
求められたのは、きびしいレースを経験してきた実績と、いわゆる総合能力だったか。上位6着までに入ったのは、3着オリオンザジャパン以外、みんな「57〜58」キロを課せられたハンデの重い実力馬ばかりだった。これが今年の七夕賞の最大特徴と思われる。
3コーナーを過ぎ、ハイペースで飛ばすメイショウナルトを捕らえに出たのはクリールカイザー。切れ味勝負を避けたいから仕方がない。だが、メイショウナルトに並びかけた1600m標識通過は「1分33秒4」だった。これで残り1ハロンまで先頭、5着に粘り込んでいるから、結果的にスパートが強気すぎたが、長い脚部難休養があった7歳馬。この内容は見事なものである。ヤマニンボワラクテも挑戦者らしく果敢に攻めたが、こちらも予想外のハイペースに巻き込まれてしまった。
1番人気の
シャイニープリンス(父キングヘイロー)は、ちょうど中団の外で勝ったアルバートドックと前後する位置。「タフな芝コンディションが合わないのか、動きが重かった」というトーンの陣営のコメントがあったが、昨秋の福島記念が重馬場で10着。見た目よりタフで、レース上がりが37秒台になるような芝は不向き。消耗戦向きではなく、どちらかというと昨年の七夕賞のような流れ向き。マイラー色も濃く、総合力(スタミナ)勝負は合わなかったのだろう。
2番人気の
ルミナスウォリアー(父メイショウサムソン)は、最初から行き脚がつかずとくに見せ場なしの8着。期待の上がり馬は、もともと攻め馬で動く馬ではなく、さらに中2週とはいえ、あまりに平凡な調教で当日も元気がなかった。この時期の少々タフな福島の芝が合わなかったこともあるが、休み明けで快勝した前回の反動か、今回は状態一歩だったと思える。
勝ったのは、3番人気のアルバートドック。キビキビして一段とシャープに映り、気配満点のパドックだった。大きなプラスをもたらした絶好調=戸崎圭太騎手のスキなしの位置取りも、他の有力どころを見据えたスパートのタイミングも文句なしだった。これで右回りの芝は【5-2-3-5】。左回りは出走経験が少ないとはいえ、2度凡走の【0-0-0-2】。イメージとするといかにも新潟コース向きに思えるが、予定する新潟記念では左回りのコースと、最低58キロは必至のハンデを克服したい。そのとき天皇賞・秋へ展望が広がる。
輸入牝馬の母ゴールデンドックエー(父アンユージュアルヒート。その父ヌレイエフ)は、北米の6〜8Fで3勝だが、その全兄アンユージュアルサスペクトはハリウッドターフC(G1、かつてジョンヘンリーが勝った芝12F)など北米9勝の活躍馬。祖母ペンポイント以前はニュージーランドの生産馬で、アルバートドックから数えて4代母ブラックウィロー(1971)は、NZの2歳牝馬チャンピオン。ニュージーランド→USA→日本と移ってきたファミリーになる。
そのアルバートドックと、2月の小倉記念1800mでアタマ差2着だった8歳
ダコール(父ディープインパクト)が、今回も小差で2着。小倉記念は相手55キロに対し58キロ。今回は相手57キロに対し58キロ。若い4歳アルバートドックに追いつかれ、もう抜かれかけているという数字だが、しかし、今回はシャープにすっきり見せる好馬体で、動きもとても8歳とは思えないから素晴らしい。ピタッとアルバートドックをマークし、最後まで並びかけようとしていた。サマーシリーズでもうひと花があるかもしれない。
53キロを味方に3着に突っ込んだ
オリオンザジャパン(父クロフネ)は、柔らかい身のこなしが光ったが、レースになると、前半は突っ張るような脚さばきで置かれてしまった。中盤からリズムを取り戻して大跳びのストライドになり、ゴールドシップの皐月賞(内田博幸騎手騎乗)のようなインから進出のコース取りで追い込んできた。課題は前半のもたつきと、このあと予測される高速馬場の時計勝負か。今回のような全体にタフなコンディションのほうがいいような気がする。
厳しい流れに乗って先行し、直線はぶつかりながら6着に粘った7歳
マーティンボロ(父ディープインパクト)、一旦はインから3着に突っ込んだのではないかとみえた8歳
マイネルラクリマ(父チーフベアハート)は、軽ハンデ組の失速が目立ったなか、重い57〜57.5キロで大好走だった。現在の勢い及ばず負けたとはいえ、これは見事なものである。