スマートフォン版へ

驚異的な発展を遂げている「アルカナ・ドーヴィル8月1歳セレクト市場」展望

  • 2016年07月13日(水) 12時00分


今年もドーヴィル8月1歳セレクト市場の出身馬は欧州各地で顕著な活躍を見せている

 先週お届けした「ファシグティプトン・サラトガ1歳セレクト市場」に続いて今週は、8月14日(日曜日)から17日(水曜日)まで、フランスのドーヴィルで開催される「アルカナ・ドーヴィル8月1歳セレクト市場」の展望をお届けしたい。

 7月11日のJRHAセレクトセール1歳部門で幕を開けた、北半球における今年の1歳市場サーキットは、ファシグティプトンによるアメリカ・ラウンドを終えると、今回ご紹介するアルカナ・ドーヴィルからヨーロッパ・ラウンドに突入する。

 かつては上場馬の主体がフランス産馬で、しかもフランス繋養種牡馬の質が高くなかった時代もあって、欧米各国のプレミア市場の中では「トップマーケット」とは言い難かったのがドーヴィル8月セールだったが、ここ10年ほどの間に見せた急速な躍進で、今や、英国や愛国のプレミア市場に比肩するスケールとクオリティを誇るマーケットに成長した。数字で示せば、西暦2005年には2288万ユーロだった総売り上げが、2015年には4197万ユーロに。2005年には7万0196ユーロだった平均価格が、2015年には16万3292ユーロにと、マーケットとしてスケールが1.8倍に、クオリティが2.32倍に成長するという、驚異的な発展を遂げている。

 上場馬の水準が上がれば、出身馬の成績が向上するのも道理で、今年も同市場の出身馬は欧州各地で顕著な活躍を見せている。

 筆頭が、6月5日にシャンティイで行われた今年のG1ジョッケクルブ賞(=仏ダービー、芝2100m)を制し、仏国3歳世代の頂点に立ったアルマンゾル(牡3、父ウートンバセット)。14年のドーヴィル8月1歳市場にて10万ユーロ、当時のレートで換算しておよそ1370万円で購買された馬だ。デビューからここまでの成績を7戦5勝としたアルマンゾルについて陣営は、2000mを最適距離と考えており、現状では秋の凱旋門賞(芝2400m)には向かわない公算が大きいのだが、それでもブックメーカー各社は凱旋門賞へ向けた前売りで同馬に、15〜17倍のオッズを付けて上位人気の一角に加えている。

 今年の3歳世代には牝馬にも、14年のドーヴィル8月1歳市場にて20万ユーロ(約2740万円)で購買され、ロイヤルアスコット4日目のG1コロネーションS(芝8F)を制したケマー(牝3、父デインヒルダンサー)という大物が出現している。重賞入着実績が3度ある母カルティカの初仔となるケマーは、今後の欧州マイル路線の主役の1頭となることが期待されるとともに、将来の繁殖牝馬として計り知れない価値を持つことになった。

 一方、古馬勢に目を転じれば、5月14日にニューバリーで行われたG1ロッキンジS(芝8F)で自身2度目のG1制覇を果たし、ロイヤルアスコット初日のG1クイーンアンS(芝8F)でも2着に入ったベラード(牡4、父ロペドヴェガ)が、13年のドーヴィル8月1歳市場にて10万ユーロ(当時のレートで約1300万円)で購入された馬である。

 こうして改めて振り返ると、この市場ではA級馬が比較的お手頃な価格で購買されていることに、改めて気付かされる。

目玉商品となりそうなのがラクレソニアの全弟

 373頭を数える今年の上場馬も、粒揃いである。

 目玉商品となりそうなのが、上場番号154番の、父ルアーヴルの牡馬だ。今年フランスには、デビューから7戦7勝の負け知らずで、G1仏1000ギニーとG1仏オークスの2冠を達成したラクレソニア(牝3、父ルアーヴル)というスーパー牝馬が出現しているが、そのラクレソニアの全弟にあたるのが上場番号154の牡馬なのである。父の直仔は日本で走ったことがほとんどなく、日本のファンの皆様にはあまり馴染みがないかもしれないが、これまでにも例えばアヴニールセルタンのような名牝を輩出しているトップサイヤーがルアーヴルで、トップラインはラーイであることを鑑みれば、日本の競馬にも対応できる血脈と見てよいと思う。

 目玉商品を牝馬から選べば、真っ先に挙がるのが上場番号97番だろう。父ガリレオ、母プルデンシアという血統の本馬は、13年のG1愛オークス勝ち馬チキータの半妹にあたるのである。濃厚なヨーロピアン血脈を背景としているだけに、本馬自身の日本適性には懸念が残るかもしれないが、将来の繁殖牝馬としての価値を考えれば、日本人にとっても非常に魅力的な1頭である。

 種牡馬で言えば、今年2歳の初年度産駒が欧州でロケットスタートを決めているフランケルの、2世代目となる馬たちが9頭上場されているのが注目される。

 中でも、G1バイエルン大賞勝ち馬サイズモスの半弟で、活力旺盛なドイツ血統を牝系に持つ上場番号113番の牝馬は、ことさらに購買者たちの視線を集めそうだ。

 今年の2歳が初年度産駒となる新種牡馬では、アンテロ、キャメロットの産駒が、出来が良いと生産地で話題になっている。

 2013年のG1仏ダービー馬で、G1仏2000ギニーやG1ジャックルマロワ賞でも3着となったアンテロの産駒は、G1カドラン賞勝ち馬ミレアミレの半弟にあたる上場番号100番の牡馬を筆頭に、19頭が上場予定。

 英国における2012年の準3冠馬キャメロットも、2011年の欧州2歳チャンピオン・ダビルシムの半妹にあたる上場番号110番の牝馬を筆頭に、こちらも19頭が上場を予定している。

 英国のEU離脱決定後、不安定な情勢にある世界経済が、競走馬市場にも影響を与えるのかどうかを含めて、例年以上に見逃せないマーケットとなりそうである。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング