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人々の心を動かす名馬・カネヒキリ みちのくで最後の勝利/マーキュリーC

  • 2016年07月17日(日) 18時00分


度重なる怪我から何度も立ち上がった勇姿


カネヒキリの最後の勝利となった2010年マーキュリーC、5馬身差の独走だった


 7月18日(祝・月)、盛岡競馬場で行われる『第20回マーキュリーC』は、みちのくの短い夏を彩る2000mの重賞。岩手の雄・メイセイオペラがかつてそうであったように、ここを足がかりに秋以降のステップアップを図る馬たちが集結します。

 このコラムの帝王賞の回で、アジュディミツオー対カネヒキリの名勝負を振り返りましたが、そのカネヒキリが、自身最後の重賞制覇を飾ったのが2010年のマーキュリーCでした。先日お約束した通り、2006年の帝王賞で2着となったカネヒキリがその後たどった道についてお話したいと思います。

 王者の戦い、まさに死闘とも言えるアジュディミツオーとの一戦を終えたカネヒキリはその後、屈腱炎を発症。さらに2007年、復帰に向けて調整中にまたしても右前浅屈腱炎を発症してしまいます。臀部の幹細胞を右前脚の腱に移植するという大手術を決行し、療養を終えレースに復帰したのは2008年11月の武蔵野S。実に2年5ヶ月もの月日が経っていました。

 復帰戦は9着に敗れましたが、2戦目のジャパンカップダートを快勝。2006年のフェブラリーS以来、2年10ヶ月ぶりの勝利を挙げます。続く東京大賞典で、あの帝王賞以来、再び大井の地を踏むことができたカネヒキリ。「かつての王者」ではなく、「復活した王者」として見事に東京大賞典も制し、2008年度JRA賞最優秀ダートホースに選出されます。

 翌2009年の川崎記念では単勝1.1倍の人気に応え、フリオーソを差し切って勝利。その後はフェブラリーSで3着。かしわ記念で2着となったレース後、今度は骨折が判明。約1年間の休養を余儀なくされます。

 2010年、すでに8歳となっていましたが、復帰戦は帝王賞でフリオーソの2着。このとき初コンビを組んだ横山典弘騎手が「初めてレースに乗ったけど、本当に凄い馬だね!」と、一流の背中の感触に頬を紅潮させ興奮気味に語っていたのが印象的でした。

 そして迎えた『第14回マーキュリーC』。道中逃げていたマコトスパルビエロを3コーナーで馬なりのままかわし、先頭に立つと、あとはもう他馬は離されていく一方。圧倒的な強さのゴールシーンに、盛岡競馬場のスタンドからは自然と大きな拍手が沸き起こりました。

ウイニングランの様子。多くのファンが声援を送った


「本当に強いですね。骨折したり屈腱炎になったり、普通の馬だったら克服できないような怪我を見事にはねのけて勝つんですから、素晴らしい馬です。(前走の)帝王賞でも感動したけど、今日も感動しました。格が違います。オグリキャップらと同じで、こんな馬にはめったに出会うことができない。本当に素晴らしいです!」

 横山典弘騎手のレース後のこのコメントがすべてを語ってくれていると思います。度重なる怪我から何度も何度も立ち上がった姿は、多くの人々を励ましてくれたことでしょう。まさに見る者の心を動かす馬でした。

マーキュリーCの口取りの様子


 その後、ブリーダーズゴールドCで2着となったのち屈腱炎の再発で引退、23戦12勝で競走生活を終えます。種牡馬入りし、トロヴァオ、コールサインゼロらダートの活躍馬を輩出していましたが、今年5月27日に種付け中の事故により天国に旅立ってしまいました。

 馬名はハワイ語で「雷の精」という意味。波乱万丈な馬生を送ったカネヒキリでしたが、レースを見た者はまるで雷に撃たれたようにその魅力にひきつけられる、強く美しい馬でした。「ありがとう、カネヒキリ」と、感謝の言葉を送りたいです。

2年連続の地方馬の勝利となるか


 お待たせしました。それでは今年のマーキュリーCの注目馬を見ていきましょう。今回は嬉しいことに地方勢に有力馬がずらりと揃いました。地方馬の上位独占も夢ではありません。

 まず筆頭は大井のユーロビート。昨年のマーキュリーCでソリタリーキングに6馬身差をつけてダートグレード競走初制覇。その後は勝ち切れないレースが続いていますが、今年に入って重賞で2着、3着、3着と馬券圏内を外さない好走。さらに前走・帝王賞では強豪相手に地方馬最先着の5着に健闘。連覇に向けて視界良好です。

昨年のマーキュリーCでは6馬身差の圧勝を演じたユーロビート(撮影:武田明彦)


 JRA所属時代に兵庫ジュニアグランプリ、シリウスSを制している大井のケイアイレオーネ。今年の4月、移籍後の初勝利を挙げると、連勝で前走・大井記念を制覇。後続を大きく引き離しての勝利で、ユーロビート(3着)にも先着しています。鞍上は的場文男騎手。自身が持つ最高齢重賞勝利記録のさらなる更新なるかにも注目です。

ケイアイレオーネは大井記念を圧勝、ユーロビートには1.0秒差をつけた(撮影:武田明彦)


 大井記念でケイアイレオーネの2着だった船橋のクラージュドール。JRAでオープン入りしたのち船橋に移籍し、今回が4戦目。父キングカメハメハ、母レクレドールはステイゴールドの全妹という良血馬。徐々に成績を上げており、今回はミルコ・デムーロ騎手とのコンビでさらなる前進を狙います。

 昨年4着、船橋のタイムズアロー。2月に報知グランプリCを制し、今年は重賞ウイナーとして挑みます。さらにホッカイドウ競馬に移籍したナムラビクターもJRA所属時代に2014年のアンタレスSを制した重賞ウイナー。多彩なメンバーが揃った地方勢に、大きく期待がふくらみます。

 JRA勢の筆頭はソリタリーキング。このレース4年連続の出走です。2013年に勝利したのち、2014年は5着、昨年は2着。昨年暮れの名古屋グランプリ(4着)以来となる9歳馬。休み明けでどこまで仕上がっているかがポイントです。

中央勢の筆頭は2013年のマーキュリーC優勝馬のソリタリーキング(写真は2012年東海S優勝時)


 他にも、昨年の白山大賞典を制しているマイネルバイカ、今年の佐賀記念を勝ったストロングサウザー、このレースで2012年2着、2013年3着の9歳馬グランドシチーなどJRA勢も個性的なメンバーが揃って、大激戦が予想されます。

 当日は盛岡競馬場開設20周年記念『ジャパンジョッキーズカップ2016』も行われる盛岡競馬場。全国のトップジョッキーたちが「Team JRA」「Team EAST」「Team WEST」に分かれて、3つのレースでポイントを競うチーム対抗戦。名手たちの手綱さばきからも目が離せません。見どころ満載な18日の盛岡競馬にご注目ください。

※次回の更新は8月10日(水)の18時。門別競馬場で行われる「ブリーダーズゴールドC」のコラムをお届けします!



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【ダートグレード競走とは】
中央競馬・地方競馬の交流を促進し、ダート適性のある実力馬の出走機会の拡大を図るため、全日本的な見地から体系づけられたダート交流重賞競走の総称。

埼玉県出身。フリーアナウンサー。競馬好きが高じてこの世界へ。2001年から15年間、グリーンチャンネルで「中央競馬全レース中継」のキャスターを務める。2016年度から「グリーンチャンネル地方競馬中継」のコメンテーターとして出演。さらに全国各地の競馬場のトークイベントに参加するなど、中央競馬・地方競馬の垣根を越えて活躍中。

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