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最大限の能力を発揮させた戸崎騎手/関屋記念

  • 2016年08月15日(月) 18時00分


昨年とは一転したレースの流れ

 昨年の出走馬が「1着レッドアリオン、2着マジェスティハーツ、3着ヤングマンパワー」以下、計5頭も再登場したが、レースの流れは一転した。

 昨年は、前後半「47秒9-44秒7」=1分32秒6、今年は、前後半「45秒7-46秒1」=1分31秒8。

 勝ちタイムの差「0秒8」はそう大きな違いではないが、昨年は前後半の差が3秒2もあった超スローの後傾バランスだったのに対し、今年はまったく逆に前半の半マイルのほうが0秒4速い前傾のハイペースに転じた。昨年は直線に向くまでの前半1000m通過が「59秒3」だったのに対し、今年のそれは「57秒1」。2秒2も速い厳しい流れである。

 長い最後の直線約660mを意識し、スローペースの関屋記念が多くなっていた。どの陣営(騎手)にも、今年も「流れはあまり速くならないだろう」。そんな読みがあったのは想像に難くない。

 スタートすると、好スタートを切ったピークトラム(4番人気。小牧)がいきなり先頭に立ち、それをかわしてロサギガンティア(2番人気。デムーロ)が先行する構えをみせた。昨年は押し出されるようにハナに立ったレッドアリオン(昨年の前半3ハロン36秒4)には、昨年の好結果があるから、「行って欲しい」の指示が出ていた。

 少し気合をつけるように途中から先頭に立ったレッドアリオン(9番人気。内田)は少し行きたがるように、前半3ハロン34秒4。いきなり昨年より2秒0も速い展開が生まれ、これが前半1000m通過57秒1の厳しい流れにつながったのである。昨年「1分32秒6」だった勝ち時計は、今年はレコードと0秒3差の「1分31秒8」が記録された。

 外回りの直線(約660m)を使用する新潟のレースは、距離を問わず、「直線1000m」のレースに中身が連動するようなところがある。速いペースで展開すればつれて全体時計が速くなるというものではなく、前半1000m通過57秒1の流れに乗ったグループはさすがにきつかった。

 ジェンティルドンナの全姉ドナウブルー(父ディープインパクト)が1分31秒5のレコードを樹立した2012年の関屋記念は「47秒0-44秒5」=1分31秒5であり、先行して抜け出したドナウブルーの中身は「1000m通過58秒9-上がり32秒6」だった。明らかなスローなので今年と比較するのは難しいが、超スローだった昨年、一転してハイペースだった今年、そしてドナウブルーの年を参考にすると、出走馬のレベルにもよるが、直線660mだけのレースに徹してさえも全体時計が速くなる新潟1600mでは、前半1000m通過はきつすぎず、かといってスローすぎず、無理のかからない「58秒台前半」が理想か。このくらいで追走できると速い時計が生まれる。

 先行抜けだしも可能だが、前がちょっと「飛ばしているのではないか…」と、先行勢の直後でちょっと引くように距離を置いて追走したのが、戸崎圭太騎手の3番人気馬ヤングマンパワー(父スニッツェルはデインヒルの孫世代)だった。ヤングマンパワーの1分31秒8の中身は「58秒1-33秒7」だった。前2戦のマイル戦を、ともに自身は1000m通過58秒4-58秒5で通過して結果を出しているヤングマンパワーにとっては、いつものレースだったのである。

 前走に続いての2度目の騎乗だったとはいえ、コースも、全体のペースも異なる中で、ヤングマンパワーのリズムをフルに生かし切り、現時点で最大限の能力発揮をいとも簡単に成しとげた戸崎圭太騎手は鮮やかである。このペースだと、3年連続のリーディングジョッキーは前2年を大幅に上回る210勝前後にも達するかもしれない。

 素晴らしい上昇をみせたのは2着に惜敗のダノンリバティ(父キングカメハメハ)だった。これまでの折り合いの難しさ、速い脚の使いどころの難しさを払拭するように、1分31秒8。前半はひかえて追走するのがパターンだったが、ロサギガンティア、ピークトラムなどと同じように先行策を取り、レッドアリオンの作った厳しい流れを追走し、自身のレースの中身は「57秒6-34秒2」=1分31秒8。マイルの最高時計を1秒3も短縮してみせた。2歳夏、新潟芝1800mの新馬を上がり33秒3で差し切り、昨年の夏の新潟ではダートに転じて【1-1-0-0】の星を残した夏の新潟を好むコース適性があったとはいえ、レース全体の流れを考えると、勝ったヤングマンパワーと互角以上の評価をしていいだろう。

 母スカーレットベル(父エリシオ)、祖母スカーレットレディ(父サンデーサイレンス)の牝系は、スカーレットインクのファミリーの中ではダート巧者を多く送るライン(ヴァーミリアンなど)とされるが、平坦新潟とはいえ自身の1000m通過が57秒台で、マイルを1分31秒台はきわめて難しく、価値ある記録である。推定前後半バランスは「46秒2-45秒6」であり、直線が平坦のマイルチャンピオンSで勝ち負けに持ち込める平均スピードを示す数字でもある。スカーレットインク一族のタフな成長力は誰もが認めるところであり、これで松若風馬騎手と【1-1-0-2】となった。

 マジックタイム(父ハーツクライ)は、ルメール騎手が予想されたより速い流れを読むように後方から徐々に進出して自己最高の1分32秒0(上がり最速の33秒1)。休み明けでも仕上がってはいたが、完調にはなにか足りない印象もあったから、ほぼ能力は出し切っているだろう。ここまでの良績は1600m以下だが、中2週で出走できるなら、5歳のいま新潟記念の2000mでもマイナスはないように思える。

 ロサギガンティア(父フジキセキ)は、上がりが高速必至の新潟では先行策をとることの多いデムーロ騎手らしく、いつもより先に行く形になったが、やっぱり1600mではちょっと最後が甘かった。同じような位置にいたダノンリバティに離された点が物足りない。

 ピークトラム(父チチカステナンゴ)は、先行策が良くなかった面もあるが、中京記念の好走馬は関屋記念では苦戦のパターン通りだった。持ちタイムはあっても、それは勝ち負けした際のものではなく、タフな芝になることの多い中京のマイルは合っていても、ここまで時計が速くなる新潟の高速レースは合っていないということか。5番人気に支持されたケントオー(父ダンスインザダーク)も同じ。9着凡走とはいえ自己の最高時計は0秒8も短縮している。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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