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感じられた豊かな将来性/新潟2歳S

  • 2016年08月29日(月) 18時00分


オークスを展望できるような中距離タイプを思わせた

 昨15年の牡馬ロードクエスト(上がり32秒8で4馬身差)、あるいは2013年の牝馬ハープスター(上がり32秒5で3馬身差)など、直線一気を決めた勝ち馬と比較すると、必ずしも印象的な勝ち方を示したわけではない。しかし、中位から抜け出して勝った牝馬ヴゼットジョリー(父ローエングリン)には豊かな将来性が感じられた。

 新馬戦もそうだったが、今回もスパッと切れたわけではないのに、抜け出してからの伸び伸びした大きなフットワークが印象的だった。父方の祖父になるシングスピール(かかりながらドバイワールドCを制したサドラーズウェルズの孫)と、母の父になるサンデーサイレンスとの組み合わせでヘイローの「4×3」。父ローエングリンは菊花賞挑戦に失敗して以降、マイル路線になったが、もともとはマイル向きのスピード系とは縁もゆかりもないくらいの中・長距離系であり、代を経たこのヴゼットジョリーは、たまたま新潟2歳S1600mを制してみせたが、桜花賞というよりは2400mのオークスを展望できるような中距離タイプを思わせた。

 ローエングリン産駒で最初に頭角を現したロゴタイプ、ゴットフリートがマイラータイプであり、母の父サンデーサイレンスまで同じとなると、たしかにマイル戦は平気だろうし、ヴゼットジョリーには半姉にスピード型のベルルミエール(父スウェプトオーヴァーボード)がいることや、また3代母ベルエシェールの半姉に英1000ギニーなどを制して全欧2歳牝馬チャンピオンになったマビシュ(父はボールドルーラー直仔のキイトゥザキングダム)がいることを考慮してもなお、レース運びやゆったり見せるフットワークからして、どちらかというと「平均ペース型に思える」というレース直後の多くの記者の感覚が当たっている気がする。

 レースの流れはもちろん予想された通りのスローだったが、人気上位馬に早めに動ける自在型が多かったため、前後半「48秒5-45秒8」=1分34秒3の数字は明らかなスローでも、直線だけの切れ味勝負になった印象は薄い。

 そんな中、「ポジションを取りに行くと、ガツンとなる危険がある(岩部騎手)」気性を考えた伏兵6番人気のオーバースペック(プリサイスエンド)は、注文をつけて最後方からのレース。直線に向いて外に出すと、上がり最速の32秒9でゴール寸前、素晴らしい勢いで突っ込んできた。

 ミルファームの生産馬で、父は産駒にダートの短距離タイプが多いプリサイスエンド。実はその父エンドスウィープ系の広がりはすごいが…。母の父キャプテンスティーヴ(父フライソーフリー)は、ドバイワールドCの勝ち馬(2着トゥザヴィクトリー)として期待されたが、12年間の供用で残念ながらGレース勝ち馬を送れないまま16歳で13年に急死。美浦の南田厩舎所属で、鞍上は重賞未勝利の岩部純二騎手(40)。

 ハデな活躍をしているわけではないという意味で、かなり地味な印象を与え、オーバースペックは当初の評価はあまり高くなかったとされる。だが、美浦に入厩して調教が進むうちにスタッフの評価が大きく変わったと伝えられる。9番人気の新馬戦でメンバー中の最速の上がりを爆発させて以降、ここまで3戦連続して上がり最速である。今回のゴール前もまだ脚は十分に残っているのではないか思えるほど迫力があった。大跳びの素晴らしいストライドである。

 4代母ホクセーミドリ(父ヴェンチア)は、現在のラジオNIKKEI賞が福島に移った最初の年の勝ち馬。その母フェアリーテイル(父シカンブル)は、非常に珍しいベルギー産。血統背景はもちろん、さまざまな点で意外性に満ちている。ここまで素質馬と巡り会うことが少なかった「岩部純二騎手とのコンビ」で、ぜひ路線に加わって欲しいものである。

 早め早めの位置取りで、一度は抜け出しかかったイブキ(父ルーラーシップ)は、鋭く切れるタイプではないので積極的なスパートになったが、それでも最後にはやっぱり鋭さ負け。心配された通りマイル戦は合わなかった。まして高速上がりの新潟である。でも、この内容なら、もう少し距離が延び、レース経験を重ね、総合力の問われるレースになったら本領発揮だろう。

 1番人気に支持された牝馬モーヴサファイア(父ハービンジャー)は、内枠でスタートが良くなかった。うまくエンジン全開に持ち込めた際のハービンジャー産駒と、そうでないときのハービンジャーの落差は大きい。秘めるスケールを発揮するのに新潟コースは合っていることもあるが、それは少頭数のバラけた展開。JRAで一番副員の狭いコースで、この多頭数の一団に近いスローのレースは、合わない。内枠が痛かった。

 主導権をにぎった伏兵アピールバイオ(父ネオユニヴァース)も、はっきり高速のマイル戦向きではなかった。前半「36秒0-48秒5-60秒7→」のマイペースは、ほかのコースなら理想のマイペースになるが、新潟ではこのペースだと最低でも上がり33秒台前半でまとめる鋭さを兼備していないと善戦止まりになる。2歳戦では難しいが、外回りの新潟で、スローがみえているレースで主導権を握ったら、もっと飛ばす策がある。伏兵に離して飛ばされると、後続は打つ手がない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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