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成功には何のトリックもない

  • 2016年09月08日(木) 12時00分


スムーズに走れるように、この馬のいつも通りのリズムで


 人生百般のことに関して、古人の体験に根ざしたすぐれた知恵を端的にことばにしたもの、それをことわざと言うが、「急(せ)いては事を仕損じる」は、よく使われてきた。その気持はよく分かるが、それではいけないと自分に言い聞かせることはあっても、必らずしもうまくいくとは限らないから、困るのだが。そんなとき、アメリカの実業家カーネギーのことばはよく利く。「成功には何のトリックもない。私は、与えられた仕事に全力を尽くしただけだ」と。どうしたらいいか、そのめざす方向が見えてくる。

 中央競馬全10場の重賞制覇を目前にした新潟記念にのぞむにあたり、横山典弘騎手が取材に応えたときの記事を読み、これはと思った。「自分のことは二の次、それよりまわりのこと、馬のことという思いは、昔よりも強くなったように思う。できるだけの準備をして競馬に向かうのは、未勝利戦だろうと500万の条件だろうと同じこと。あとは馬が頑張ってくれる」と。そしてレースでは、アデイインザライフをどう走らせたらいいのかだけに集中し、「急いては事を仕損じる」を念頭に、後方から2番手でゆったりと構えていた。「器用な馬じゃないから、ちょっとでも不利を被ると致命傷。スムーズに走れるように、この馬のいつも通りのリズムで」と、どんなに逃げ馬が大きく引き離していても動じるところはなかった。

 「出来るか出来ないかわからぬ時は、出来ると思って努力せよ」と言うが、アデイインザライフが思い通りに走っている背中にあって横山騎手は、こんな気持になっていただろう。直線は大外へ、進路を邪魔するものはなく、最後まで脚を伸ばすだけと追い込んできた。「エンジンをかけたまま、何の不利もなく走らせたかった」と願った通りのレース振り。馬体調整に5ヶ月を要した結果、パワーアップした姿を見せてくれた。この初タイトルを糧に秋の飛躍が楽しみになったが、「希望は人を成功に導く信仰である。希望がなければ何事も成就するものではない」というヘレン・ケラーのことばを添えておきたくなるその勝利だった。「成功には何のトリックもない」のだ。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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