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“大人しいけど自分を持っている”アドマイヤボスの今/動画

  • 2016年09月13日(火) 18時01分
第二のストーリー

▲2000年のセントライト記念優勝馬、アドマイヤボスの今(撮影:下野雄規)


ベガの息子とダイナカールの息子が共に


 アドマイヤボス。1993年の桜花賞、オークスを制したベガの息子で、1999年のダービー馬アドマイヤベガの弟。自身は、およそ1年3か月という短い競走馬生活の間に、2000年のセントライト記念に優勝し、同年の有馬記念で5着と好走するなどの活躍をした。

 2002年に種牡馬入りし、兄アドマイヤベガが急死した翌年の2005年には種付け頭数が157頭を数えたが、その年を頂点として種付け頭数は減少。2010年の18頭を最後に種牡馬登録が抹消されている。種牡馬生活を終えたアドマイヤボスは、北海道苫小牧市のノーザンホースパークでジャパン・スタッドブック・インターナショナルの引退名馬繋養展示事業助成金を受けながら余生を送っていた。

 そのアドマイヤボスが、茨城県龍ケ崎市にある乗馬クラブクレイン竜ケ崎にいると知ったのは、半年ほど前だった。以来、機会を窺っていたのだが、ボスが制したセントライト記念を前にして、念願の取材が実現した。

 乗馬クラブクレインの設立は1971年。東北から九州までグループ展開する日本最大規模の乗馬クラブだ。31か所ある事業所の1つ、乗馬クラブクレイン竜ケ崎は、トレッキングができる森林コースが併設されており、敷地内にも緑が多く、自然豊かな環境の中で乗馬を楽しむことができる。

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▲クレイン竜ケ崎のレッスン風景


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▲トレッキングができる森林コース


 案内された第5厩舎に、アドマイヤボス(セン19)がいた。呼びかけながらカメラを向けても、ひたすら下を向いて乾草を食べ続け、全く顔を上げようとしない。

「とても大人しいですけど、自分を持っている馬なんですよ」と話すのは、この日案内してくれた乗馬クラブクレインの桐原陽子さんだ。目の前に食べ物があれば、見知らぬ人間を無視するのはわかるが、そのしれっとした態度が桐原さんの言う「自分を持っている」という性格をよく表している。

 撮影までの間、ボスにはしばらく乾草を堪能していただこうと、通路を挟んだ向かいの馬房に目を転じると「カーリープリンス」というプレートが目に入った。聞き覚えのある馬名だと思って検索してみると、1988年4月9日生まれで父パドスール、母はオークス馬のダイナカールと出てきた。つまりあのエアグルーヴの半兄にあたる。

 競走馬として走っていた年代は違っているものの、ベガの血を引くアドマイヤボスと、ダイナカールの血を引くカーリープリンスという、ともに名牝を母に持つ馬が、同じ乗馬クラブの厩舎内でお向かい同士で過ごしている。何となく不思議な感覚に襲われた。

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▲カーリープリンス、ベテランの貫禄か人が来ても意に介することなく乾草に夢中


 ちなみにカーリープリンスは、1988年生まれなので今年28歳だが、乗馬としてバリバリの現役だ。このクラブのことは、主のようにすべてわかっているという。

「初心者を乗せたらピカイチです。ハイハイ、常歩をして次は速歩ですねと、自分がどうすればいいのかをちゃんと理解しています。仕事が終わったら、さっさと帰ろうとしますしね(笑)」(桐原さん)

 元気一杯のカーリープリンスだが、高齢のためご飯は人間で言う「おかゆさん」のような感じなのだとか。「年に1回は、フランス人の歯医者さんに診て頂いています」と、健康管理もしっかりされていて、これが今も現役でいられる秘訣なのかもしれない。

「頑固なおじいさんで、新入社員いびりもしますよ(笑)。新入社員はほとんどが自分より年下ですし、新入りがいびられた時には『カーリー』と呼び捨てにしないで『カーリーさん』と呼ばないと言うこときいてくれないんじゃない? とアドバイスしたりもしています(笑)」(桐原さん)

 初心者にとって素晴らしい先生であり、新入社員にとっては厳しい先輩でもあるカーリープリンスは、クレイン竜ケ崎にはとても大切な1頭だということが、桐原さんの語るエピソードからも十分伝わってきた。

競走馬時代からのファンもボスをサポート


 カーリープリンスの撮影を終えると、草に未練がありそうなアドマイヤボスを外に連れ出してもらった。撮影場所となる馬繋場へとゆったりした歩様で進むボス。元競走馬であり、種牡馬だったとは思えないほど、のんびりしている。馬繋場に繋がれると「せっかくの写真撮影だから」と、桐原さんに顔をきれいに拭いてもらう。ボスの顔が初秋の日差しに照らされて黒光りし、さらに男前になった。

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▲馬繋場へとゆったりした歩様で進むアドマイヤボス


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▲元競走馬であり種牡馬だったアドマイヤボス、初秋の日差しに照らされてさらに男前になった


 アドマイヤボスが、ノーザンホースパークからクレイン竜ケ崎に移動してきたのは昨年のこと。助成金の対象から外れ、乗馬として新たな一歩を踏み出していたのだ。

「ボスは夏バテをする体質でしたので、こちらに来てからまず体調を整えました。クレインには10人くらいが1チームになって、1頭の馬の調教をスタッフと一緒に進めていくプランがあります。ボスの場合は、夏バテ体質もあって体力が少し落ちていましたから、チームではまずケアをしてあげるところから始めていき、今は乗れるようになっています。現在もチームの方たちがボスに関わっていますし、扱い方を理解している特定の方が触れることによって、馬も安心しているようです」(桐原さん)

 競走馬時代からのボスファンの会員さんも、チームの一員になっている。大好きだった元競走馬にこれだけ深く関われるというのは、ファン冥利に尽きるのではないだろうか。

「ボスも含めてここの馬たちは、営業時間前にコンディションを整えるために調教をしています。若い馬はしっかり運動しなければいけませんが、ボスくらいの年齢ですと、体の関節をほぐして内臓が適度に動くくらいの運動を朝行います。彼は会員さんを乗せるわけではなく、調教チームに入っている人たちのスケジュールに合わせて1日何回か馬場に出ています。

 速歩、駈歩はもちろん普通にできるのですが、腰の部分のケアをしながらなので、チームの会員さんたちは速歩くらいまでの運動でのんびりさせています。あの年齢なので、これからもさほどハードにはさせないと思います。大人しいですし、ゆくゆくはベーシッククラスあたりでポコポコ乗るくらいはできるのかなとは考えていますけどね」(桐原さん)


 馬繋場では寄ってくる虫に後ろ脚を上げて嫌がるそぶりをする以外は、静かに佇むアドマイヤボス。去勢されたとはいえ、重賞に勝ち、さらには種牡馬経験ありというのが念頭にあるせいか、ここに来た時からこんなに穏やかだったのか、どうしても疑問が頭をもたげてくる。しかし「来た時から大人しかったですよ。虫だけは嫌みたいですが、人に対して怒ることもなく温厚でしたね」と桐原さんはサラリと答えた。

 だがカメラを向けた時に垣間見せた「何だ、お前は」と言いたげなボスの上から目線の表情を私は忘れられなかった。桐原さんも最初に話していたように、大人しいけれどこの馬は自分をしっかり持っているし、相当気が強くてプライドが高い。そう感じた。それを桐原さんに伝えると、私がボスから受けた印象を裏付けるような答えが返ってきた。

「そうですね。一流だった馬なので、自我も強いですし、芯が強い部分は絶対ありますね。ボスも年齢が年齢ですし、いつも関わっているチームの人たちもその性格をわかっているようで、ボスがあれがしたい、これがしたいと自己主張をすると、ハイハイ、ボスがしたいならそうしようかという感じはありますね(笑)」

 一見、大人しくて穏やかにしていても、アドマイヤボスには名馬のプライドがあるのだ。撮影を終えて、悠然とした足取りで厩舎へと戻っていく後ろ姿を見送りながら、改めてそう思わずにはいられなかった。



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乗馬クラブクレイン竜ケ崎
電話 0297-62-9998
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電話 0297-62-9998
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※乗馬クラブクレイン
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▲クレイン竜ケ崎のメンバー、ハレルヤサンデー。2003年福島テレビOP優勝、2004年新潟大賞典2着と活躍した


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▲営業部所属のポニー、ココア。営業活動以外は愛想なし


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▲同じく営業部所属でココアの部下ハナコ。いつも愛嬌たっぷりでダイエット中

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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