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夏を経て確実に進化/セントライト記念

  • 2016年09月19日(月) 18時00分


余力を残しての完勝

 1分57秒9の皐月賞レコードで決着した皐月賞上位の5頭「ディーマジェスティ、マカヒキ、サトノダイヤモンド、エアスピネル、リオンディーズ」は、コースが変わり、距離も異なる日本ダービー・2400mでも、少し順位が入れ替わっただけでそのまま上位5着までを独占した。

 きわめて高いレベルを誇る5頭が存在したから生じた記録であるのはまちがいなく、皐月賞76回(日本ダービー83回)の長い歴史のなか、こんなことは史上1例である。

 残念ながらそのうちの1頭リオンディーズは脚部不安(屈腱炎)に見舞われたが、順当に菊花賞の最有力候補となったディーマジェスティ、凱旋門賞に注目の人気馬として挑戦するマカヒキ、今週の神戸新聞杯に出走予定のサトノダイヤモンド、エアスピネルを中心に、この世代はさらに高いレベルのレースを展開してくれるだろう。

 ディーマジェスティ(父ディープインパクト)は、日本ダービーでは皐月賞激走の反動があり、中間の発熱がささやかれるなど、少なからぬ不安があった。日本ダービーのあとも疲れが出て、もともと弱かったツメの不安も生じるなど、まだ完成途上の若さがあった。だが、今回のセントライト記念ではこれまでよりずっと順調に乗り込めた結果、当日の返し馬の動きなどこれまでよりはるかにスムーズ。動きが柔らかくしなやかに映った。

 ブライアンズタイムの影響を受ける馬の中には、お腹のラインが張り出して映る場合があるため、連れてトモのほうが寂しくみえ、ときにはアンバランスな印象を与えることも珍しくないが、夏を経たディーマジェスティにはそんな印象が消え、全体のバランスがとれてきた。迫力のフットワークに柔らかさが加わり、確実に進化している。

 スタートはあまり良くなく、しばらく行って両脇から挟まれるシーンもあったが、レース全体を通じて折り合いはきわめてスムーズ。外々を回って皐月賞と同じようにまくって出る予測された通りのレース運びをみせた。直線、外からプロディガルサン(父ディープインパクト)が接近し、先行していたゼーヴィント(父ディープインパクト)がもう一回脚を使って差し返しに出たとき、蛯名正義騎手は例のアクションで追い出しにかかり、ムチが入った。

 楽勝というわけではないが、きわどい「クビ差」ではなく、ゴールの瞬間は「もう一段ギアチェンジをしても大丈夫」、ディーマジェスティ自身には余力があるように映った。始動のトライアルとすれば、ニエル賞のマカヒキと同じように着差は小さくても、中身は余力を残しての完勝である。「春より芯がしっかりしてきた。本番を見据えての仕上げであり、これで余裕を持って臨める(二ノ宮調教師)」。菊花賞へむけて好スタートである。

 1970年代のタフな牝馬トリリオン(父ヘイルトゥリーズン)は2回凱旋門賞に挑戦して「2着、5着」。その産駒トリプティク(父リヴァーマン)はジャパンCに2回来日し、凱旋門賞は3回挑戦して「3着、3着、13着」だった。トリプティクの半姉を3代母に持つトレヴ(父はエルコンドルパサー2着の凱旋門賞馬モンジュー直仔)は、凱旋門賞「1着、1着、4着」である。トリリオンの妹ドッフザダービーを母に持つ輸入種牡馬ジェネラスは1番人気の凱旋門賞「8着」。ディーマジェスティの祖母シンコウエルメスは、ジェネラスの妹になる。

 まだ本格化途上のため、1次登録だけで今秋の凱旋門賞を見送ったディーマジェスティ陣営は、さまざまな意味でマカヒキの動向が気になるが、もし、マカヒキが勝つなら、日本馬2連勝を狙って来年こそは…となる。仮にマカヒキが惜しいところで惜敗し、日本馬通算5度目の2着にとどまったりするなら、いよいよ名うての凱旋門賞一族「ディーマジェスティ」の挑戦である。

 2着した上がり馬ゼーヴィントは、好スタートから「61秒0-(12秒5)-59秒6」=2分13秒1の流れに乗ってフルに能力を発揮してみせた。JRA重賞騎乗機会「10回連続連対」の戸崎圭太騎手のそれこそ絶妙の騎乗は、ディーマジェスティが外から来るのを待って、残していた脚を使うという計算され尽くされていたようなレースだった。だが、戸崎騎手の巧みな騎乗だけではない。明らかにパワーアップしている。最初に示したようにこの世代のトップ数頭のレベルは高い。その頂点の1頭ディーマジェスティとわずか「クビ差」である。

 陣営から、菊花賞挑戦は「様子をみてから…」となったが、母の父は勝ち馬と同じブライアンズタイムであり、ファミリーはブライアンズタイムとの組み合わせでもっとも成功しているナリタブライアン、キズナなどが代表するパシフィックプリンセスから広がる牝系である。

 プロディガルサンは、レース前は落ち着いて素晴らしい状態だったが、レースでは道中の折り合いを欠いていた。勝負どころを前に少しひかえ、先にスパートしたディーマジェスティを目標に一旦は並びかけるほどの脚をみせたが、坂上で止まったのは道中の目にみえないスタミナロスも関係しているだろう。休み休みでまだ6戦【2-1-1-2】しただけなので軽々しくはいえないが、全兄リアルスティールと同様、高い能力でこなすことはできても、ベストの距離というなら1800-2000m級ではないかとも思わせた。

 勝負根性を発揮して4着に突っ込んだ野中騎手の上がり馬ネイチャーレット(父タニノギムレット)は素晴らしかったが、同馬を尺度にすると、メートルダール(父ゼンノロブロイ)、マウントロブソン(父ディープインパクト)はちょっと物足りなかった。マウントロブソンは調整遅れが響いてプラス18キロ。さすがに成長だけではなく体に余裕が残っていた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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