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「ゆとり」を持つこと

  • 2016年09月22日(木) 12時00分


順調なステップを踏み出した春の実績馬


 無事なときには心を引き締め、有事の際にはゆとりを持つ。油断してはならないし、悲観して畏縮しても駄目という教えだが、自分を律しなければと思う瞬間は、誰にだってやってくる。物事がうまくいって無事なときほど気持をゆるめてはならず、なにか事が有ったときの備えをしなければならないし、また何か事が起こってもあわてず気持にゆとりを持って対処するようにしなければならない。頭では分かっていても、その刹那にそうできるかどうか。自分を律することのむずかしさは、いつでもどんなときでもある。

 春の実績馬が、秋も順調なステップを踏み出した。セントライト記念では皐月賞馬が、ローズSではオークス馬が、それぞれ圧倒的な人気に応えた。本番に向けて、これほど見通しの立てやすいことはない。

 セントライト記念史上、グレード制が導入されて以降だが、シンボリルドルフ、コスモバルクに次いで3番目に高い支持を集めて勝利したディーマジェスティは、ダービー馬がいないここでは負けるわけにはいかないレースだった。

 スタート後に寄られようがあわてずに後方から3番手に構え、向こう正面から少しずつポジションを上げていって、4コーナーではスムーズに先行集団につけていた。ここで心を引き締め、後続が追い出すのを確認してから先頭馬をつかまえに行ったのだった。蛯名騎手には心の備えが十分にあって、人馬ともにこのままの情況であれば、三千米でも大丈夫と、誰しもが思えた一番であった。

 ローズSを勝ったシンハライトは、人気薄の逃げ馬がどんなに離していようとも、あわてずに自分の競馬に徹し切っていたと言っていいだろう。有事に動せずというところ。これは、オークスを勝っているという自信が池添騎手にはあり、これがゆとりになっていた。エンジンがかかってからはいつもの通り、少しギリギリになってひやひやしたが、とにかくこの馬の勝負根性には目を見張るものがある。

 さて、本番はということだが、ともに心を引き締めてのぞむ点は変わらないだろうが、どれだけトライアルで見せた気持のゆとりが保てるかが、勝敗の分岐点になる、人馬共に。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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