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未来を予測するとき、未来だけを見ても仕方がない

  • 2016年09月29日(木) 12時00分


先を見据えて今日を明確にすることができた勝利


 人間の本性は悪であると言われたら、びっくりする。これは孔子の教えを受け継いだ儒家の一人、荀子(じゅんし)の言葉だが、だから人間は外側から磨き上げる後天的な修養が大切で、善なる性質はそこから生まれると説いた。人間には、生まれつき利益によって左右される一面があり、本性や感情のままに行動すれば混乱が起きてしまう。そこでどうしても、自分を抑制して秩序や道徳を守る礼と義による教化が必要という理論、うなずけるところがある。その荀子に「千歳(せんざい)を観(み)んと欲すれば、則(すなわ)ち今日を審(つまびら)かにせよ」という言葉がある。未来を予測するとき、未来だけを見ても仕方がない。今日のことを明確に知ることが大切なのだという教えだが、未来につながる芽や兆しは、確かに現在のなかにある。それを知ることができたら、この先の展望ははっきりするにちがいない。

 いま正に、毎週行なわれているステップレースこそ、その典型として捉えることができる。そこで何をつかんで、どうこの先を予測できているか。このところ、それぞれの前哨戦を一番人気馬が勝利してきた。このことは、決戦の舞台への期待を高めている。

 その一頭、神戸新聞杯を勝ったサトノダイヤモンドのルメール騎手は、「いい経験になったと思う」と語っていた。ペースが遅く、休み明けで引っ掛かったが、馬のうしろで懸命に押え、うまくなだめていた。直線、なんとか先頭に立ったところで止まりかけたが、内からミッキーロケットが詰め寄るとその気配にしっかり反応し、最後まで抜かせなかった。ルメール騎手は、この瞬間の頑張りが出せたことをいい経験になったと言ったのだが、池江調教師も「明らかに菊花賞を見据えた前哨戦仕様だったが、それでも勝った。これで見通しが明るくなりましたね」と、今を明確につかんで先を見ていた。

 先を見据えて今日を明確にすることができた勝利で、サトノダイヤモンドが最後の1冠へ弾みをつけた。さて、馬の本性はどうなのか。生まれつき持っているものはあるのか。本性や感情のまま行動するとどうなのか。ちょっと知りたくなってしまった。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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