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福永騎手の世界まるごとHOWマッチ

  • 2016年09月29日(木) 12時00分


セントウルSでビッグアーサーはなぜ逃げたのか?
そればっか考えていた。

自分は、スプリンターズSを勝つには6〜8番手くらいを追走するのが理想に思えたから、セントウルSでは6〜8番手を追走するレースプランを採用すると思っていた。高松宮では4番手を追走していたから、もう先行競馬を試す必要もないと思っていたからでもある。

しかしレースは好スタートからの逃げ切り勝ち。58キロを背負って、危なげない逃げっぷりだった。正直びっくりした。いくら休み明けでも、逃げという作戦にはリスクもともなう。新馬などでみんな逃げたがらないのは、逃げるレースしかできなくなることを恐れてのものだ。ビッグアーサーは古馬だから、一回逃げたからといって、逃げたがりという副産物を産むとは思わないけれど、スプリンターズSを勝つのにあえて逃げをうつ必要もない。

休み明けでは「ガス抜きをかねての逃げ先行」という策もあるようだけど、それも釈然としない。ガス抜きを否定するつもりもないけれど、福永騎手がガス抜きだけを目的としたレースプランを立てるとは思えない。

ガス抜きには次のレースでいい競馬をするためのスピリチュアルな、もしくはフィジカルな効能はあるかもしれないけれど、アカデミックな効能があるようには思えない。そこが引っかかる。

大レースに向けて、常に高い志でレースプランを立てる(ように感じられる)福永騎手がスピリチュアルな、もしくはフィジカルな開放だけが目的でレースプランを立てるのだろうか?ましてやビッグアーサーには2回目の騎乗だ。たとえ、ガス抜き目的があったとしても、同時になにかを試したくて逃げたのではないか?

だとすると、考えられるのは1つのみ。見ている先はスプリンターズSではなく、もっと遠く。

香港か!?

それはさておき、もしかしたらその応えを福永騎手自らが語ってくれているのではないか?
そう思って、netkeiba.comの「祐言実行」を読んでみたら、セントウルSの「逃げ」についてちゃんと答えてくれていた。

読んだ方はわかると思うけど、アツい思いを飲み込みつつ語っていた。
自分には、どこをどう読んでも、香港での勝ち負けを期待しててのセントウルSの逃げだったとしか読めなかった。

実際、香港とは一言も語っていないけれど、「セントウルを勝つためだけに逃げたんじゃない」という見出しからは、『もちろんスプリンターズSを勝つためだけでもない』ということばを飲みこんでいたように伝わってきた。ゴクンと飲み込む音さえも伝わってくるようだった。

それは「セントウルSに込めた思いは、スプリンターズSのレース回顧のときに改めて書きたいと思う」に集約されているのではないか。

要するに日本のスケールで計ってもしょうがない。そういうことだろう。

中距離戦線では世界でも勝ち負けできるところに到達しつつある日本競馬だけど、スプリント部門では世界基準に追いついてないというのが現実だ。ドバイやら香港やらで何度も騎乗している福永騎手ならすべてお見通しだろう。

たしかにロードカナロアは香港スプリントを連覇したけれど、実質1頭だけの活躍だ。全体のレベルでは世界に遅れを取っている。

あのくらいのペースで競馬ができなければ、世界だなんだと言ってられない。
そういうことではないか。

なんせ日本ではスピードの違いでなんなく逃げ・先行できるミッキーアイルが香港スプリントでは前に行けなかった。つまり世界と太刀打ちするには日本では逃げて、なおかつ直線でもうワンパンチが打てるくらいでないと通用しないということかもしれない。末脚は大事だけれど、末脚自慢だけでは世界のスプリンターに太刀打ちできない、それゆえの逃げ。うむ、アカデミックだ!

高松宮ではミッキーアイルが3番手を走り、ビッグアーサーは直後の4番手を走り、0.1差でミッキーを負かした。でもまだそれくらいでは世界には通用しない。まだ足りない。もっとビッグアーサーのポテンシャルを開きたい。

スプリンターズSはG1だから、勝たねばならない。逃げて、さらに二の足を使える馬かをチェックする場合ではない。やれるなら58キロを背負うセントウルS。だからやった。そういうことではないか。

マイルはモーリス、スプリントはビッグアーサー。

うむ、きっとそうだ。いや当たり前にそうだ。狙いは香港だけではなく世界まるごとかもしれないけれど、スプリント・レベルの高い香港で勝ち負けすることは世界に繋がることでもある。

だから思う。
福永騎手はビッグアーサーを世界まるごとHOWマッチしようとしている、と。

スプリンターズSで、逃げるとは思わないけれど、前に行くであろう馬たちについて行って、なんなく撃破する。それがビッグアーサーの課せられたHOWマッチだろう。それができて、はじめて世界まるごとHOWマッチできるはず。

HOWマッチとは、いわば値踏みだ。スプリンターズSを勝ったからといって、香港で勝ち負けできる保証はないけれど、世界の値踏みには参加できる。

騎乗経験のある世界のロードカナロアとのHOWマッチはきっと終わっているはず。その答えを知るよしもないけれど、その値踏みがあるからこその逃げだとしたら、少なくともいい線はいってるということだ。

だからこそ、今週のコラムでも「逃げ」について語り、「込めた思い」があることを語ったのではないか。

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地方出身騎手か外国人騎手を軸にすれば、だいたい当たるのだが…
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ここ数年、ずっとスポットを当てているのが地方出身騎手と外国人騎手。彼らを軸にすればだいたい当たる。以下はここ11年の成績だ。ずっと連対しているのがわかる。

15年 1着 戸崎(ストレイトガール)
14年 2着 岩田(ストレイトガール)
13年 1着 岩田(ロードカナロア)
12年 1着 岩田(ロードカナロア)
11年 2着 安藤勝(パドトロワ)
10年 1着 ライ(ウルトラファンタジー)
09年 2着 安藤勝(ビービーガルダン)
   3着 小牧太(カノヤザクラ)
08年 2着 岩田(キンシャサノキセキ)
   3着 安藤勝(ビービーガルダン)
07年 該当騎手なし
06年 1着フォード(テイクオーバーターゲット)
05年 1着コーツィー(サイレントウィットネス)

人気馬に騎乗しているのは事実だけど、自分はこの理由を地方出身騎手や外国人騎手のビッグレースでの前向きさにあるのではと見立てている。

結局、スプリンターズSは、道中10番手より後ろにいては、好走は出来ても、1着にはなれない。その馬の得意な競馬が10番手より後方の差し・追い込みでは脚質的に勝負にならない場合が多々あるわけだ。

前向きさゆえにいつもより前に行きすぎて、2着に敗れるときや、前向きさゆえにいつもより少し後ろに下げて、届かず2着のときもある。でも2着なら上々だろう。ここで言いたい前向きさとはただ積極的に先行するということだけではない。勝つためにいつもと違う騎乗ができるという前向きさでもある。

いつもと違う騎乗は、負けたときに叩かれるリスクを背負う競馬でもある。つまり、リスクを冒す覚悟みたいなものが、ここぞというときの地方出身騎手や外国人騎手にはあるのでは…とも思うわけだ。

今年の該当馬は、現状では以下の4頭
ウリウリ     戸崎  予想12人気
ネロ       内田博 予想6人気
レッツゴードンキ 岩田  予想9人気
レッドファルクス Mデムーロ 予想7人気

予想人気を見たら、どうぞ本番でもこのままの人気で、そのまま〜!と叫びたくなってきた。
もうなんも考えずにビッグアーサーと絡めればいいように思える。

でも一応この中で序列をつけるとするなら、レッツゴードンキとレッドファルクスに食指が動く。

レッツゴードンキはスプリント戦になれてきたのか、中団やや後ろから差す競馬が安定してきているように感じられる。そこが頼もしい。

シュウジに北海道で2回負けているけれど、斤量がともに2キロ差あった。しかしここでは同斤量55キロだ。ソルヴェイグやブランボヌールといった3歳牝馬にも負けているけれど、4キロ差あった。ここでは2キロ差だ。

函館スプリント
1着 ソルヴェイグ 50キロ
2着 シュウジ   52キロ ハナ差
3着 レッツゴードンキ 54キロ 1馬身1/4

キーンランドS
1着 ブランボヌール 51キロ
2着 シュウジ    53キロ 1/2
3着 レッツゴードンキ55キロ 1/2
4着 ソルヴェイグ  52キロ 1/2

今回
ブランボヌール 53キロ
ソルヴェイグ  53キロ
シュウジ    55キロ
レッツゴードンキ55キロ

3歳馬はみな先行競馬で結果を出した。
差してきていたのはレッツゴードンキだけだ。ビッグアーサーは先行馬に逃げ切りを許さない競馬をすると見立てているから、先行系で斤量の重くなる3歳馬には少々つらいかもしれない。少なくとも夏ほど楽ではあるまい。

レッドファルクスは左回りばっかり使われて来ているけれど、それが理由で人気が下がるなら買ってみたくなる。

左回り芝 3-1-0-3
左回りダ 4-1-1-2

右回り芝 0-0-0-1(未勝利・芝1600・9着)
右回りダ 0-0-0-1(阪神・ダ1400・4着)

芝右回りの着外は2戦目の未勝利で、出遅れて9着だった。距離1600が得意でなかった可能性もある(1600以上を走ったのはこの1回のみ)。それでいて上がりは3位なら、それほど悲観する内容には思えない。

左回りばかり使われていたことには、それなりの理由があるのだろうけど、芝1200、騎手Mデムーロ、そして7人気くらいなら、右回りでもそそられる。

芝1200 2-0-0-0
Mデムーロ騎乗 2-0-0-0

うむ、ここだけを見てるとテンションは上がる一方だ。

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スプリンターズS・注目馬
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ビッグアーサー

セントウルSは1人気が取りこぼしがちなレースだ。そしてそこで取りこぼした馬がスプリンターズSで巻き返したりする。だからともすれば、セントウルSを勝った馬はスプリンターズSではいらないともなってしまう。

しかし、セントウルSを1人気で1着して、なおかつスプリンターズSでも1人気に支持されるとなると、話は別だろう。実際、そこに該当する馬はこの20年で1頭のみ。02年のビリーヴだけだ。スプリンターズSが暮からこの時期に移ったのは2000年だから、純粋に該当馬はビリーヴのみ(新潟開催)となる。つまり、セントウルSを1人気で1着して、さらにスプリンターズSでも1人気になるのは高いハードルというわけだ。そのビリーヴはスプリンターズSでも1人気の期待に応えて1着した。

自分はこういうデータはむしろ少ない方が価値があると考える系。だから今回のビッグアーサーは、福永騎手のアカデミックな思いと少し離れても、強いように思える。

基本的には1人気を心配したい系でもあるけれど、たまに1人気にお手上げしたくなるときがある。今回がそれかもしれない。
ここで勝ったからといって、世界で勝ち負けできるわけではないけれど、高い志でもって、スプリンターズSを圧勝してみせようというのなら、ブラボー!とスタンディングする準備をして観戦しようと思う。

レッツゴードンキ
レッドファルクス

ビッグアーサーが逃げたことで、逆に他陣営のレースプランは狂ったかもしれない。でも今回はビッグアーサーの先行は頭にあるはずで、勝ちたい馬はそれなりの先行プランを立てるのではないか。つまり前で緊張感が生まれるという見立てだ。

ビッグアーサーは他陣営のマークをまるごと背負って、弾き返す予定だから、10番手くらいを追走しそうなレッツゴードンキやレッドファルクスにもチャンスは生まれるはず。

怖いのはミッキーアイルが逃げて、ビッグアーサーが番手を追走し、レースが落ち着くこと。そうなるとアーサー&ミッキーの1、2人気決着もある。先行得意な3歳馬には果敢に攻めて欲しいところだ。

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単150〜169倍の馬
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スプリンターズSの魔界の入口は単150〜169倍だと思っている。過去10年で、4頭該当して、3着、4着、3着、18着。このキワドさ、拾うのに値する。該当馬が現れるといいな。

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競馬専門誌・競馬王の元本紙予想担当。今は競馬王その他にて、変な立ち位置や変な隙間を見つけて、競馬の予想のようなものを展開中のニギニギ系。 著書はなし。最新刊「グラサン師匠の鉄板競馬 最前線で異彩を放つ看板予想家の鉄板録」に再び間借りして、4年ぶりに全重賞・根多の大百科的なものを執筆。

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