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爆発力勝負に最大の良さが生きる/毎日王冠・京都大賞典

  • 2016年10月11日(火) 18時00分


1800m前後の距離なら男馬と互角のエース級

 翌週に同じ距離の「府中牝馬S」が組まれているので、牝馬がこのレースに出走することは非常に少ない。ただし、牡馬のトップクラス相手を承知で出走する牝馬は、たとえそれが有力馬を多くかかえる大オーナーの府中牝馬Sとの使い分けでも、勝負にならない馬を毎日王冠に回したのでは品位を問われかねない。最近では、2006年のダンスインザムードから、今年のルージュバックまで、毎日王冠に挑戦した牝馬はわずか4頭だけだが、その成績【1-3-0-0】となった。

 また、過去30年にさかのぼっても牝馬の挑戦馬は【3-4-1-12】。連対率は.350にも達している。毎日王冠で勝ち負けする牝馬は、1800m前後の距離なら男馬と互角のエース級である。

 快勝したルージュバック(父マンハッタンカフェ)は、これで「きさらぎ賞」「エプソムC」につづき牡馬相手の1800m重賞3勝目。1800m【4-1-0-0】となった。といって、1800m限定ではなく、切れ味の生きる長い直線の左回り(東京、新潟)では、ミッキークイーンに0秒1差のオークス2着を含み、1800m以上【4-1-0-0】でもある。

 天皇賞・秋に向かうのか、エリザベス女王杯に出走するのか、まだ流動的だとされるが、今回の毎日王冠の勝ち方(上がり33秒4)、エプソムCの楽勝(上がり32秒8)をみると、楽なペースを追走し、直線だけの爆発力勝負に持ち込んだときに最大の良さが生きるのは間違いない。圧倒的な数の有力馬をかかえるノーザンファームの生産馬。主戦ジョッキーとの兼ね合いもあり、とりあえずは2つのG1に登録されるだろう。

 マッチレースに持ち込んだ4歳牡馬アンビシャス(父ディープインパクト)は、春の宝塚記念では、渋った馬場、距離2200m、行きたがった道中のスタミナロスが重なって16着に大敗したが、距離が1800に短縮されてキチッと巻き返してきた。天皇賞・秋に向けての前哨戦とあって、完調には一歩も二歩も及ばない状態とみえたから、牝馬に屈したのはショックでも、3着以下には決定的な3馬身以上の差をつけている。

 今秋の天皇賞2000m。出走を予定している有力馬の多くが休み明けだったりするため、出走予定馬がつかみきれないところがあり、前出のルージュバックのような馬もいる。ドゥラメンテを追い詰めた中山記念、キタサンブラックを差した大阪杯当時の気配を取り戻したとみえるアンビシャスは、この秋、1分58秒6の5着にとどまった昨年の天皇賞・秋以上だろう。

 2頭だけの4歳馬が3馬身も抜けてワンツーを決めたため、5歳以上馬は急に評価が微妙になったが、この毎日王冠で1〜4着したのは、前半は後方に控え、最後の直線は外に出した4頭でもあった。内で折り合いや仕掛けどころを探していたグループはまったく結果が出ていない馬場だった点には要注意。エアレーション作業などの近年の芝整備方法の変化により、開催の初めほど馬場の内側の芝は地盤が軟らかく、インは伸びないケースが多い。

 最初から、伸びている馬のいないそういうインコースを狙い、最後の坂上では前が詰まってほとんどレースをしていないステファノス(父ディープインパクト)は、力を出し切っての5着ではなかった。川田騎手はこれまで東京に遠征してくると、メイン以外はほとんど騎乗しないことが珍しくなかった。最近はさすがにそんなことはないが、毎日王冠の前に騎乗したのは重馬場のダート戦だけ。本人が嫌うのか、エージェントとの意思疎通が巧みではないのか、毎日王冠で外に出した馬がそろって「1〜4着」している中、伸びないインにこだわり、前が詰まって満足なレースをしていないのは、もうそういう立場の騎手ではないのだから、かわいそうな気がした。
 

ジャパンC、有馬記念に向けての課題

 上がり馬のヤマカツライデン(父シンボリクリスエス)が、このメンバー相手に通用の目途をたてるような少し果敢な力試しを見せるのかと期待したが、前後半の1200m「1分14秒2―1分11秒3」=2分25秒5という超スローの逃げに出たため、逃げ馬は関係なかった。2番手のキタサンブラックにとっては超スローで、自分でレースを先導したのと同じこと。順当に勝って【7-1-3-1】。上々の秋の滑り出しだった。

 春と馬体重は同じ。まだ余裕残しの体つきでも、全体のかもしだす印象はずっとシャープになった一面もあった。充実の4歳秋である。レースラップは最後「11秒1-11秒1-11秒5」=33秒7。高速になりすぎた結果、マークしてきたアドマイヤデウス(父アドマイヤドン)に、上がり33秒4の脚を繰り出され、最後はクビまで接近されたが、着差ほど危ない印象はなかった。ジャパンC、有馬記念に向けての課題は、日本ダービーで負けた東京2400mでどんなレースを展開するかだろう。今回がそうだったようにスローの先導は良くない。肉を切らせ、骨を断たなくてはならない。どんな作戦があるだろうか。もしかすると…の希望だが、凱旋門賞のファウンドは、ムーア騎手が主戦だから来日の可能性がかなりある。

 アドマイヤデウスは、キタサンブラックと同様の京都巧者。やっとそれなりの答えを出してくれた印象が濃い。でも、6〜7歳馬のイメージをもつこの馬、改めて確認するまでもなく実際は5歳馬である。それだけイライラさせたということか。昨年の有馬記念も苦しいところで流れに乗り切れていないからとはいえ、最終的には0秒3差だけ。本格化に期待したい。

 脚を余したグループでは、当然、5歳サウンズオブアースの変わり身に注目。今回は凡走後の回復に手間取ったから、最初からムリをしていない印象があった。そのぶん、このあとのビッグレースで本気にならないと、サウンズオブアースの能力を信じる人びとに失礼である。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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