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自らを磨く努力

  • 2016年10月13日(木) 12時00分


それぞれがそれぞれらしく


 利益のためではなく、自分を磨くために努力する。その心の持ち方には、利益に人より先に飛びついてはならないという戒めが潜んでいる。分をわきまえ、一定の限度を超えず、それでもひたすら、自らの能力や人間性を磨くための努力を続けていく。そこには、穏やかで広い心が見えている。かくありたい、かくあれば、どんなにかいいだろう、そう思わせた毎日王冠であり京都大賞典だった。

 ただ勝ったのではなく、それぞれがそれぞれらしく、いまある力を発揮し、その先にある目標に向って、さらなる可能性を感じさせた。毎日王冠を勝ったルージュバックは、稍重馬場とはいえ千米60秒3という遅い流れにもかかわらず、後方から2番手で構えていた。戸崎圭太騎手は「あまり位置取りは気にせず、末脚を持っている馬なので信じていきました」と述べている。自らの分をわきまえ、それがイメージ通りの末脚となって勝利に導いたのだった。目の前の結果だけではなく、自らを磨くための調整にも心を動かされた。

 派手さの見られなかった調教には、ちゃんとした理由があったのだ。つまり、主眼としたのはあくまでもその動き、体の使い方をチェックすることだった。肩の出は大丈夫か、脚の運びに問題はないかなど、秋の始動戦だからこその気配り、そこには一定の限度を超えずという心の持ち方が見えていた。

 天下獲りの秋、23年ぶりの牝馬の毎日王冠優勝は、果してどんな軌跡を描くことになるのか。きさらぎ賞、エプソムC、そして毎日王冠と、重賞勝ち3つが全て牡馬相手というところにも興味がわく。

 京都大賞典を何の問題もなく勝ったキタサンブラックは、この秋は実に丹念に乗り込まれていた。清水久調教師は「賢くて真面目でどこへ行っても、どんな展開になってもしっかり走ってくれるので心配はない」と語っていた。これまた派手さはないが、大きく崩れるとは思えない馬だ。出たなりの位置で自分のリズムで走ってくれる。武豊騎手とのコンビが、穏やかな広い心をかもし出してくれるのも強味だ。こちらも、ひたすら分をわきまえて自らを磨く努力を続けてきた成果があらわれているとみたい。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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