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第8回ジョッキーベイビーズ

  • 2016年10月12日(水) 18時00分
本番前にエイエイオー

本番前にエイエイオー


全馬が完走できたのは何より幸い


 今年も秋の東京開催の開幕週である10月9日(日)、最終レース終了後の午後4時45分に、全国の予選を勝ち抜いて選ばれた8人の少年少女たちによるポ二ー競馬「第8回ジョッキーベイビーズ(以下JB)」が行なわれた。

 今年の出場者は以下の8人である。
1 沖縄地区代表 山内 七海さん(小6)
2 九州地区代表 上薄[かみすき]龍旺[りお]君(小6)
3 関西地区代表 久保 孝太君(中1) 
4 東海地区代表 西村 悠希君(中1)
5 長野地区代表 佐野 遥久[はるく]君(小4)
6 関東地区代表 宮原 遥さん(中1)
7 東北・新潟地区代表 加藤 雄真[ゆうま]君(小5)
8 北海道地区代表 大池 崚馬[りょうま]君(小5)
 
 今年、新たに沖縄地区からも代表が参加することになり、これで北は北海道から南は沖縄まで、「全国ポニー競馬選手権」(正式名称はこれである)にふさわしい内容のレースとして確立した。代表枠も昨年まではどこかが複数枠を貰えていたが晴れて8地区から1人ずつの選出になった。

 前日午後2時に東京競馬場事務所に集合した8人と保護者たちは、さっそくそこで説明を受け、続いて騎乗馬を決めるためのくじ引きを行ない、翌日コンビを組むポニーの名前が発表された。1山内さん=栗姫、2上薄君=ハショウボーイ、3久保君=ゴット、4西村君=レインボー、5佐野君=ドリームスター、6宮原さん=エンベツクイーン、7加藤君=ヒメ、8大池君=オオタニハヤテ。

 過去7回のポニーたちの成績が出場選手たちの中にはある程度知識として蓄積されており、はっきりと顔に出す子こそいなかったものの、一言で表現するならば“悲喜こもごも”の光景が現出していた。

 その後、8人は昨秋に新装された競馬場4コーナー近くにある乗馬センターに移動し、騎乗馬と対面。午後3時過ぎから馬装や手入れなどを通して、それぞれ自分の騎乗馬と触れ合う。昨年と一昨年は乗馬センター改修工事のためにこの場面がなく、ポニーは予め馬装された状態で馬運車にて運ばれてきていたので、絵的にはやや物足りないものがあったのも事実だ。しかし、今年は、レース前に、実際に子供たちが騎乗馬とコミュニケーションを図る場面が確保できたのは何よりであった。

 この日は角馬場にて準備運動をした後、最終12レースの後に本馬場に入り、スタート練習を行なった。2騎1組になって、翌日の本番さながらに、スタートのタイミングを確認するのだが、ここでは、暴走?あり、落馬あり、と、かなり波乱に満ちたリハーサルになった。この時点では正直なところ「明日大丈夫なのか?」と思わぬでもなかったが、結論から先に言えば、本番では全頭無事に落馬もなく完走できたことをまず記しておきたい。

前日のスタート練習

前日のスタート練習

練習する山内七海さん

練習する山内七海さん

 子供たちにとっては、緊張と重圧の中で過ごす濃密な2日間となる。翌日の9日(日)。

 この日の集合は午後2時半となっており、前日同様に事務所集合だが、大半の子供たちは保護者や応援団とともに早々にスタンド7階に用意された控室に集まり、ゴンドラから生のレースを見ては歓声を上げていた。

 前日もこの日も、府中は雨に始まるあいにくの天候であったが、両日ともに昼近くには雨も上がり、まずまずのコンディションでレースができそうな天候になってくれたのは何よりであった。

インタビューされる山内七海さん

インタビューされる山内七海さん

 いよいよ本番近く。勝負服に着替えた8人が、また乗馬センターに移動し、前日と同じく練習を始める。日がどんどん傾いて行き、スタンド方向からレースの度に歓声が聞こえてくる。メインの毎日王冠が終わり、続いて最終12レースのダート戦の後、本馬場入場である。誘導する「サザエさん」もやってきて誘導馬に騎乗する。

事務所から乗馬センターに移動する8人

事務所から乗馬センターに移動する8人

 午後4時半。いよいよビジョンにJB開催を告げる映像が映し出され、MCを務める長谷川雄啓さんの声が聞こえる中を、サザエさんを先頭に内埒沿いを残り1ハロン地点のあたりまで縦列で入場する。1人ずつの姿がビジョンにアップになる。徐々にスタンドのボルテージが上がって行くのが分かる。

 最終レースが終わっても居残ってくれている数多くのファンがスタンドを埋めていた。午後4時45分。いよいよスタートが近づく。G1ファンファーレが鳴り響き、地元府中の乗馬スポーツ少年団団長・佐藤里美さんがスターター台に立ち旗を振るとカウントダウンが始まり、今年のJBがスタートした。

 4西村君=レインボーがやや出遅れる。1山内さん=栗姫がスタート同時に外側に向かって斜行しながら進む。それに引きずられるように、早々に内外に大きく分かれるレース展開になった。

 最内を進むのは2上薄君=ハショウボーイ。一昨年の第6回に関西代表の角田大和君を背に優勝している実力馬のハショウボーイがそのままマイペースで逃げ続ける。

 それを左に見ながら、久保君=ゴット、以下、西村君=レインボー、加藤君=ヒメ、佐野君=ドリームスター、大池君=オオタニハヤテ、山内さん=栗姫が200mあたりまで追走する。宮原さん=エンベツクイーンがそこでやや失速し、後方に下がる。

 ポニーといえども、外埒でカメラを構えていると、あっという間に近づいてくる感じだ。ハロン14秒-15秒ほどのペースでどんどんゴール目指して走ってくる。内外に分かれる展開になったため一瞬迷ったが、実況が4馬身差と伝えてくれたので、内にカメラを向け上薄君を捉えたところでゴールを通過したのが確認できた。

ゴール前

ゴール前

 2着は久保孝太君=ゴット。3着加藤雄真君=ヒメ。4着は出遅れを頑張って盛り返した西村悠希君=レインボーで、その追う技術が評価され、表彰式では「敢闘賞」を受賞した。5着は沖縄から初参戦となった山内七海さん=栗姫が入り、「掲示板」を確保できた。

2着以下の集団

2着以下の集団

 前年の覇者大池崚馬君は、残念ながら二連覇できずに終わったが、高い技術を如何なく披露し、オオタニハヤテをヨレずにまっすぐ追えていたのが印象に残った。また佐野遥久君=ドリームスターも、宮原遥さん=エンベツクイーンもよく頑張って完走できたのは何よりであった。

 優勝した上薄龍旺君は「嬉しいです。将来は、牛飼いになるか、ジョッキーになるか、迷っています」と語り、表彰式では満面の笑みを浮かべていた。また2着の久保孝太君=ゴットは「スタートは良かったですが、ちょっと右にヨレたかも。勝ちたかったけども結果には満足しています」とコメント。因みに騎乗馬ゴットは、昨年、一昨年と最下位に終わっていた馬だが、久保君の気迫と技術で今年は2着まで順位を上げた。

レース直後、1着の上薄君

レース直後、1着の上薄君

 3着加藤雄真君=ヒメは、斤量24キロ(加藤君はスリムなのである)という軽ハンデを生かした形になった。「将来は日本ダービーに勝てるような騎手になりたいです」と語った。西村悠希君=レインボーは出遅れが惜しまれるものの、後半よく粘った。「父からはスタートしたらそのまままっすぐ追えと言われました」とコメント。因みに彼の父は栗東・西村真幸調教師で、この日はわざわざ東京競馬場まで愛息の応援に駆け付け声援を送っていた。西村君も騎手志望である。

2着は久保孝太君、3着加藤雄真君

2着は久保孝太君、3着加藤雄真君

 佐野遥久君=ドリームスターは「練習ではうまく行ったのですが、本番では少しヨレてしまいました」と反省し、やはり「騎手を目指します」と将来の夢を語っていた。

 大池崚馬君=オオタニハヤテは「くやしいです」とまず開口一番に言葉を発し「兄姉からも乗り方のアドバイスをしてもらっていましたが、二連勝できず残念です」と言いつつも「東京で乗れるのはとても楽しかったです」と気を取り直したようにコメントしていた。

 宮原遥さん=エンベツクイーンは「良い着順が取れずに少し悔しいです。スタートはちょっと出遅れました。後半追いましたがなかなか伸びてくれなかったです」と振り返り、「将来は馬関係の仕事に就きたい」と夢を語った。

 最後に、JB史上初の沖縄代表として東京競馬場に遠征してきた山内七海さん=栗姫のコメントは「スタートは早かったです。右にヨレてしまいましたが、後半栗姫がとても頑張ってくれて良い気分でした。将来はジョッキーになりたいです」というものであった。

表彰式後の記念撮影

表彰式後の記念撮影

 ポニーは本来、競馬に向いた馬ではないので、その時の気分や体調などによってかなり大きな差が生じる。したがって前年の着順などはあまり当てにならず、もし馬券を発売していたとしたら、ひじょうに予想の難しいレースになるはずだ。直線400mのレースでありながら、毎年勝った馬から最後尾の馬まで大差がついてしまうのはおそらくポニーの持つ特性、性格によるものなのかも知れない。

 ともあれ、今年も無事に全馬が完走できたのは何より幸いであった。全国各地で乗馬に勤しむ少年少女にとって、このJBが憧れの晴れ舞台でありつづけるようにと願うばかりだ。まずは10回、そしてさらにその先の将来にわたって、ぜひ存続して行って欲しいと思う。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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