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人気ナンバーワン!カタリア君ことファルカタリアの素顔/動画

  • 2016年10月18日(火) 18時01分
第二のストーリー

▲ファルカタリアとグレース・ライディングクラブ代表の太田保さん


(前回のつづき)

「馬は人間と同じとは言いませんけど、それに準ずるものだと思っています」


 サマー君。グレース・ライディングクラブの代表、太田保さんはディープサマー(セン14)をこう呼んでいる。君付けはサマー君だけではない。グレース・ライディングクラブのブログを見ると、アポロ君(アポロドルチェ)、カタリア君(競走馬名ファルカタリア)など、男の子や元男の子はみな君付けで記されている。

 太田さんの語り口は、とても優しくて時に熱い。取材をしていて、馬を思う気持ちがビンビン伝わってくる。ブログを読んでいても、それがよくわかる。「馬は人間と同じとは言いませんけど、それに準ずるものだと思っています」という太田さんの言葉が胸に響いた。

「サマー君はすごい紳士ですよ。でも隣にいるカタリア君は、悪いというか…(笑)。餌を入れると、それをガーッと噛んで人にぶつけるんです(笑)。サマー君は、餌を入れても食べ方が上品なんです。カタリア君とサマー君の食べ方や性格の差が激しくって(笑)。サマー君は、紳士でいい子ですね」


 前回も触れたが、ディープサマーも、ファルカタリアも、震災後に太田さん自ら福島県南相馬市へと入り、連れ帰ってきた馬たちだ。

「その時にサマー君は、ずーっと震えていたんです。ファルカタリアと2014年に亡くなったアンドゥオール(享年15)が一緒にいて、アンドゥは結構いい度胸してましたけど、サマー君は顔も真っ黒になってしまって、とにかくずーっと震えていました」

 福島第一原発事故で人間は避難を余儀なくされ、馬はその場に残された。救出までの日々を、馬たちはどんな思いで過ごしてきたのだろうか。震えが止まらなかったディープサマーが、どのような気持ちでその数日間を生きてきたのかと想像するだけで、胸が締め付けられそうだった。

「福島から到着してこの子が最初に降りてきたのですけど、四肢全部ガタガタガタガタ震えていましたから、怖かったんだなぁってすぐに馬房に入れました。やはり音には敏感で。その時はこちらに移ってくる前だったので、2号線を通る車の音がよく聞こえていたんですよ。その音をじーっと聞いてました」と太田さんの奥様の洋子さんも当時を振り返った。

 以前乗馬クラブがあったのは、現在地から下った場所だった。住宅地の真ん中にあったために、竹林を切り開いてこの場所へと移動してきた。取材当日は、拭いても拭いても汗が吹き出してくるほどの暑さだったが、クラブの敷地を取り囲む竹林の緑が一服の清涼剤となっていたのは幸いだった。

 ディープサマーも、すっかりこの環境にも馴染んでいる。

「それほど太りもしないですし、痩せもしなくて、とても飼育しやすい子ですね。助成金を受けているのでお客様に乗って頂くわけにはいかないですが、乗馬としては結構優秀で、ウチのスタッフのいい練習馬になっています」(太田さん)

 また芦毛のディープサマーには、熱心なファンが多い。

「福島から来てすぐ、この子を探していたという方がおられました。東京や北海道など、いろいろなところから訪ねて来られます。北海道の方は、いまだに年に2回ほどご夫婦で会いに来られますよ」(太田さん)

第二のストーリー

▲東京や北海道からもファンが会いにくるという人気者のディープサマー


 サマーに負けず劣らず人気なのは競走馬名ファルカタリアこと、カタリア(牡12)だ。グレース・ライディングクラブには「この馬のファンになりたい」と会有馬(クラブ所有馬)の中からお気に入りの馬を指名して月会費を払う「グレースRCファンクラブ」がある。会員になると毎月月刊誌「グレチョ」と、指名した馬の写真と短文の近況報告が送付され、いつでもファンになった馬と触れ合うことができるというシステムだ。

「カタリア君はフジキセキの子で、現役時代にはオープンで走っていたということもあるせいか、ファンクラブのファン会員が1番多いんです」(太田さん)

 ファルカタリアは、2004年4月28日に社台ファームで生まれている。美浦の加藤征弘厩舎から2006年12月にデビューして、2戦目で勝ち上がっている。芝、ダート両方で勝ち星を上げ、通算成績が24戦5勝。プロキオンS(15着)や阪急杯(14着)と重賞出走経験もあるが、残念ながらオープンクラスでの優勝はないまま、2010年11月のオーロC(9着)を最後に引退となった。

「ファンの方からは、カタリア宛てに毎月リンゴも送られてくるんですよ」と太田さん。

「最初にリンゴが送られてきた時は、宅配便の人がここには外人さんがおったかな? と言うんですよ(笑)。えー? と思って宛名を見るとカタリアの名前が書いてあったので、これ馬の名前なんよと。今は宅配便の人も慣れてしまって、リンゴが来たよーって言って持ってきてくれます(笑)」と洋子さんが楽しそうに話してくれた。

 カタリアは女の子に反応しなかったこともあり、今のところ去勢はされていないという。

「いつもはバタバタバタバタ、前に行ったり後ろに行ったり、人間がそばに行ったら餌くれと突いてみたり、服を引っ張ってみたりするんですけど、今日は撮影だとわかっているのか、いい顔しようか? みたいな表情しているでしょ。普段は耳を触らせたりすることなんてないで。いったい何でや? それにしてもええ顔しとるなあ、またファン増えるで」と太田さんがカタリアの前でしきりに不思議がっていると、

第二のストーリー

▲「ええ顔しとるなあ、またファン増えるで」と太田さん


「ちょっと困ったような顔をしているでしょ。これは頭がいいらしいですよ。女性ファンが多いのもわかるような気がしますね」と、洋子さんが続けた。

「今日はアポロ(ドルチェ)もえらい大人しいし、どうしたんだろ、みんな…。昨日取材が来るという話はしたけど、それでよそ行きの顔してるのかなあ」(太田さん)

 馬は我々が思っている以上に、自分が置かれている状況や人間の気持ちを敏感に感じ取り、空気が読める生き物だ。改めてそう感じた。

 取材時はよそ行きの顔をしていたそのカタリア君だが、悪さをし過ぎてなかなか乗馬としての調教は進んでいないのだという。

「カタリア君はファンの方が多いので、乗れなくてもそれだけでいいなと思っているんです。ただ乗っていないから、余計にワガママになっちゃって(笑)」

 すっかり功労馬状態のカタリアを前に、太田さんも苦笑いしていた。

 南相馬からサマーやカタリアとともにやって来たアンドゥオール(2004年東海S優勝・母は1993年のローズS勝ちのスターバレリーナ)が、この場にいないのが残念だった。

第二のストーリー

▲東海S優勝時のアンドゥオール (C)netkeiba.com


「気性がきつくて、力関係もものすごく強いんですよ。一緒に放牧するとサマー君が子分として従っていましたからね(笑)」

 そうエピソードを語る太田さんの表情もまた、どこか寂し気で無念そうに見えた。

 時間の許す限り、馬房を回ってたくさんの馬たちと会った。1頭1頭にみな個性があって、洋子さんの説明もまた面白かった。太田さんの馬への愛情が集約されたこの場所には、まだまだ心温まるエピソードが眠っている。そういう思いに駆られた。

「馬は人間と同じとは言いませんけど、それに準ずるものだと思っています」

 太田さんの言葉が再び蘇ってきた。

 また取材に来よう。そう心に誓いながら、グレース・ライディングクラブを後にしたのだった。

(了)


※アポロドルチェ、ディープサマー、ファルカタリアは見学可です。

〒701-0206 岡山県岡山市南区箕島1631-1
グレース・ライディングクラブ
電話 086-282-7222
HP http://www.grace-rc.info

※グレースRCファンクラブでは、会員を募集しております!詳細はHPをご覧ください。

※アポロドルチェ、ディープサマーの引退名馬の頁

アポロドルチェ
https://www.meiba.jp/horses/view/2005110152
ディープサマー
https://www.meiba.jp/horses/view/2002105358

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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