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新旧怪物対決が楽しみなBCクラシック

  • 2016年10月19日(水) 12時00分


2か月前まではほとんど無名の存在だったアロゲイト


 このコラムでは来週・再来週と、馬券発売のあるレースの展望を予定しているので、今週はひと足早く、ブリーダーズCのメイン競走であるG1BCクラシック(d10F、11月5日、サンタアニタ)の展望をお届けしたいと思う。

 押しも押されぬ不動の本命となっているのが、西海岸を拠点とするこの路線の最強古馬カリフォルニアクローム(牡5、父ラッキープルピット)である。

 第一線に台頭してから既に3シーズン目になるが、本格化したのは実に5歳となった今季である。

 カリフォルニア産馬で、2歳秋まではカリフォルニア産馬限定戦で勝ったり負けたりという、平凡な馬であった。だが、2歳最終戦となったキンググロリアスS(AW7F、カリフォルニア産馬限定戦)を6.1/4馬身差で制すると、彼の体内で何か目覚めるものがあったのだろう。そこから快進撃がスタートし、G1プリークネスS(d9.5F)まで6連勝。しかし、3冠がかかったG1ベルモントS(d12F)で4着に敗れると、今度はG1BCクラシック(d10F)まで3連敗。オールウェザーで3勝していた実績を拠り所に、3歳最終戦としてG1ハリウッドダービー(芝9F)を選択。ここを見事に制したことが決め手となって、全米年度代表馬のタイトルを手中にしたが、絶対的存在というには程遠かったのが、この頃のカリフォルニアクロームだった。

 更に雌伏の時となったのが4歳時で、初戦のG2サンアントニオS(d9F)でシェアドビリーフの2着に敗れると、続くG1ドバイワールドC(d2000m)でもプリンスビショップの2着に惜敗。その後、ロイヤルアスコットのG1プリンスオヴウェールズS(芝10F)を目標に渡英したものの、レース直前に脚部不安を発症して出走を断念。そのまま年内一杯を休養に充てたため、4歳時は未勝利のまま終わることになった。

 引退後に種牡馬として供用されることが決まっている、テイラーメイド・ファームで過ごした休養期間が、カリフォルニアクロームがアスリートとして完成する上で、極めて重要な意味を持っていたようだ。

 こうして迎えた今季のカリフォルニアクロームは、ここまで6戦して負け知らずの6連勝中である。昨年惜敗したG1ドバイワールドCも、今年は完勝。帰国後最初の目標となったG1パシフィッククラシック(d10F)も5馬身差で完勝し、BC前の最後の一戦となった10月1日のG1オウサムアゲインS(d9F)も、ゴール前で鞍上V・エスピノーザが手綱を抑えつつ2.1/4馬身差で快勝。付け入る隙の見当たらない強さを発揮している。

 ほんの2か月前まではほとんど無名の存在だったのに、今やブリーダーズCクラシックの2番人気に推され、カリフォルニアクロームを破る可能性すらある馬と評価されているのがアロゲイト(牡3、父アンブライドルズソング)である。

 カリッド・アブドゥーラ殿下の競馬組織ジャドモントが、14年のキーンランド・セプテンバーセールにて56万ドルで購買し、ボブ・バファートが管理するのがアロゲイトだ。

 ジャドモントのアメリカ西海岸における管理調教師だったボビー・フランケルが亡くなったのが09年11月で、その後、フランケルの後継に指名された調教師はおらず、ジャドモントはアメリカ西海岸を拠点とする現役馬がいない状態が続いていた。だがアブドゥーラ殿下が、やはり西海岸にも馬を置きたいと希望。新たな管理調教師に指名されたのがボブ・バファートで、同師が14年のセプテンバーセールで目をつけたのが、特別4勝を含めて6勝を挙げた他、G3ウイジャボードディスタフH(d8F)3着の競走成績を残したバブラーの初子であるアロゲイトだった。

 デビューは今年の4月で、ロスアラミトスのメイドン(d6F)でデビューし3着。2走目となったサンタアニタのメイドン(d8.5F)を4.1/2馬身差で制して初勝利を挙げると、続くサンタアニタの条件戦(d8.5F)も5.1/4馬身差で快勝。更に8月4日にデルマーで行われた条件戦(d8.5F)も1.3/4馬身差で制して3連勝を飾ると、陣営がアロゲイトの次走に選択したのが、サラトガのG1トラヴァーズS(d10F)だった。

「ミッドサマーダービー」の異名をとるのがトラヴァーズSで、今年の出走馬も、G1プリークネスS勝ち馬で、前走G1ハスケル招待(d9F)を制して3度目のG1制覇を果たしたイグザジェレイター(牡3、父カーリン)、G1ベルモントSの1・2着馬クリエーター(牡3、父タピット)とデスティン(牡3、父ジャイアンツコーズウェイ)、G1ケンタッキーダービー(d10F)3着馬ガンランナー(牡3、父キャンディライド)、地元の前哨戦G2ジムダンディS(d9F)を勝っての参戦だったラオバン(牡3、父アンクルモー)、G1初挑戦だった前走G1ハスケル招待が2着だったアメリカンフリーダム(牡3、父プルピット)など、この世代を代表するそうそうたる顔ぶれが揃っていた。

 ここが重賞初挑戦だったアロゲイトが8番人気という評価だったのも無理はなかったのだが、それだけになおさら、トラヴァーズSで同馬が見せたパフォーマンスは鮮烈であった。

 1番枠という好枠からハナを奪ったアロゲイトは、半マイル=46秒84、6F=1分10秒85という、ダート10F戦としては暴走とも捉えられかねないハイラップを計時。それでいてアロゲイトの脚色はゴールまで全く衰えず、最後の2Fを23秒84でまとめた同馬は、後続に13.1/2馬身という圧倒的な差をつけて優勝。勝ち時計は、1979年のトラヴァーズSでゼネラルアセンブリーが作った2分0秒0という記録を37年ぶりに更新し、サラトガの10Fでは史上初めて2分の壁を破る1分59秒36という、途轍もない数字を叩き出したのであった。

 新たなスーパーホース誕生か?!、とメディアもファンも大騒ぎをすることになり、陣営が次走はBCクラシックであると表明すると、「カリフォルニアクローム vs アロゲイト」という新旧怪物対決が、今年のBCにおける最大の呼び物となった。

 ブックメーカーの前売りでは、カリフォルニアクロームが1.9倍〜2.4倍のオッズで1番人気。アロゲイトが3.5倍〜4.0倍の2番人気となっている。2頭から少し離れて、9.0〜11.0倍のオッズで3番人気となっているのが、フロステッド(牡4、父タピット)である。

 G1ウッドメモリアルS(d9F)を勝って臨んだG1ケンタッキーダービーが4着。G2ペンシルヴェニアダービー(d9F)を勝って臨んだG1BCクラシック(d10F)が7着。G2アルマクトゥームチャレンジ・ラウンド2(d1900m)を5馬身差で快勝して臨んだG1ドバイワールドCが5着と、肝心なところで不甲斐ない競馬を見せてきた馬だが、勝つときには実に鮮やかに勝つ馬で、例えば今年6月にベルモントパークのG1メトロポリタンH(d8F)を制した時などは、後続を14.1/4馬身もちぎるという、ド派手なパフォーマンスを見せている。

 そうかと思えば、BCの直前走となった9月3日にサラトガで行われたG1ウッドウォードS(d9F)では、1.4倍という圧倒的1番人気を裏切って3着に敗れるなど。良い時と悪い時の差が極端な馬で、つまりは当てに出来ないところはあるのだが、11月5日が彼にとって「良い時」の順番にあたれば、爆発的パフォーマンスを見せる可能性が皆無ではないのがフロステッドである。

 なお同馬は、クラシックではなく、前日(11月4日)に行われるG1BCダートマイル(d8F)に廻る可能性も検討されている。以下、G1サンタアニタH(d10F)、G1ゴールドC@サンタアニタ(d10F)と、今季の西海岸のビッグタイトルを2つ獲っているメラトニン(セン5、父コーディアックカウボーイ)。G1ウッドウォードSを制してG1初制覇を果たしたシャーマンゴースト(牡4、父ゴーストザッパー)。10月8日にベルモントパークで行われたG1ジョッキークラブGC(d10F)を制して2度目のG1制覇を果たしたホッパーチュニティ(牡5、父エニーギヴンサタデー)。6着に敗れた9月24日のG2ペンシルヴェニアダービー(d9F)を含めて目下3連敗中だが、デビューから無敗の8連勝でG1ケンタッキーダービーを制した頃の輝きが忘れられないナイクィスト(牡3、父アンクルモー)らが、脇を固める布陣となっている。

 北米ダート界の最高峰を巡る戦いに、日本の皆さまもぜひご注目いただきたい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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