来年度から変革を迎える地方競馬教養センター
幅広く人材を集めるために授業料を無償化
来年度から地方競馬教養センターがいくつかの変革を迎えます。そこで今回は、教養センターの教官たちのまとめ役である豊田哲士養成課長にお話を伺いました。
地方競馬教養センターの教官たちのまとめ役をされている豊田哲士養成課長
赤見:来年度から、4月入所と10月入所の1年2期制に戻すと発表がありましたが、どんな経緯で変更することになったんですか?
豊田:赤見さんが居た時もそうですけど、以前は2期制でした。1期15名程度を入所させ、1期平均で約12名の新人騎手を養成してきました。しかし、希望者が減ってしまって、優秀な人材を確保するのが難しい状況になりました。
そこで、平成17年度から4月入所のみの1期制に変更しました。そこから約10年経って、現在の地方競馬の現役騎手の年齢構成や、センターに入所しても、体重制限や自信喪失などで途中で辞める候補生はいますし、デビューしてからも早くに廃業してしまう若手騎手もいますから、将来騎手不足になる可能性があります。そこで2期制にして年間総募集人数を確保したいということになりました。来年度からは4月と10月の2期制に戻し、当時と同様に各期約12名、1年で24名を入所させ養成するようにしたいと考えています。
赤見:もう一つ、入学金や授業料が無償になるという大きな変更がありますね。
豊田:そうですね。これも以前は無償でしたが、平成17年度に1期制に変更する時に有償になりました。JRA競馬学校さんが、今年度からの授業料を無償にするという話もありましたし、騎手を養成するというのは地方競馬全国協会(NAR)の業務ですから、幅広く人材を集めるために無償にしようということになりました。それから、体重制限に関しても受験者の年齢によって幅を持たせ、門戸を広げることになりましたので、是非多くの方に受験して欲しいと思っています。
幅広く人材を集めるために来年度からは授業料が無償化される
赤見:時代の流れと共に教え方やカリキュラムなどにも変化があると思うのですが、何か新しく取り入れていることはありますか?
豊田:来年度からは授業にメンタルトレーニングを組み込む予定です。それから、カウンセラーの方に来ていただいて、心のケアにも力を入れていきます。フィジカル面はもちろんですが、メンタルもかなり重要な部分なので。昔と今とでは生徒の傾向も違いますから、我々もそのままではいけないと思っています。こちらもいろいろと勉強しながら教育していきます。
赤見:昔と今では、どんな風に違いますか?
豊田:個人差はありますけど、昔の子は…なんというかやんちゃな子が多かったですよね(笑)。赤見さんもご存知の通り、規則を破って騎乗停止、菓子停止などの処分を受ける子がけっこういましたから。でも今はおとなしめというか、規則を破る子はあまりいないです。どちらがいいか悪いかというのは一概には言えないですが、昔の子はハングリー精神がある分、反抗的な面もありました。今の子はこちらの言ったことを素直に聞いてくれるといういい面があります。もちろん、個人差はありますけど。いずれにしても、騎手という仕事は大きなケガや死に直結する可能性がありますから、厳しく指導する面は変わりません。
今も昔も変わらず、騎手になるために厳しく指導されている
赤見:昔と比べて一般家庭から入って来る生徒が多いとお聞きしましたが、所属競馬場や所属調教師はどう決めているんですか?
豊田:2年目に半年間の競馬場実習があるので、そこまでには所属を決めるようにしています。本人の希望を優先するわけですが、「南関東へ行きたい」という生徒が多いんですよね。憧れが強い分、現実がまだわからない場合もあるので、いろいろな競馬場のいい部分、厳しい部分を説明します。我々は斡旋ということはしないので、各主催者を通して調教師とマッチングして、あとは当人同士が決めるという形になります。
赤見:どんな騎手に育って欲しいと思いますか?
豊田:技術面や騎手としての基本的なことは当然として、一社会人としてここから巣立って行くので、良識を持って欲しいと思っています。騎手になるということは、自分の家族だけでなく、馬たちや厩舎関係者の方々にもお世話になるわけですから、感謝の気持ちを忘れない人間でいて欲しいですね。
「馬たちや厩舎関係者の方々にもお世話になるわけですから、感謝の気持ちを忘れない人間でいて欲しいですね」
赤見:ここで2年間生徒たちを見ていると、どの子が活躍するというのはわかりますか?
豊田:それがねぇ、けっこう難しいですね。例えば本人が努力をしていても、なかなか結果が出せないこともありますし、技術的に足りないところがあっても、騎乗機会に恵まれてメキメキ成長する子もいて。どこの競馬場、どこの厩舎の所属になっても活躍してもらいたいですね。
赤見:教官をしていて、やりがいを感じるのはどんな時ですか?
豊田:生徒たちの成長を感じる時です。こちらが教えたことができた時、今までできなかったことができた時はすごく嬉しいです。ここを修了して騎手になってからも、やはり教え子たちのことは気になりますね。レースや成績をチェックして、まだあの子は初勝利を挙げていないなとか、みんなで見守っています。
赤見:岩手の鈴木麻優騎手以来、女性候補生の合格者がいませんね。
豊田:受験者の1割は女性なんですけど、合格ラインに達しないと入所はできませんからね。残念ながらここ何年かは合格者はいません。でも、JRAの藤田菜七子騎手や、復帰した名古屋の宮下瞳騎手など女性騎手の活躍が目立ちますから、例年以上に希望する受験者は増えるのではないかと感じています。
赤見:11月から来年度入所の募集が始まりますが、騎手を目指す子たちにメッセージをお願いします。
「ぜひ、多くの方に挑戦してもらいたい」
豊田:とても厳しい世界ですが、地方競馬の大舞台で活躍できるやりがいのある仕事です。まずは、大きな目標を持って地方競馬教養センターの門を叩いてみてください。乗馬の経験の有無は問いません。ぜひ、多くの方に挑戦してもらいたいです。