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自らの意志

  • 2016年11月03日(木) 12時00分


新たな門を押しあけたモーリス


 ここがターニング・ポイントと、くぐる門を見つけたら前に進めるのだが、見つけてもその門が本当に自分を迎え入れてくれるのか、さらには、どこへ通じている門かはわからない。不安はそこにある。じっと耐える時間が長くなる。そのジレンマを吹きとばし、しかも、自らの意志でその門をくぐって新たなものをかち得る姿に接すると、勇気をもらったような気になれる。

 モーリスが天皇賞二千米を駈け抜ける勇姿を目の当りにして、やはりやってくれたという爽快な気分になれた。世界に名をとどろかした最強マイラーが、この秋の目標を天皇賞にと札幌記念に出たとき、大丈夫という思いと、いやどうかなという思いが交錯した。堀調教師は、一生懸命に走りすぎてしまうところがあると、調教で少しずつその面の改善を意識してきた。マイラーが二千米を走るにはどんな考え方ができるか。モーリスは差せる馬だから、マイル戦と同様の戦い方、前半はゆったり走って消耗を少なくし、事実上のマイルの戦い方をする。そうすれば二千米でも力は発揮できる、そういうことではないか。

 自らの意志で陣営は、二千米という門を見つけ、最強のマイラーに新たな勲章をと前進を始めたのだった。札幌記念は2着でも折り合い面には問題のないことを確認し、本番まではじっくりと鍛錬を重ねていた。陣営は「背腰にウィークポイントを抱えていたが、左右のバランスが整ってきた」と語っており、かなり総合力もアップしていたのだ。ムーア騎手を背に天皇賞でのレース運びには余裕があり、あと千六百米を切ったあたりでは、早くも勝利を予感させていた。十二分に準備を重ね、新たな門を押しあけたモーリスは、心身ともにスケールアップした姿を見せてくれた。

 一年年下のリアルスティールは、体調を整えるために毎日王冠を回避して調整したのがよく、海外GI馬らしい走りで上がり最速タイムで2着まで伸びてきた。この瞬間が新たなターニング・ポイントになったようで、装鞍所でテンションが上がって走れる状態ではなかったのにと矢作調教師は、能力の高さを再確認していた。門をくぐれば、次のGIが見えている。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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