競馬白書/長岡一也

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真実は藪の中

2016年11月10日(木)12時00分

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真実らしきものを探るのも楽しい


 真実はひとつ、なんて真っ赤な嘘。ほら、あなたは自分に都合よく思い込んでるだけではありませんかと、芥川龍之介は「藪の中」で書いている。自分の見ていること、憶えていることだけが事実だなんて、思ってもいなくても、見たくないことは見てもいないし、起こってないことでも起きたかのように記憶してしまうことだってあるんだから、人の心はミステリアスで、真実は、まさに「藪の中」ということ。競馬も、最初からこう思って取り組んでいるようなところがある。どう推理するか、その手法はいろいろあっても、最後は自分にしっくりくるものに決めるのだ。

 アルゼンチン共和国杯を勝ったシュヴァルグランは、秋競馬の始動は、京都大賞典からの予定を、疲れが取れないために遅らせたということ。その分じっくり調整を積むことができ、陣営にとり一番しっくりくる手法でつかんだ勝利といえる。去年の今頃は、条件戦を3連勝してオープン入りを果たしていた。

 阪神大賞典1着から春の天皇賞が3着だから、長い距離はいいし、この次はジャパンCで飛躍をと夢は広がる。秋のこのGII戦からジャパンCといえば、スクリーンヒーロー、モーリスの父馬がいた。そのモーリスの同世代のゴールドアクターは、アルゼンチン共和国杯から有馬記念と勝ち進んでいるし、シュヴァルグランにとり、さらなる成長を促した成果が見られてもいいと、ここは都合よく思いたくなるところだ。

 2着のアルバートにも似たようなことが言える。昨年、500万から4連勝でステイヤーズSを勝利し重賞初制覇。有馬記念から春の天皇賞まで3戦し、脚元の疲れをとるための休養を6ヶ月取り、今回のレースだった。今度はスタートもスムーズに行くだろうから、東京の適性の高さから、こちらも都合よく考えて行ける。

 大目標を前において戦うGII戦には、こうした取り組み方が特に合うように思えてならない。古馬ならなおのこと。藪の中をかき分けながら、真実らしきものを探るのも楽しい。
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コラムニストプロフィール

長岡一也
長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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