スマートフォン版へ

【障害GI連覇へ】石神深一騎手(2)『作戦通りの好騎乗!デビュー16年目で掴んだGI勝利』

  • 2016年11月14日(月) 12時01分
おじゃ馬します!

▲今週は石神騎手にとって悲願の初GI制覇となった中山GJ制覇のお話(撮影:下野雄規)


今年は12月23日(祝・金)に行われる中山大障害。オジュウチョウサンと石神騎手には、障害GI春秋連覇がかかります。毎日1時間の丁寧な調教を繰り返し、信頼関係を築いてきたふたり。その絆を信じて挑んだ春の中山GJは、「こう走って欲しいなという通りに馬が走ってくれた」とまさに会心の勝利でした。今週はそのレースを振り返ると共に、「大障害」に挑む障害ジョッキーの心理、中山大障害に向けての手応えに迫ります。(取材:赤見千尋)


(前回のつづき)

ジョッキーたちも前日からピリピリしています


赤見 ここからは中山GJ制覇のお話をお聞きしていきたいのですが、中山の「大障害コース」は大竹柵に大生垣、コース形態も独特で本当にタフですよね。

石神 右回り左回りもありますし、難しいコースです。起伏があるので人間もスタミナを使うんですよ。だから中山はGIじゃなくても疲れますね。

赤見 長いレースですし、途中で8の字になったり、乗っていて分からなくなりませんか?

石神 いや、それはないです(笑)。頭の中でシミュレーションは相当しますけどね。それに難しいけど、面白いですよ! 全部で4、5分乗ってますけど、終わってみるとあっという間です。

赤見 高さが160cmもある、あの大障害を目の前にした時というのは、怖さもありますか?

石神 ありますね。前日のスクーリングや返し馬で、馬に大竹柵と大生垣を見せるんですけど、「嫌だな…」と思います。前日の調整ルームでの障害ジョッキーたちの雰囲気も、いつもと違いますしね。普段はワイワイしてますけど、ピリピリ感があるというか。でも、レースに行ってしまえば、大障害もバンケットも気にならないです。やること自体は普段の障害と一緒ですし、あとは平常心で行けるように。

赤見 オジュウチョウサンはいつも、ネックストラップを付けていますよね。

石神 僕の場合は必ず付けてもらうんですけど、思ったより早く踏み切られた時にあおられないためです。馬によってはすごく遠くから跳ぶこともあって。手綱だけだとあおられたり、人間だけがバランスを崩して落ちてしまうこともあるんですけど、手綱と一緒に掴むと体がついて行けるんです。

赤見 そういう理由だったんですね。ちなみに遠くから跳ぶのと近くから跳ぶの、どちらがいいんですか?

石神 遠くから跳んだ方がスピードは落ちないです。ただ中盤になってくると、近めから跳んでもスピードが落ちないんですよね。それくらいでないと重賞は勝てないです。いくら平地の脚があっても、障害のたびにコンマ1秒2秒ロスしてしまうと、レース全体で2秒ぐらいのロスになってしまいますからね。

赤見 跳んでいる時って滞空時間が結構ありますけど、どんなことを考えているんですか?

石神 跳んでいる時は、次の障害のことを考えています。あのくらいの馬になると、次の障害まで見て行けるんです。跳ぶ時の呼吸も、だいぶ合ってきました。「こいつ、ここから行くな」というのがほぼ分かります。今年の緒戦あたりはまだ雑だったんですけど、中山GJからはパーフェクトと言っていいくらい。それだけ力を信頼しています。

赤見 そうすると中山GJは、思ったようなレース運びができたという?

石神 はい。想定していた中で一番“こう乗りたい”と思っていたように乗れました。相手はサナシオンだと思っていたので、大障害では射程圏に入れて跳びたいなと。どうすれば作戦通りに乗れるか、ゲートを出てからはそれだけを考えてました。

赤見 最後はサナシオンとオジュウチョウサンの一騎打ち。終わってみれば、強かったですよね。初めてのGI勝利ですし、ワーッとなるのかなって思ってたんですけど、勝利インタビューの時も冷静でしたよね?

おじゃ馬します!

▲逃げ切りを図るサナシオンと、捕えにかかるオジュウチョウサン(撮影:下野雄規)


おじゃ馬します!

▲こぶしを握りしめる石神騎手、このポーズにはある理由が!? 真相はこの後!(撮影:下野雄規)


石神 冷静でした。レースが日曜日だったら、次の日が休みなのでそうなれたかもしれないですけど、あの時は次の日が福島で騎乗だったので、「早く福島に行かないと」って気持ちがそっちに行っていて(笑)。

赤見 さすが、プロ!

石神 勝つ時って、結構冷静な自分がいるというか。レースでも熱くなり過ぎず、ちょうどいい精神状態でいられるんでしょうね。本当はガッツポーズをかっこよくキメたかったんですけど…。左手でステッキを挙げたかったんですが、右手で持っていたのでああなってしまいました。

赤見 GIを勝った実感はすぐに湧きましたか?

石神 いや…移動の新幹線でも全然湧いてこなくて。いつなんだろう? 家にお祝いの物が届いているのを見たり、週明けに厩舎に顔を出したら胡蝶蘭だらけになっているのを見たりして、じわじわと「あぁ、勝ったんだな」って。

赤見 たしかにレースの直後は、そこまで張り詰めていたものもありますし。見ていてもやっぱりすごいなって思います。全頭無事に飛越すると、お客さんも拍手して応援しますもんね。

石神 逆に拍手がないと、「誰か落ちたのかな」って不安になるんです。特に大障害は、ミスした時の落馬率が高いですからね。こればっかりは注意しても防げない場合もあるので、なるべくケガをしないように調教で練習するんですけど。落ちてもケガがなければいいんですけどね。

赤見 今までご自身も結構ケガは?

石神 あります。鎖骨は3回やってますし、20針縫ったところもあります。そういう時は怖くなりますし、「辞めたい」って思うんですけど、リハビリ中に競馬を見ると乗りたくなるんですよね。

赤見 やっぱり好きが勝るんですね。

石神 それに、本当に怖いのはレースより障害試験に受かるまでなんですよね。1回でも競馬を使えば上手になるんですけど、それまでの練習では急に止まったり、左右に揺れて拒否したり、落とされたり…。そこが一番怖いです。

赤見 障害に向いているのはどんな馬なんですか?

石神 やっぱり平地の脚は欲しいです。オジュウも末脚がすごいですからね。平地では結果を出せなかったですけど(新馬11着、未勝利8着の2戦)、こうやってGIを獲れるんですもんね。オジュウの場合は、多分気性がネックで走れてなかったんだと思いますけど。

おじゃ馬します!

▲「障害でも、やっぱり平地の脚は欲しいです。オジュウも末脚がすごいですからね」


赤見 次走は中山大障害。GI連覇に向けて手応えはいかがですか?

石神 ベストな状態で出せるように持って行くだけですね。この前、放牧へ行く馬運車に乗るのを見届けたんですけど、突っ張って立ち上がって、なかなか乗らないんですよ(笑)。

赤見 元気ありありですね。

石神 ありありです(笑)。厩務員さんから聞いたんですけど、東京HJのレース後も立ち上がったらしくて。週明けに獣医さんに診てもらったんですけど、あれだけのレースをしたのに全然疲れてなかったみたいです。去年あたりはレース後に疲れが残ったりしてたんですけど、今年の中山GJぐらいからそういうことがなくなったんですよね。

赤見 身体面でも成長しているんですね。

石神 自分が思っている以上に成長してくれてます。最初にも言いましたけど、初めて跨った頃は緩くて。ただその当時から、スタミナがすごいなとは思っていたんです。これでトモがしっかりしてくれば、どれだけ強くなるんだろうと思っていて、今まさにそれになりつつあります。

赤見 大障害はメンバー的にも面白くなりそうですね。

石神 面白いですね。サナシオン、アップトゥデイト、ニホンピロバロンにマキオボーラー、中山GJより強いと思います。サナシオンやアップトゥデイトが前で、オジュウやニホンピロがマークしていくと思うんですけど、そういうジョッキーの心理戦としても面白いと思います。

赤見 今度はチャンピオンとして、相当マークされそうですよね。

石神 東京でのここ2戦の内容もいいですからね。いかにうまく誘導してあげられるかだと思っています。こうやって人気を背負う馬でGIに挑めるのはいい緊張感がありますし、楽しみたいです。

(次回へつづく)



【読者プレゼント】


石神騎手のサイン入り、中山グランドジャンプのゴール前写真を、抽選で3名様にプレゼントいたします。ご希望の方は下記のフォームから、必要事項を明記の上、ご応募ください。

※受付は終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました。

おじゃ馬します!

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング