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トランプショック

  • 2016年11月12日(土) 12時00分


 今年は「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」の圧勝だろうと思っていたが、ここに来て「トランプショック」も有力候補になりそうな気がしてきた。

 なんの話かというと、毎年恒例の「新語・流行語大賞」である。まだ候補となる言葉も発表されていないようだが、「マイナンバー」や「センテンススプリング」など、「あれも今年だっけ?」と思うような言葉も候補にあがりそうなことを考えると、やはり、年の前半より後半に注目された言葉のほうが強いインパクトを感じさせる。

 年度代表馬にも同じことが言えるのではないか。フェブラリーステークスよりチャンピオンズカップ、安田記念よりマイルチャンピオンシップ、宝塚記念より有馬記念を勝った馬のほうが、強く印象に残る。

 もちろん、勝ちっぷりや相手関係、その馬の前後の成績などで総合的に判断されるわけだが、今年は、候補と考えられる馬が何頭もいる。

 今年は現時点でJRA・GIを2勝した馬がいないので、天皇賞・春を逃げ切ったキタサンブラック、宝塚記念でキタサンやドゥラメンテなど牡馬の一線級を下したマリアライト、仏イスパーン賞を圧勝したエイシンヒカリ、天皇賞・秋で適性の幅を見せつけたモーリスなどが、今後の成績次第でどう評価されるか、といったところだろう。皐月賞馬ディーマジェスティや菊花賞馬サトノダイヤモンドにもチャンスがありそうだ。

 これからのひとつひとつのGIが、年度代表馬をはじめとするタイトル争いに重要な意味を持つようになる。この緊張感が、秋競馬の大きな魅力にもなっている。

 さて、世間一般における新語・流行語大賞がどれになるかは選考委員会に任せるとして、競馬界において、今年それに相当する言葉は生まれただろうか。

 パッと思いつくのは、新人の藤田菜七子騎手が注目を集めた「菜七子フィーバー」だ。シーズン後半に出てきたという点では「海外馬券」も強い。武豊騎手が、アウォーディーで日本テレビ盃を勝ったあとのインタビューで言った「川崎でアウォーディー」も、特別賞ならいいかもしれない。

 ミルコ・デムーロ騎手はどんどん日本語が達者になり、今はもう私の英語などよりずっと上のレベルになっている。ああいう新鮮な言語感覚を持つ人こそ、日本ハムファイターズのトレイ・ヒルマン元監督の「信じられなーい」のように、私たちの凝り固まった発想の外側から、ユニークな新語・流行語を生み出す可能性がある。「日本の外国人騎手」ならではの一発に期待したい。

 最後に、冒頭に記した「トランプショック」について――。

 選挙期間中爆弾発言を繰り返していたドナルド・トランプ氏が接戦を制し、第45代米国大統領に就任することになった。それに異を唱えてデモをしたり、叫び声を上げるアメリカ人をニュースで見て、世界中で血を流しながら押しつけてきた民主主義に則った選挙で選んだ自分たちの代表を、よくぞあれだけボロカスに言うものだと思いながら、ふと我が身について考えた。

 私は好きで競馬を始め、誰かに無理強いされたわけではなく、買いたいと思って馬券を買うようになった。そういう生活を始めてから30年になろうとしているのだが、最近になって、競馬場に行くのを怖く感じるようになったのだ。

 ――またきょうも、自分の予想したのとは異なる1分半後、2分後の未来を見せつけられるのだろうか。

 と、身がすくんでしまう。

 読めない未来をワクワクドキドキしながら待つという心の余裕を、いつのまにか持つことができなくなっていた。

 ――じゃあ行かなければいいじゃないか。

 と言われそうだが、行かずにはいられない。行かないと自分ではなくなる気がして、それもまた怖いのだ。

 これはもう「生きるのが怖い」とこぼしているのに等しいのだが、しかし、死ぬのはもっと怖い。

 だから私は、今週もまた、ビビリながら馬券を買うことになるだろう。怖い怖いと言いながら競馬新聞をひろげる私を、他人がどう見るかはわかならいが、自分ではおかしいと思わない。

 そんな自分と、トランプショックで騒ぐアメリカ人とが重なった。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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