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ジャパンカップの改革を

  • 2016年11月26日(土) 12時00分


 今週行われる第36回ジャパンカップに出走する外国馬は3頭にとどまった。昨年コンマ3秒差の6着になったイラプトは上位争いしそうな気もするが、3頭というのはいかにも寂しいし、「目玉」と呼べる大物がいない。

 近年、外国馬の出走が少なくなっている理由として、1)千葉県白井市の競馬学校で5日間の輸入検疫をしてから東京競馬場に移動しなければならないことや、2)国によっては貨物便の日本への直行便がないこと、3)米国ブリーダーズカップと香港国際諸競走の間の開催なのでローテーションが厳しくなること、4)賞金面での魅力が相対的に乏しくなったこと、5)日本の馬場が硬すぎること、そして、6)日本馬が強くなって外国馬の勝つチャンスが少なくなったことなどが挙げられている。

 人と馬のアゴアシ付きの招待レースなのに、過去10年の平均出走頭数が4頭だけというのは、やはり、上記の要因が海外の関係者に二の足を踏ませているからだろう。

 ジャパンカップがこの条件のまま開催される限り、来年も再来年も、最強クラスの外国馬が何頭も来るという状況にはならないと思われる。

 よく、国際招待レースとしてのジャパンカップは曲がり角に来ていると言われるが、来ているどころか、もう角を曲がってしまったと見るべきかもしれない。過去の勝ち馬や、世界レコードで名勝負を演じたオグリキャップをはじめとする駿馬たちの名誉のためにも、ジャパンカップには「格」を保ってもらわないと、いや、上げてもらわないと困る。

 そのためにはどうすればいいのか。前述した1)から6)までの要因を改善すればいいわけだが、しかし、検疫や馬場の問題は、10頭以上の外国馬が参戦していたころも同じだった。また、日本馬が強くなった云々は、そのためにこのレースを創設したわけだし、逆のパターンで、日本馬が凱旋門賞に挑戦するのは相手が強いからこそだから、それが参戦をためらう理由とは言えない。

 直行便の問題だって、これが人間なら、本当に会いたい人や食べたいものがあれば、電車とバスを乗り継いで、さらにしばらく歩くことになっても行くだろうし、賞金も、1着賞金はもちろん、諸外国と違って2、3着も高額で、実質8着まで支払われるのだから、十分ではないか。

 となると、どうにかできそうなのは、開催時期を含むレースそのものの条件ということになる。

 一日に条件の異なる複数のGIを開催して「ジャパンカップミーティング」の魅力を高めてはどうかという意見もあるが、そうするにしても、この時期に開催する限り、今年の場合12月11日に行われる香港国際諸競走と時期が近すぎる。ジャパンカップから中1週。両方に出るというのは現実的ではないので、バッティングする、と表現していいだろう。

 ここは単純に考えて、地理的に近い香港とバッティングするくらいなら、11月頭のブリーダーズカップか、10月頭の凱旋門賞とバッティングしたほうがまだいいのではないか。

 ただ、凱旋門賞と同時期にすると中山開催になってしまうので、ブリーダーズカップと重なる11月頭か10月の終わり……となると、天皇賞・秋が行われる時期が、もっともいいように思う。つまり、ジャパンカップと天皇賞・秋を入れ替えるのだ。

 もともと、ジャパンカップが創設されたのと、天皇賞・秋の距離が3200mから2000mに短縮されてこの時期に実施されるようになったのは、「世界に通用する強い馬づくり」というひとつの流れのなかで行われた番組改革の結果だった。それにより、2000mの天皇賞・秋−2400mのジャパンカップ−2500mの有馬記念という3つのビッグレースが、少しずつ距離を延ばしていくワンセットのものになったわけだ。

 それを考慮すると、私がここに書いている案は時代に逆行することになり、2400mのジャパンカップ−2000mの天皇賞・秋−2500mの有馬記念という並びになってしまう。

 確かに、ジャパンカップのために、伝統ある天皇賞を動かしてしまうのはいかがなものかと自分でも思う。今は「天皇賞・秋を勝つことが、種牡馬としての価値をもっとも高めることになる」とまで言われているから、余計にそう思ってしまう。

 しかし、だ。距離適性を考え、3歳馬(旧4歳馬)が菊花賞ではなく天皇賞・秋を狙うようになったのは、1995年のジェニュインあたりが先駆けだと思うのだが、もし、天皇賞・秋が11月の終わりになれば、菊花賞に出てから、天皇賞・秋に参戦することも可能になる。クラシック三冠競走のステイタスのためにはプラスの変更と言えよう。

 また、先ほどからブリーダーズカップとバッティングと書いているが、正確には、ブリーダーズカップターフとバッティング、である。そうなるとアメリカの芝の強豪のジャパンカップ参戦が見込めなくなるわけだが、今だってほとんど出てこないのだから、割り切るしかない。それに、ブリーダーズカップのメインとなるのはダート2000mのクラシックだから、イベント全体としては、互いに邪魔し合うことにはならないだろう。

 10月の終わり(あるいは11月の初め)にジャパンカップがあれば、凱旋門賞−ジャパンカップ−香港カップ(ヴァーズ)と使えるようになるので、ヨーロッパの一流馬が参戦しやすくなるのではないか。

 これだと、大目標を香港に据えた馬のアジアまでの輸送費を日本で持ってやることになりかねないし、なんか、香港国際諸競走の力に屈したみたいで悔しくないこともないが、そんなことは言ってられない。

 あくまでも個人的な考えだが、とにかく、今のままではジャパンカップのためにはよくないと思う。

 外国馬ゼロという悲惨なことになる前に、改革を望みたい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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