競馬白書/長岡一也

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馬本位に徹底した鍛錬

2016年12月01日(木)12時00分

注目数:9人


サラブレッドにも感情がある


 人間は感情の動物と言う。喜怒哀楽の感情の動きは五感と言われる視、聴、嗅、味、触を反映させるのだが、それを決定づけるのは頭なのか何なのかは判りにくい。一方で、腹の虫、かんしゃく玉、堪忍袋なるものがあって、これ次第とも言われてきた。どんな人間でも怒らない者は少なく、「仏の顔も三度まで」とことわざにあるし、おとなしい兎も「兎も七日なぶれば噛みつく」と言っている。また、「短気は損気」だから、やたら怒るのは愚なことだと言い、「ならぬ堪忍するが堪忍」と教えている。いかに感情次第、気持次第かが見えてくる。

 サラブレッドにも当然感情がある。気分を損なうと、人の思う通りにはならない。「騎手は馬の気に乗れ」ということばがあるくらいだ。ジャパンカップを逃げ切ったキタサンブラックは、どのレースでも実に堅実に走ってきた。ただ一度だけ、ダービーでの大敗があるのだが、この14着について陣営は、そこまで使いづめできていてテンションが上がっていたと言っていた。1月31日のデビュー勝ちから、500万を勝ってスプリングSもと3連勝し、皐月賞が終始2番手と先行して頑張り3着、毎月重要な戦いをくり返すうちに少しずつ追いつめられていったのだろう。5戦目のダービーでは、普段のゆったりした走りではなかったのだ。キタサンブラックのその時点での気持を察したからこそ、それからの戦い方はガラリと一変させていた。とにかく疲労を蓄積させてはいけない。馬本位に徹底した鍛錬を積み重ねるほどに、しっかり筋肉もつき、その分十二分の調整ができるようになっていた。気分が安定していることで、レースでも力むところは全くなく、最後の踏ん張りにもつながっている。

 ジャパンカップは、一番いいスタートを切り、どの馬もからんで行くのをやめていた。武豊騎手の手の内にすっかり入った流れは、どこまで行ってもキタサンブラックのもの。人馬とも、実に気分壮快な勝利だった。有馬記念、そして来年も現役を続けて行くとなれば、その王者の風格を味わう機会はまだまだ続く。そして、その牙城を崩すものを捜す楽しみも大きくなる。
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コラムニストプロフィール

長岡一也
長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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