競馬白書/長岡一也

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自分本来の心を失なわずに

2016年12月08日(木)12時00分

注目数:9人


心に決めた戦い方に徹し切る


 人生は、何事につけ一分を減らすと、その分だけ世間とのかかわりから離れることができる。たとえば、交友関係を少なくすれば、その分わずらわしさから解放されるし、口数を減らせば過失も少なくなる。思案を減らせば精神的な疲れも軽くなるし、利口ぶるのを抑えれば自分本来の心を取り戻すことができる。日々減らすことに努めず、日々増すことに努めている者は、自分の人生を世間のしがらみでがんじがらめにしているようなものだ。中国の古典、菜根譚に書かれている生きる知恵だが、自分本来の心を失なわずにという捉え方、如何なるときも大切にしたいものだ。

 チャンピオンズカップで中央のダートGIを初制覇したサウンドトゥルーは、末脚に自信を持っていて、確実に上位に来ていたのだが、勝ち切るにはどうしたらいいのか悩ましいところがあった。昨年、東京大賞典でホッコータルマエを差し切って勝ったように上位の力があるのだが、テンが多少遅い地方の交流GIなら中団あたりにつけられるが、中央では置かれてしまうと高木調教師は承知していた。だから、もう少し前につけられるようにとは考えず、あまりせかすと自分の走るリズムを崩すので、位置取りは後ろになるのは覚悟していた。思案をひとつ減らしていたのだ。

 騎乗した大野拓弥騎手は、戦いの前からしっかり心に決めていたことがあった。昨年3着になったとき、最後方から大外一気でメンバー最速の上がりをマークしていたが、インを突く予定が先に他馬に入られてしまい仕方なく外を選択させられていたので、今回は、3、4コーナーは内をぴったり回って、ただリズムよくだけを考えていた。本当はもう少し前で運びたかったと語っていたが、そこはコース取りだけを第一に考えた戦い方に徹していたのだった。

 思案を減らすことで願っていた最高の進路が取れ、直線は、徐々に外の開いたスペースに誘導してあの切れ味を発揮できたのだ。こう戦うのだと焦らず慌てず徹し切ったことでつかんだ勝利と言える。レースの流れが速く、これを追い掛けざるを得なかった大本命のアウォーディーに対し、勝者には、うってつけの展開だったことも付け加えておきたい。勝負は紙一重だ。
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コラムニストプロフィール

長岡一也
長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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