「存在するための技術」を求めて
不思議な魔力で心を酔わせ、虜にしてしまう。そんな作品に出会うと楽しい。競馬は筋書のないドラマと言われて久しいが、ここにも不思議な魔力を感じるときがある。寺山修司は、競馬においては「強いものが勝つ」という論理は通用などしない。本質が存在に先行するならば、賭けたり選んだりすることは無用だからである。「勝ったから強い」のであり、存在は本質に先行するからこそ、人は「存在するための技術」を求めてやまないのであると、著書「競馬への望郷」で書いている。世代の頂に立つための戦いが続いていく中で、この「存在するための技術」を求める努力も続けられている。
その成果がどう出るか、正にそこに最大の関心が集まるのが競馬だが、阪神ジュベナイルFを勝ったソウルスターリングは、不思議な魔力で心を酔わせる強さだった。藤沢和調教師は、走る牝馬は気のいいタイプが多いとよく言っているが、ソウルスターリングはレースセンスがあり素直な馬で、加えて、精神面の強さが光っている。スタート直前、となりの馬が何度も立ち上がっても動じることなく、スムーズなスタートを切り、ルメール騎手が言うように、いいポジションを取って馬がリラックスして走っていたので楽だった。とびもしっかりしていて、これぞ2歳女王と呼ぶにふさわしいと誰しもにも思わせた。完璧な立ち回りで不安に思う瞬間は一度もなく、追い出しを最後のひとハロンまで待つほどの余裕、よほど自信があったのだろう。そのスケールの大きさから、今後どう力を発揮していくか、誰もがわくわくする思いを抱いたといってもいい。
一方で、香港カップで有終の美を飾ったモーリスにも圧倒された。昨年のマイルでの強さから、この一年の後半は、二千米でさらなる進化を発揮した。「存在するための技術」を求め続けてきた堀調教師の努力が報われたのだが、香港ヴァーズのサトノクラウンと併せて、一日で海外のGI2勝という快挙にも、強烈なインパクトを受けたし、不思議な魔力を感じざるを得なかった。他を圧倒するシーンには言葉もなく、いいものを見せてもらったの思いが残るのがうれしい。