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追い風が吹いたサトノアレスの鮮やかな直線一気/朝日杯FS

  • 2016年12月19日(月) 18時00分


とうとう実を結んだ母サトノアマゾネスの牝系

 勝負事には追い風が吹くことがある、とはこういうことなのか。伏兵サトノアレス(父ディープインパクト)の鮮やかな直線一気が決まった。

 この秋、菊花賞でサトノダイヤモンド(父ディープインパクト)により長年の悲願だったG1制覇を達成した里見治オーナーは、先週の香港ヴァースではサトノクラウン(父マルジュ)が快勝している。これまでビッグレースを勝てなかったことなどまるでウソのようにあっという間にG1競走3勝。今年はJRA重賞9勝でもある。トレーナーとして手がける藤沢和雄調教師も、久しぶりにG1を勝った先週のソウルスターリング(父フランケル)につづき2週連続となった。

 有馬記念には、オーナー歴ほぼ四半世紀、ついに最初のG1を制した里見オーナーのサトノダイヤモンドが出走する。対するキタサンブラック(父ブラックタイド)も、馬主歴53年目にしてとうとうG1を制した北島三郎オーナーの菊花賞馬である。悲願を果たして波に乗るオーナー同士の対決には、強烈な追い風が吹きまくりそうである。

 サトノアレスは、輸入牝馬の母サトノアマゾネス(父デインヒル)も里見オーナーの名義で走った馬であり、全兄のサトノヒーローも、同じく全兄のサトノフェラーリもすべて里見オーナーの所有馬なので、ほとんどオーナーブリーディングホースである。サトノダイヤモンド、サトノクラウンとは少し異なり、長年のオーナーとしての格別の喜びがあることだろう。

 勝ちタイムの1分35秒4(レースバランスは48秒3-47秒1)はいかにも平凡だが、ソウルスターリングが1分34秒0で勝った先週と異なり、土曜の古馬オープンのリゲルSが1分34秒8(47秒6-47秒2)であり、直前の古馬1600万下の元町Sが1分35秒4(48秒8-46秒6)だった。朝日杯FSの時計が遅いわけではない。馬場差は1秒0以上もあったろう。

 連続して種牡馬ディープインパクトを交配され、とうとう実を結んだ母サトノアマゾネスの牝系は、ちょっと見ただけではブラックタイプの並ぶ一族ではないが、サトノアレスの祖母にあたるプローンカクテルは、成功した種牡馬ロイヤルアカデミーII(父ニジンスキー)の半妹になる。競走馬としてBCマイル、ジュライCなどを制したロイヤルアカデミーIIは、安田記念を快勝したブリッシュラック(香港、トリプティクの一族)などの父として知られる。

 というより、祖母プローンカクテルは、大種牡馬ストームキャットの母ターリングア(父セクレタリアト)と姉妹同士なのである。競走馬としてのストームキャット直仔は日本にはあまり合っていなかったが、母方に入った時の重要性はみんなが予感していたから、社台グループを中心に輸入されたストームキャット牝馬はきわめて多い。時を経て、ディープインパクトとの配合で大成功していることは知られる。

 とすると、サトノアレスの母サトノアマゾネスにことさらこだわった「社台ファーム=里見オーナー」の期待が理解できたような気がする。母も、その産駒もみんな自分の名義で走った里見治オーナーの未来展望は素晴らしかったのである。また、サトノアレスから数えると3代母になるクリムズンセイントは、名前から推測できるように種牡馬クリムズンサタン産駒(USA伝統のヒムヤー系)。クリムズンサタンは、牝系を発展させる輸入牝馬スカーレットインク(ダイワメジャーなどの牝祖)の父でもある。ストームキャットの場合は、母の母の父がクリムズンサタンになる。

 ベテラン四位洋文騎手(44)は6年8ヶ月ぶりのG1制覇であり、種牡馬ディープインパクトはこのG1勝ちにより、2歳種牡馬ランキング部門で、ダイワメジャーを交わし2位からトップに躍り出た。残るはあと1週なので、昨年は2位に甘んじた2歳リーディングサイアーの1位返り咲きが濃厚となった。

 人気の中心となった牝馬ミスエルテ(父フランケル)は、イレ込みというほどではないが、パドックに登場したときから、カリカリする気性が前面に出てしまった。返し馬に入る前から汗ばんでいたのも、予測されたこととはいえ、男馬相手のG1ではマイナスだった。

 今回は出負けすることもなく、中位追走から正攻法のレースができたことも、直線苦しくなってからもう一回伸びた内容も悪くないが、テンションが上がりすぎる気性を封じるには小休止の期間が必要だろう。チューリップ賞あたりで戦列に戻るまで休養(再鍛錬)すると思われるが、3歳春シーズンの再出発を前に、精神的にどこまで成長するかがカギをにぎることになる。

 2着に突っ込んだモンドキャンノ(父キンシャサノキセキ、母の父サクラバクシンオー)は7番人気。状態の良さは衆目一致でも、いかにも短距離タイプを思わせるトモ高の体型から、総合力を求められる阪神のマイル戦ではもうひとつ強気になれないところがあった。

 これは、デイリー杯を粘って2着していたボンセルヴィーソ(父ダイワメジャー)にも通じるところがあり、本来は2歳のマイル重賞で評価を下げる必要はないが、前者は京王杯2歳Sのレベルに(2着レーヌミノル)、後者はデイリー杯2歳Sのレースレベル(勝ったのはジューヌエコール)にも疑問があったからである。阪神JFで、レーヌミノルは3着(3番人気)、ジューヌエコールは11着(4番人気)だった。

 しかし、牝馬ミスエルテが人気の中心になった今回、その理由の1つは、牡馬陣の全体のレベルはあまり高くないのではないか、と思われたところにあった。実際ほぼその通りだったのだから、7番人気モンドキャンノ、12番人気ボンセルヴィーソは、この時点での勢力図のなかではもっと評価されても良かったのかもしれない。

 2番人気ダンビュライト(父ルーラーシップ)、3番人気クリアザトラック(父ディープインパクト)、4番人気レッドアンシェル(父マンハッタンカフェ)、5番人気タガノアシュラ(父マンハッタンカフェ)は、もちろんこれでいきなり評価の下がる注目馬ではないが、理由は分かれても現時点では力負け。この組み合わせで力負けには厳しいものがある。

 トラスト(父スクリーンヒーロー)は、8番人気。デキは素晴らしく、先行態勢からインに入ってしぶとく粘ったから底をみせたわけではないが、逃げたボンセルヴィーソ(60秒6-35秒2=1分35秒8)に2馬身も突き放されたのはショックだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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