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まばゆいばかりの青春時代

  • 2016年12月22日(木) 12時00分


競馬の中に明かるい未来を見つける


 善にも強ければ、悪にも強いというのがいちばん強力な性格であるとニーチェは言っている。人間的というのは、そういうことにも関連しているのかもしれない。だが、最初からそうである筈はない。生命力にあふれ、まばゆいばかりの青春時代、自分にしかできない何かがきっとあると模索する日々。いろいろやって、この才能は自分にはないと自覚する旅をしていたようなもの。かつて通り過ぎたこうした日々を思うとき、競馬の中に明かるい未来を見つけるとうれしくなる。

 朝日杯FSは、そうした夢を見させてくれるレースだ。一頭の若駒にかかわる人間の思いが、そのストーリーを盛り上げてくれる。今年の主役を演じたサトノアレス。一戦、二戦と勝ち切れなくとも、藤沢調教師の思いは変らなかった。3戦目で強い勝ち方をしてひと息入れ、前走のベゴニア賞では、久々でもかかることなく、けた違いの脚で早目に先頭に立ち、そのまま押し切って驚かされた。一連の戦いぶりから、何よりも体質の強いのがいい。心身ともしっかりしてきた。体調が尻上がりによくなっていて、柔軟性があり芯が通っている馬と、師から満足のことばがあふれていた。中山、東京、そして今回の阪神と、末の切れ味はどこで走ってもよく、どの舞台に替わっても対応できるレースセンスのよさを、担当する助手は強調している。早い時期から輸送を経験してきたのもよかったようだ。

 テン乗りだった四位騎手は、さすがベテラン。末脚がしっかりしているからと藤沢調教師から聞いていたことで、どんな流れになろうとも、馬を信じて乗っていた。かえってテン乗りだったことで、その点はあれこれ考えることはなかったのだろう。巡ってきた好機を生かし切れたことで、オーナー、きゅう舎関係者への感謝の言葉を述べていたが、チャンスが来ればきっと生かして見せる、そんな心構えが見えていた。自分の勝利以上に、こんな素質馬のチームの一員に加われたことの喜びが大きいという言い方に、明日への夢が強く感じられ、早くも来春のクラシック戦線に、その存在がはっきり見えてきた。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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