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一段と秘める資質に研磨が重なったサトノダイヤモンド/有馬記念

  • 2016年12月26日(月) 18時00分


史上2度目の「1→2→3」番人気の順番通りの組み合わせ

 ファン投票によって出走馬が選出される「グランプリ(大賞)」は、楽しいオールスター戦の趣きが前面に出ることが多かった。しかし、秋の主要路線のビッグレースの中身がきびしくなり、さらにはレベルが高くなるにしたがい、「天皇賞・秋(菊花賞)→ジャパンC(エリザベス女王杯)→有馬記念」の3戦に多くのトップホースが絶好の状態で出走し、満足できる結果を残すことは至難であると、最近になるほど変わってきた。

 今年の16頭、ここまで秋のG1を2戦した馬は1頭もいなかった。キタサンブラックゴールドアクターサウンズオブアースシュヴァルグランなどは、GIIをステップに「ジャパンC→有馬記念」を最初から予定の日程とし、たまたま今年はサトノダイヤモンドだけの出走になったが、「菊花賞(秋華賞)→有馬記念」の3歳馬が加わる形が完全に定着してきたのである。

 ファン投票ではあっても、年度末のおまけのオールスター戦ではなく、有馬記念でこそ雌雄を決してほしいとする「チャンピオンシップ」に完全に変化したのである。実際、もう「おつりは残っていない」という馬は存在しなかったように思える。

 過去60回の有馬記念で、たった1度しか出現したことのない記録があった。それは、すでにオールドファンの仲間入りした人びとだけがナマで見ている1977年の「テンポイント、トウショウボーイ、グリーングラス」の対決であり、「1番人気、2番人気、3番人気」の順番通りの決着だった。

 今年、「サトノダイヤモンド、キタサンブラック、ゴールドアクター」のレース結果は、史上2度目の「1→2→3」番人気の順番通りの組み合わせだったのである。高配当を望んだファンにはあまりに物足りない結末だったが、驚いたのは1番人気、2番人気馬の最終的な逆転だった。

 前日まで、キタサンブラック「2.5倍」、サトノダイヤモンド「3.1倍」で推移していたオッズは当日の午前中は変化しなかったが、午後になるとサトノダイヤモンドがしだいに票を伸ばし始め、直前には追いつこうとしている。そんな数字だったが、レース結果が出てびっくり。1番人気は逆転していたのである。ファンの目はあくまでも厳しくシビアだった。

 パドックに登場したキタサンブラックは、落ち着き払って、まさにGI3勝のチャンピオンホース。非の打ちどころなし。たとえ厳しい展開になっても失速などありえないと映る、それはハイレベルの仕上がりだった。

 ところが、研ぎ澄まされた11番サトノダイヤモンドは、光り輝いていたのである。父ディープインパクトは、あくまで見た目だが、ため息の出るような姿、形ではなかった。走り出すまで飛ぶようなフットワークを秘めているとは思わせない馬だった。そういう意味では500キロのサトノダイヤモンドは、440キロ前後だったディープインパクトにあまり似ていない。日本ダービー時、菊花賞時のサトノダイヤモンドは見栄えがするグッドルッキングホースにすぎなかったが、また一段と秘める資質に研磨が重なったようだった。誰もが満点をつけるパドックはめったにない。

 直前になって人気のキタサンブラックの評価が下がったわけではない。それを前日段階の310円から、(だれかが)一気にではなく、どんどん変化して260円にしたファンの眼力はすごい。

 宣言通りマルターズアポジーの先導した流れは、前後半の1200mに2分すると「1分13秒9-(6秒4)-1分12秒3」=2分32秒6。前半の1200m通過地点では6馬身前後は離していたから、2番手のキタサンブラックの前半は推定「1分15秒0」前後のスローである。マルターズアポジーから離れ、レース中盤で「2、3、4番手」にいたキタサンブラック、ゴールドアクター、サトノダイヤモンドは失速しようがない望外に楽なペースだった。

 キタサンブラックのジャパンC・2400mは「1分14秒2-1分11秒6」=2分25秒8のスローだったが、コースが異なるとはいえ、中間の100mをカットすると、2番手から抜け出して勝ったとも思えた有馬記念のキタサンブラックの前後半は、推定「1分14秒9-1分12秒3」となる。芝コンディションや坂の場所が関係するから後半のラップは少し落ちるが、ペースとするとキタサンブラックにとってはジャパンC以上に楽なペースだった。当然、このペースだから後方に位置した馬はよほどでないと届く道理がない。

 勝ったサトノダイヤモンドのルメール騎手の素晴らしかったところは、宣言通りのキタサンマークだったが、1コーナー過ぎのちょうど1000mから1200mにさしかかる地点「ハロンラップ13秒4」に落ち込んだ場所で、苦もなく3番手に進出したことである。それからは機をうかがいつつ進んだ3頭の、スパートのタイミングだけ。3コーナー手前でサトノノブレス(シュミノー騎手)があまりのスローに外から進出して3番手の外に並んだが、キタサンブラックに並んでペースを乱すまでには至らず、厩舎作戦でも、同オーナー作戦でも、確かにシュミノーは何か叫んでいたようみえるが、ルメール=シュミノー作戦でも、なんでもない。叫ぶとしたら「なにをみんなモタモタ牽制し合っているのだ…」だっただろう。結果として、外から進出したから、実際はサトノダイヤモンドのスムーズなスパートを邪魔しただけである。だから、3〜4コーナーで一度怪しくなりかけている。これは全周パトロールビデオで確認できる。

 平凡だが、「キタサンブラックは負けて強し」だった。この先も上がりの鋭さ勝負は歓迎ではないだろうが、まだまだパワーアップは可能である。あの手応えで、あの差を逆転して猛然と伸びたサトノダイヤモンドを称えるしかない。最終レースが終わってだいぶ経ってから、ひと息ついて窓の外を見たら、北島さんがニコニコしながらファンの前で歌っていた。口惜しいだろうに…。完全に勝ったとみえた態勢から、クビ差の逆転負けである。ふつうは立ち上がれない。半世紀にも及ぶオーナーの、見事なレースのあとだった。

 連覇を狙った5歳ゴールドアクター(父スクリーンヒーロー)は、勢いに乗っていた昨年とは違っていた。立ち直ってはいたが、2着キタサンブラックは4歳、勝ったサトノダイヤモンドは3歳。有馬記念にはそういう冷たい一面もある。6歳以上馬5頭は、みんな最後は後方だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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