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新種牡馬の顔触れ

  • 2016年12月28日(水) 12時00分


北米供用の新種牡馬で、最も高い種付け料を設定されたのは

 2017年が初供用となる新種牡馬の顔触れと、それらの種付け料がほぼ出揃った。

 北米供用の新種牡馬で、最も高い種付け料を設定されたのは意外にも、ダーレー・スタッドで種牡馬入りするフロステッドで、金額は5万ドル、日本円にしておよそ590万円という設定になった。

 ダーレーが生産しゴドルフィンの所有馬として走ったフロステッドは、G2だった時代のコティリヨンH(d8.5F)を含めて9勝しているファストクッキーの5番仔にあたる。祖母フリートレディが重賞2勝馬で、その産駒に2歳チャンピオンのミッドシップマンがいるという、上質な血統背景を持っている。K・マクラフリン厩舎からデビューし、3歳春にG1ウッドメモリアルS(d9F)で重賞初制覇。G1ケンタッキーダービー(d10F)4着、G1ベルモントS(d12F)2着と、3冠戦線でも健闘している。その後、3歳秋にG2ペンシルヴェニアダービー(d9F)、4歳春にG2アルマクトゥームチャレンジ・ラウンド2(d1900m)を制した後、この馬のベストパフォーマンスとなったのが、4歳6月に制したG1メトロポリタンH(d8F)だった。1891年に創設された伝統の一戦で、フロステッドは後続に14.1/4馬身差をつけ、1分32秒73というステークスレコードを樹立して圧勝。フロステッドは続くG1ホイットニーH(d9F)も制し、通算で3つのG1を手中にしている。

 北米で大人気のタピットの直仔であり、なおかつ、牝系もしっかりしているという血統背景と、メトロポリタンHで見せた爆発的なスピードが、5万ドルという高値を呼んだようである。

 冒頭でフロステッドの最高値を「意外にも」と記したのは、来春に北米で種牡馬入りする顔触れには、カリフォルニアクローム(父ラッキープルピット)というビッグネームが含まれているからだった。テイラーメイドで種牡馬となる同馬には、4万ドル(約472万円)という種付け料が設定されている。

 カリフォルニア産馬で、2歳時はカリフォルニア産馬限定戦でも敗北を喫していた馬が、3歳を迎えて大変身。楽勝続きで連勝街道をひた走り、G1ケンタッキーダービー(d10F)、G1プリークネスS(d9.5F)の2冠を制覇。G1ベルモントS(d12F)で4着に敗れて3冠を逃すと、これを皮切りに3連敗を喫したが、3歳最終戦に選択した芝のG1ハリウッドダービー(芝9F)を優勝。これが決め手となって、全米年度代表馬に選出されている。4歳時は故障でシーズンの後半を棒に振り、しかも未勝利に終わったが、5歳を迎えた16年に競走馬としての完成期を迎え、シーズン当初から、G1ドバイワールドC(d2000m)など3つのG1を含む6連勝をマーク。ただし秋の大一番G1BCクラシック(d10F)では、2世代年下のアロゲイトの後塵を拝し2着に敗れている。地元での引退レースとなった12月17日のウィンターチャレンジS(d8.5F)を12馬身差で楽勝した後、1月28日にガルフストリームパークで行われるペガサスワールドC(d9F)が、現役最後の一戦となる。競走馬としての実績は明らかにフロステッドよりも上なのだが、種付け料はフロステッドを下回ったのは、血統面の弱さと、2歳戦で活躍していない点が考慮されたものと見られている。

 北米供用の新種牡馬でこれに次ぐのが、ウィンスターファームにて3万ドル(約354万円)で供用されるイグザジェレイター(父カーリン)だ。2歳8月にG2サラトガスペシャル(d6.5F)を制したのを含め、2歳時に2重賞を制し、仕上がりの早さを見せたのがイグザジェレイターだ。3歳春にG1サンタアニタダービー(d9F)でG1初制覇。その後、G1プリークネスS(d9.5F)、G1ハスケル招待(d9F)も制している。また、16年の3歳世代で、3冠を皆勤したのはラニとこの馬だけで、丈夫さも持った馬だった。一方で、叔母にカナダの古牝馬チャンピオン・エンバーズソングがいるものの、この馬自身がキーンランド9月1歳セールにて11万ドルという廉価で購入されているように、牝系は相当に地味である。

 近年、種牡馬の層が厚いのがヨーロッパだが、17年の新種牡馬はやや小粒な印象がある。そんな中、欧州供用馬で最も高い種付け料を設定されたのは、仏国のブケット牧場にて繋養されるシャラー(父インヴィンシブルスピリット)で、価格は2万7500ユーロ(約340万円)となった。2歳時の戦績、6戦5勝。デビュー2戦目で初勝利をあげると、圧倒的なスピードを武器に、G1モルニー賞(芝1200m)、G1ミドルパークS(芝6F)など、4重賞を含む5連勝をマーク。手綱をとったランフランコ・デットーリをして、「自らが騎乗した最速の2歳馬」と言わしめたのがシャラーだった。骨盤を傷めて3歳シーズンの始動は秋になったが、初戦となったG3ベンガフS(芝6F)を、1年の休み明けだったにも関わらず快勝。続くG1ブリティッシュチャンピオンズ・スプリント(6F)は10着に敗れ、現役を退いている。叔父にG1ミドルパークS勝ち馬ハイールがいるという血統背景からも、スピードと仕上りの早さを売りにする種牡馬となるはずだ。

 欧州の新種牡馬で2番目の高値となる2万5千ユーロ(約309万円)で供用されるのが、愛国のクールモアスタッドで種牡馬入りするザグルカ(父ガリレオ)である。G3パークS(芝7F)勝ち馬チンツの3番仔で、祖母ゴールドドジャーの半妹にG1凱旋門賞(芝2400m)馬ソレミアがいるという血統背景を持つのがザグルカだ。デビューしたのは3歳春で、2戦目に勝ちあがると、追加登録を行って出走したG1仏二千ギニー(芝1600m)を5.1/2馬身差で快勝。7月にはグッドウッドのG1サセックスS(芝8F)も制している。8月半ばに疝痛の発作を起こして開腹手術を受け、術後の経過は良好だったものの、現役には戻らずに引退することになったものだ。

 こうした新種牡馬の産駒たちが、最初に脚光を浴びるのが、初年度産駒が上場される2019年のイヤリングマーケットで、彼らがどんなタイプの仔を出し、マーケットでどのような評価を受けるのかが注目される。こうして、欧米新種牡馬たちの種付け料を改めて検証してみると、2017年に日本で種牡馬入りする馬たちの種付け料が、かなり良心的なものであることが、よくわかる。ことに、G1香港カップ(芝2000m)をステークスレコードで制し、G1イスパーン賞(芝1800m)を10馬身差で圧勝したエイシンヒカリの250万円(受胎条件)などは、ディープインパクトの直仔という血統背景もあって、海外の生産者の目にも相当に魅力的な価格に映るであろう。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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