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JR日高線、廃止に向かう

  • 2016年12月28日(水) 18時00分
09年6月末の日高線(静内〜東静内間)

09年6月末の日高線(静内〜東静内間)


鉄路は役割をほぼ終えた感が強い

 昨年1月の高波による被害を受け、不通になったままであったJR日高線が、今年夏に更なる台風による大雨と高波に直撃され、至るところズタズタにされ放置されたままの状態になっている。

 地元では一刻も早い復旧を願う声が根強いものの、復旧に伴う費用は概算で86億円とも言われている。当初、昨年春の段階では26億円の復旧費用が見込まれていたのが、その後の相次ぐ被害により、費用が大幅に膨らんだ経緯がある。JR北海道は、復旧の条件として昨年12月に、沿線自治体に対し、赤字穴埋めの要請を行なった。また、今年2月には、自治体が車両や鉄道施設を保有する「上下分離方式」案を提示してきていた。

 地元の沿線各町は、それに対し、運行再開後の維持管理費負担を拒否したのが去る11月初旬のこと。それを受けて、今回12月21日に、浦河町内のホテルに、JR北海道・島田修社長が直々に出向いてきて「日高線の鵡川-様似間116キロを廃止する」との方針を正式に伝えることになったのである。

 サラブレッドの牧場地帯を走る国内で唯一の鉄路として、競馬ファンには広く知られている日高線だが、この30年間で利用者は3分の1に減っており、現状でも年間11億円の赤字が出ていること。さらに、前述したように再開のための復旧費用が86億円かかること。復旧後の路線維持管理に年間16億4千万円かかること。そのうちJR北海道が負担するのが3億円で、残る13億4千万円を沿線自治体に負担して欲しいと要請したものの、拒否されたことで、今回復旧を断念し廃止とすることになった、というのがJR北海道の説明である。

 これに対し、沿線8町(むかわ=胆振管内、日高、平取、新冠、新ひだか、浦河、様似、えりも)の町長は、いずれも激しく反発し、うち4町長は説明会への出席すら拒否する姿勢に出た。それぞれあくまで存続を熱望する点では一致しているものの、それぞれの町の立地条件が微妙に異なるので、本音の部分では同床異夢であろうと思われる。

 例えば、日高町。去る6月16日に、日高町が、鵡川-日高門別間の先行復旧をJR北海道に求めていたことが明らかになっている。昨年と今年の高波による被害は、日高町豊郷-清畠間と、日高町厚賀-新冠町大狩部間にほぼ集中しており、その他、静内-東静内間でも、基盤が大きく波にえぐられ線路が宙ぶらりんになっている箇所がある。

今年8月末の高波により破壊された鉄橋(日高町清畠駅近く)

今年8月末の高波により破壊された鉄橋(日高町清畠駅近く)

 これは復旧させるだけでも並大抵のことではないと、素人の私でもすぐに分かるほどの被害だ。しかし、誰が、どのように復旧費用を負担するのか、そして、復旧後の維持管理費も同様で、それらの肝心な部分の議論が不十分のままなのが何とも残念に思う。

 ともあれ、台風も高波も自然災害であり、現実問題としてズタズタに寸断されたまま手つかずの状態で今に至っていることと、それを復旧させるために莫大な費用が見込まれることだけは確かである。今のところJR北海道は、廃止の時期について明言していないらしいが、それがいつになろうが、すでに約2年間もの間、列車が運行されていない状態が続いているのだから、おそらくこのまま幕切れになる公算が大きい。

「それより、高速道路をできるだけ早く延伸して欲しい」と新冠町や新ひだか町の友人たちは口にする。現在、日高道は道央道苫小牧東インターから日高門別まで開通しており、平成29年度中に、日高町厚賀まで伸びることが決まっている。高速道路の入り口に近い町に住む友人ほど、日高線復旧に対しては冷淡な反応を示す。

 一方、新ひだか町から以東の浦河、様似、えりも各町の友人たちほど日高線復旧、再開に対する熱望度が高い(ように思う)。沿線7町とひとくくりにできないほど、立地条件の違いから、それぞれの住民の心中には確実に温度差のあることが分かる。現に、今回の説明会に欠席したのは、新ひだか町、浦河、様似、えりもの日高中東部の町長たちであった。

 いったいどんな形の解決策があるのか。それが容易に見つけられないところに、この問題の難しさがある。30年間で3分の1まで利用者が減少したのも、不便になったから人々が利用しなくなったのか、利用者が減ったから便数が削減され不便になってしまったのか、私にはちょっと分からない。そして、最後にJR日高線に乗ったのがいつのことだったか思い出そうとするがまったく思い出せないくらいの長期間、私自身も利用していない。

 かつては旅客のみならず物資はもちろんのこと、日高では馬まで列車で運んでいた歴史がある。しかし、それも半世紀近く前に自動車(馬運車)輸送に切り替えられ、鉄路は役割をほぼ終えた感が強い。残念なことだが、万策尽きたような気がしてならない。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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