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アルアイン 特筆すべき学習能力/吉田竜作マル秘週報

  • 2016年12月28日(水) 18時30分


◆池江師「ムーアが教えてくれたことが生きた」

 かつてブエナビスタやベガを管理した松田博調教師が言っていた。

「馬は厩舎でしつけて調教するもの。騎手がレースで教えられることはそれほど多くないし、だから日々の積み重ねが大事」

 人間のアスリートも同じだろう。試合などの本番の前にその準備をする。「それがすべて」とまで言う人がいるほどフィジカルを鍛錬すること、技を磨くことは重要だ。しかし、自ら言語でコーチとコミュニケーションを取り、時には文献などに頼ることができる人間と違って、サラブレッドにあれこれ言って説くのはそれこそ「馬の耳に念仏」。「緊張するな」と言ったところでイレ込むだろうし、針が振り切ったテンションで人の指示を聞くはずもない。

 ただ、「実戦のテンションでしか教えられないことがある」と某騎手が言うのも確か。そして、極限の状況での成功経験ほどその馬のその後に大きな影響を与えるのだろう。それをよく示してくれたのが23日の千両賞を勝ったアルアイン(牡・池江)だ。

 デビュー戦はダッシュがつかず、せかされ促されてどうにか馬群に取り付くといった感じ。初めてのレースで「まだよくわかっていない」といったところだったのだろう。そして、単勝オッズ2.3倍もの良血馬の場合、初戦は“安全運転”をするケースも少なくない。まして、後方からの追走となれば進路は選び放題。馬群にもまれない競馬も選択できたはずだった。しかし、鞍上の名手・ムーアはそれをさせなかったのだ。迷うことなく馬群へと首を突っ込ませると、そのポジションをキープ。直線で外に導くと鋭く伸びてデビュー勝ちを収めた。

 千両賞ではこの「ムーアの教え」がてきめんに出た。課題のゲートをすんなり出ると、鞍上のシュミノーが指示する前に好位へと取り付いてしまう。ラチ沿いで折り合いを欠くこともなく追走し直線は1頭分しか空いていないインへ。そこでもちゅうちょするしぐさを見せることもなく鞍上のゴーサインに素直に反応。デビュー戦以上に危なげなく2勝目のゴールを駆け抜けた。

 池江調教師も「ムーアが教えてくれたことが生きたね」と世界的名手の“教育者”としての一面を高く評価した。そして、何より鞍上の教えをすぐにのみ込み、実戦に生かしてしまうアルアインも高い学習能力を持った素質馬だということだろう。POGの取材の時は「マイルまでは問題ないと思うけど、距離は血統的にも持たないかもしれない。ただ、走らせたらいい走りをしそう」との評価だったが、この日のレースぶりならば距離の壁は難なくクリアしてくれることだろう。

 次走は正月開催のGIIIシンザン記念(8日=京都芝外1600メートル)を予定。池江厩舎にはサトノアーサー、ペルシアンナイトなど逸材がずらりと並ぶが、ここを制すればこの馬もクラシックの舞台へと立つことになりそうだ。

 当コーナーは今年最後となるので、少しお願いをしておきたい。前出のムーアのような「騎手」として、競馬場で暴れ回る日本人騎手がすぐに出てくるとは思わない。ただ、ムーアがアルアインに施した視点で騎乗し、何かしらの好影響を与えることは日本の騎手でも可能ではないか。しかも、トレセンで調教からまたがって、その下準備すら可能なのだ。

 来年から外国人騎手の来日の条件がさらに厳しくなるが、それはすなわち「来日する騎手はすべて世界トップクラス」ということ。そうした勢力に日本人騎手たちが立ち向かうためのストロングポイント、それが“教育者”としての側面かとも思う。

 JRA関係者や騎手の起用に絶大な力を持つオーナーの方々が、どうかサラブレッド同様に日本人騎手もいい方向に導いてくれることを願ってやまない。

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