今年、2017年の競馬はどんな展開を見せていくことになるのだろう。
先を読む前に、去年のことを振り返ると、2016年の競馬十大ニュースをつくったとしたら、どうか。初の海外馬券発売となった凱旋門賞の売上げが予想の約10倍の41億円以上になったことが、トップか、そうでなくても上位に来ることは間違いない。シーズン後半のことで、しかも、結果が出てから話題になったことだ。
競馬場の枠を出て、世の中全体を見わたしても、去年の流行語大賞は「神ってる」という、一体何人が使ったのかという言葉になってしまったが、普通の感覚では、「PPAP」や「ピコ太郎」や、ノミネート語が発表されたあと話題になった「恋ダンス」が、本当の流行語だったのではないか。エンディングで恋ダンスを踊る新垣結衣さんが注目されたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」がオンエアされたのは10月上旬から12月下旬にかけてのことだった。
何が言いたいかというと、この時期に先のことをあれこれ言っても、シーズン終わり間際になって何が起こるかわからないから、予想が外れることもある、ということだ。要は、先に言い訳をしただけである。
おじさんの話が長くなるのは前置きが長いからで、私の場合、書いたり話しているうちに、それが何の前置きだったのかも忘れてしまうことがあるから、余計始末におえない。
ということで、2017年の競馬、である。
クラシックに関して、この世代は牝馬のレベルが高いと言われている。代表格は、2歳女王になったソウルスターリングと、ファンタジーステークスを勝ち、1番人気に支持された朝日杯フューチュリティステークスで4着になったミスエルテの、2頭のフランケル産駒だ。
フランケルは、ディープインパクト同様、競走馬として突出した強さを見せ、その競走能力をどのように伝えていくか、世界的に注目されている。ヨーロッパの生産界ではサドラーズウェルズとデインヒルの血が濃くなりすぎたため、日本のセレクトセールなどでそれ以外の血を求める動きが活発化しているわけだが、フランケルは父方の祖父がサドラーズウェルズで、母の父がデインヒルと、その両方の血を持っている。このあたり、サンデーサイレンスの血が飽和状態になっている日本において、直仔のディープインパクトが後継となっている状況に通じるものがある。
種牡馬としての価値を保つよう、配合相手として厳選された牝馬から生まれたフランケル産駒と、昨年サトノダイヤモンドが菊花賞を勝って「平地3000m以上を勝てない」というジンクスを打ち壊したディープインパクト産駒がどのような走りを見せるか。そして将来、これらの血がどのようにミックスされて世界にひろがっていくかは、注目に値する。
ところで、強いフランケル産駒は、牝馬であっても「怪物」と称されることが多い。フランケルは、2009年に亡くなったアメリカの伯楽ロバート・フランケル元調教師にちなんで名づけられた。
見当違いかもしれないが、「フランケル(Frankel)」の響きが「フランケンシュタイン」の「フランケン(Franken)」に似ているから、つい、「怪物」をつけたくなってしまうのだろうか。
それはいいとして、牡のフランケル産駒でどんな活躍馬が出るかも楽しみだ。
目を古馬に転じると、やはり、一番の話題は、キタサンブラックとサトノダイヤモンドが参戦する可能性のある10月1日の凱旋門賞で、日本の人馬の悲願達成なるか、ということだろう。
池江泰寿調教師は、凱旋門賞から逆算したローテーションを組むとまで話している。夢は、凱旋門賞を勝った関係者が乗ってレース直後にコースを走る馬車に、父の池江泰郎元調教師を乗せることだという。それを父が管理したディープインパクトの産駒で実現させたいと言っていた。そのとおりの有言実行となれば素晴らしい。
もうひとつ、今年は12月24日の有馬記念のあと、28日にホープフルステークスを含む競馬開催が行われることも議論を呼んでいる。個人的には、もともと東京大賞典が有馬記念のあとにあるので、有馬記念が終わっても落ちつかない感じは変わらない。何しろ、自宅兼事務所から大井競馬場まで「ドア・トゥ・窓口」で30分という近さなのだ。交流GIの重要性が年々高まり、競馬に中央も地方もない、という空気が濃くなればなるほど、有馬記念で「一年が終わった感」を得づらくなっている。
私にとっての有馬記念は(去年は喪中だったので違ったが)、それが終われば年賀状を書き出すという年中行事のひとつである。そのあとにホープフルステークスが行われるようになっても、おそらく、有馬が終われば年賀状、というパターンはそのままだと思う。
すべてはホープフルステークス次第というか、まず、このレースがどの段階でGIに認定されるのか。そして、もし、今年でも来年でも、例えば、このホープフルステークスがデビューから無傷の3連勝で、持ったまま2着を10馬身以上突き放して古馬のレコードまでも破ってしまうような化け物が現れ、年度代表馬に選出される可能性まで出てきた……なんてことになれば、有馬記念のあとにこのレースがあっても、普通に受け入れられるようになるかもしれない。
ありそうにないことが起きてしまうのが競馬というスポーツの面白さである。
日本を代表する歌手の所有馬に、競馬史を変えた名騎手が乗って凱旋門賞に参戦するというだけで、数年前は誰も想像できなかったことだ。
――こんなことが本当に起きるんだ。
という競馬を、ぜひ見たいと思う。