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大阪杯・ホープフルSのGI昇格問題と年末28日施行の是非

  • 2017年01月30日(月) 18時01分


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Q1.大阪杯、ホープフルSのGI昇格に、あなたの意見は?
Q2.有馬記念後の12月28日に競馬(GI)が開催されることについて、あなたの意見は?


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 日本の競馬界にとって、2017年は国際セリ名簿基準委員会(ICSC)のパートI国入り10周年に当たる。06年までは13の重賞が国際格付けされていたが、07年から59に拡大。その後は2歳、3歳限定戦なども外国調教馬に順次、開放され、10年の段階で新設競走を除く中央競馬の全重賞が国際格付けされた。ジャパンCでさえ、外国馬の遠征減少が叫ばれる今日、パートI入りで「何が変わったの?」と突っ込まれかねない現状だが、確実に変わった点が1つある。JRAが意のままにGIをつくれなくなったことだ。

 国内でグレード制が始まった1984年の時点でGIは15競走。90年にスプリンターズSがGIに昇格した後は16で落ち着いていたが、96年からは急に増え始めた。同年にNHKマイルC、高松宮記念、秋華賞と一気に3つのGIが新設。次いでダートの両GIも始まり、06年にはヴィクトリアマイル。10年で6つも増えたのだ。

 ところが、パートI入りとともにグレードの管理は厳格になり、90年代のように売り上げ対策でGIを新設できなくなった。そんなJRAが、10年の沈黙(?)を破り、今年は2つのGIを新設する。既に発表済みの大阪杯に加え、12月末のGIIとして3回施行されたホープフルSも、格付け基準を満たしたとして、JRAはアジアパターン委員会(APC)に昇格申請。1月27日に認められた。

問題は積み残したまま…大阪杯昇格


 大阪杯昇格については、昨年5月の当コラムで触れた。筆者は当時、本当に昇格するのか半信半疑だった。現在の競走体系が抱えている問題点の解決に直結しないと思ったからだ。正式決定に至ったのは、JRAが手っ取り早く結果物を提示する点に優先順位を置いていた結果と言える。従って、指摘したいくつかの問題点も、未解決のまま残された。

 筆者が提示した最も中心的な論点は、競馬シーズン佳境の5月に、一流古馬の目標となる2000m路線のレースがないことだった。大阪杯は昇格したが、時期は従来通り桜花賞の1週前。天皇賞・春の3トライアルの1つだけが、賞金増額となった格好だ。

 大阪杯と宝塚記念は距離が200m違い、出走可能頭数が2頭違う(大阪杯16頭、宝塚記念18頭)点などを除けば、性格は非常に似ている。そういうレースを12週という微妙な間隔で配列したため、馬を送り出す側にはこの上なく使い勝手が悪い。天皇賞・春を使わない陣営は、冬場から馬を動かして大阪杯に備え、季節の良い4-5月に馬を緩め、梅雨時に入ると宝塚記念に向けてピッチを上げる流れとなる。

 現在の競走体系では、大阪杯と宝塚記念の間に、4歳以上の牡馬が出走できる1800-2200mの別定のGIIも存在しない。空白にしているのはほかでもない。これ以上、天皇賞・春が空洞化させないためだが、適性の乏しい馬に無理やり3200mを走らせるような競走体系が、使う側からソッポを向かれた結果が、近年の有力馬の海外流失である。長距離衰退という世界の競馬の現実を直視し、大きな絵を描き直さなかった点は、納得できない。

 昨年も触れた通り、大きな絵を描き直したとしても、パートI入りに伴う制約から、実行に移すまでさらに時間を要するという問題はある。目黒記念の距離変更+別定重量化を経た段階的昇格には、最低でも3年かかる。ヴィクトリアマイルの距離を変更して牡牝混合にするアクロバティックな選択肢が実現可能なら、もう少し話は簡単になるのだが。

 ともあれ、4月初旬に大阪杯が設置されたことで、最も影響を受けるのはドバイ国際競走だ。ドバイ・ターフ、ドバイ・シーマクラシックと出走馬を食い合う構図になる。1ドル100円を切る円高にならない限り、ドバイ両競走の2着賞金の方が、大阪杯の優勝賞金(1億2000万円)を上回るが、輸送の負担や帰国後の検疫もある。昨年の有馬記念の枠順抽選当日、レセプションに出席した関係者の間では「来年はドバイ行きが減るのでは」との声が聞かれていた。シーズン開幕当初にムダに選択肢が多く、ハイシーズンにロクな選択肢がないアンバランスを露呈している。

誰も歓迎しない年末GI


 大阪杯に関して相当に否定的な評価を下してきたが、GII・大阪杯の賞金が増えたと思えば、大した問題でないのかも知れない。少なくとも、平日(木曜)の12月28日に開催を組んだ今年の日割の筋の悪さに比べれば。

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1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。

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