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歴史的な超スローの特殊なレース/東京新聞杯

  • 2017年02月06日(月) 19時00分


◆エアスピネルに改めて立ちふさがったカベ

 春のビッグレースに向け、ステップになる前哨戦が連続して組まれている。東京の「春菜賞」では16頭立て最低人気の3歳牝馬ライズスクリュー(父トーセンホマレボシ、母トーセンスクリュー)が、単勝230倍で鮮やかに抜け出した。公営から勝ち上がってきた島川隆哉オーナーのオーナーブリーディングホースである。外れたけれどこれは口惜しくない。オーナーの痛快と、無上の喜びが春の息吹を伝えてくれたようだった。

 同じ3歳戦では、「きさらぎ賞」で単勝140円の支持を受けたサトノアーサー(父ディープインパクト)が、かろうじて2着を死守したにとどまった。当然、雨の重馬場が大きな敗因となりそうだが、陣営は馬体重(474キロ)以上にムキムキな印象になった馬体を前に、レース前から懸念していた母の父リダウツチョイス(その父デインヒル)の影響を思ったかもしれない。リダウツチョイスの優秀性と、母方に入ったデインヒル系の影響力の強さを考えるほどに、こと日本では、緩急のペース変化に対応しながら距離延長に対応できるタイプとはいえない死角が生じ、マイラータイプに育てたほうがいい可能性を否定できなくなった。まだ出走権のかかる時期ではないから、負けてもいい。それを糧に次に進めばいいのだが、目ざすべき方向は問われている。「果たして、2000m→2400mと展開する日本のクラシック向きなのだろうか」、と。次走はどこだろう。良馬場なら、そこで可能性が明らかになる。

 その3歳クラシック路線が終了して、4歳になった今年はマイル路線に方向転換してきたのが、「東京新聞杯」で単勝180円の支持を受けたエアスピネル(父キングカメハメハ)だった。

 前回の京都金杯を制して1600m通算【3-1-0-0】。ハイペースをかかり気味に追走して京都金杯を1分32秒8(57秒9-34秒9)で勝ってみせたから、コースや流れに対する死角はあっても、大目標の「安田記念」に向けて得心のレースがしたかった。

 ところが、エアスピネルのかかえる不安がもっと鮮明に露呈する結果になってしまったのである。

 スローペースになるだろうことはレース前からみんなが承知。たとえ、マイネルアウラート(父ステイゴールド)が主導権をにぎったとしてもスローはスローだったろう。前回は行く気にはやったエアスピネルが、中位で折り合って進んだのもレース前から考えられた通り。

 爆発力がなく、ここまで自身の上がり3ハロン最高は新馬の33秒9。また、レース後半の追い比べで、推定1ハロン「自身11秒0」以内の記録は、2例くらいだけ。それも1ハロンに限られるのが、安定性を誇るエアスピネルの死角だった。決して崩れないが、決定力不足を否定できなかった。

 今回の東京新聞杯は「前半800m49秒8-後半800m45秒1」。なんと、レースの前後半に4秒7もの差が生じる歴史的な超スローになった。その結果、レースの最後の3ハロンは「10秒9-10秒8-11秒0」=32秒7であり、中身は東京「直線600mのレース」と化した。

 好位4-5番手から直線に向いたエアスピネルは、みんなと同じように楽な手応えから、後半の3ハロンを「32秒3」でまとめた。今回のエアスピネルの後半3ハロンはレース再生を参考に推定すると、「10秒8-10秒7-10秒8」=32秒3に限りなく近いだろう。ハロンごとの誤差はあっても0秒1程度か。エアスピネルはハロン10秒台を3回も連続させたのである。素晴らしい。どこがジリ脚なものか、となりそうだが、しかし、負け方は最悪に近い。

 レースの後半3ハロンを「32秒7」でまとめたブラックスピネルを、直線が600mあるのにとうとう捕まえることができなかった。机上の数字の展開ではない。4コーナーで約2馬身半ほど前にいたブラックスピネルをついに捕まえることができなかったのである。

 あまりにも上がりが高速すぎたのか。でも、エアスピネルよりもっと後方にいたプロディガルサン(父ディープインパクト)は、エアスピネルと同じようにスパートを開始すると、推定「10秒8-10秒6-10秒6」=32秒0のフィニッシュで、なんとエアスピネルに半馬身も先着し、ブラックスピネルとクビ差同タイムの2着に浮上していたのである。

 好位差しの正攻法を選んだエアスピネルは、たしかに大きくは崩れなかった。だが、好位差しの戦法をとって、「前を捕まえられず、後方の馬に差される」では完敗である。きわめて特殊な上がりだけのレースになってしまったのだから仕方がないではないか、とする見方もあるが、おそらく仕方がなくはない。決定力不足とされたエアスピネルは、「4、4、3」着にとどまったクラシック3冠と同じく、距離がマイルになっても決定力不足はまったく同じことだったのである。

 マイル路線で勝負の明暗を分ける決定力不足をカバーするには、京都金杯と同じようにレースの流れを速くし、上がり33秒台に象徴されるような切れ味勝負を、自ら動いて解除しなければならないのだろうか。京都金杯で「ハナ差」まで追い詰めてきたブラックスピネルとは、流れや道中の位置の差で、あれは着差以上の実力勝ちだったという見方もあった。ところが、今度は当時より楽な負担重量1キロ差だけで、逆にマークして追い詰める立場にたったら「半馬身以上」も追いすがることができなかったのである。安田記念を目ざすエアスピネルに改めて立ちふさがったカベは考えられる以上に厚い。

 休み明けで、ややもするとエアスピネルよりもっと切れないのではないかと思われたプロディガルサンの上がり「32秒0」は、東京のマイル戦を勝ち負けした馬の記録とすると、歴史的な超スローの特殊なレースだったとはいえ、史上最速に相当する数字である。ひと息いれて立て直してきたプロディガルサンは3歳時とは別馬のように成長していた。

 同馬の目ざす方向はまだはっきりしないが、レベルの高い馬がそろっているとされる現4歳世代のなかで、格好の基準馬となるエアスピネルに先着したから強気になれるだろう。秘める能力は一枚上を示したともいえる。これで今後の展望は大きく広がった。

 今週は、マカヒキ(ムーア騎手)の始動戦となる「京都記念」が組まれている。4歳のトップクラスの戦いは、ブラックスピネル、プロディガルサンがエアスピネルに先着したことにより、さらに勢力図が拡大していることを示すことになった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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