スマートフォン版へ

これから大注目“安田翔伍調教師”の成長記/吉田竜作マル秘週報

  • 2017年02月08日(水) 18時00分


◆3月に晴れて調教師へと転身

 かつて当コラムに頻繁に登場していただいたのが、ベガに始まり、ブエナビスタやハープスターなど、数々の名牝を送り出した松田博資元調教師。この名伯楽も、騎手から調教師に転身した際には苦労が多かった。

 ターニングポイントとなったのは名オーナーにして「現代競馬の父」と言ってもいい吉田善哉氏(社台ファーム代表・照哉氏、ノーザンファーム代表・勝己氏、追分ファーム代表・晴哉氏らの実父)との出会い。意外にも、お互いの第一印象はいいモノではなかったとか。吉田氏は当時の松田騎手をアンちゃん(見習い騎手)と思い込み、それを言われた松田青年は「(吉田氏と)知ってはいたが、いい気分はしなかった」

 そんな微妙な出会いだった2人が後に競馬史に残るようなドラマや名勝負を数多く生み出していったのだから面白い。競馬という物語を編む縦糸がサラブレッドだとすれば、人は横糸となってそれを紡いでいるのだろう。

 ジョッキー時代、トウカイテイオーで一世を風靡した安田隆行調教師も、厩舎開業当初はなかなか思うようにはいかなかったようだが、松田博資元調教師の時と同じように救い主が現れる。

「トランセンドの子供が初年度から頑張ってくれている。それもダートだけじゃなくて芝も、距離も長いところも短いところも走ってくれてますからね。うれしいですよ」

 安田調教師がその話題になると相好を崩すトランセンドは、現3歳世代が初年度産駒となる、ご存じかつての「ダート王」。その祖母にあたるブルーハワイが未出走のままマエコウファーム(ノースヒルズの前身)で繁殖馬となったことが始まりだった。

 最初に産んだのがシネマスコープ。現役時はオープン特別を含む5勝を挙げ、開業当初の苦しい時期を支えた。その後、母となったシネマスコープは安田厩舎に続々と産駒を送り込む。その中の一頭がトランセンドだったというわけだ。「この一族には助けられたことが多かったですね」と安田師。その後はこの“ブルーハワイ一族”の繁栄と比例するように、活躍馬が毎年のように出ることとなる。

 安田厩舎とノースヒルズの結びつきは馬だけにとどまらない。安田調教師の実子にして、スタッフとして厩舎を支える安田翔伍助手も、ホースマンとしての第一歩を北海道のノースヒルズマネジメント(当時)で歩みだした。

「高校には入ったんですが、すぐにこの世界に入りたい気持ちが抑えられなくて…。最初にお世話になったのが新冠のノースヒルズマネジメントでした。乗馬はしていましたが、1歳馬を扱うのは当然、初めて。本当に勉強になりましたよ。何より社会に出たことのない16歳の子供をよく引き受けていただいたな、と。感謝してもし切れません」

 そんな彼も、難関と言われる調教師試験を突破。3月には晴れて調教師へと転身する。

「翔伍が開業して、独り立ちしてからでないと、実感は湧かないかな」と寂しそうな表情を見せた父・隆行だったが、同時に「翔伍が抜けたからといって、何かが変わるようではいけませんから」と口元を引き締めた。

 トランセンドで手が届きかけた世界の頂(2011年ドバイワールドC2着)。当時の「半馬身差」の涙がある限り、安田厩舎とノースヒルズの“絆”は、ブルーハワイ一族同様、代を経てさらに深みを増していくことだろう。

 POGでもすでに「安田&ノースヒルズ」のコンビは一つのブランドとなっているが、これからはそこに「安田“翔”」の名前も加わることになるに違いない。若きトレーナーが、名オーナーたちとどのような物語を作っていくのか。POGだけでなく、一人の人間の“成長記”としても注目していきたい。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

2010年に創刊50周年を迎えた夕刊紙。競馬確定面「競馬トウスポ」(大阪スポーツは「競馬大スポ」、中京スポーツは「競馬中京スポ」)は便利な抜き取り16ページで、中身は東スポグループだからこその超充実ぶり。開催3場の全36レース(2場開催の場合は全24レース)の馬柱を完全掲載しています。

関東・舘林勲、大阪・松浪大樹の本紙予想のほか、記者による好評コラム(「一撃・山河浩、馬匠・渡辺薫など)、そして競馬評論家・井崎脩五郎、爆笑問題の田中裕二、IK血統研など超豪華執筆陣の記事も読みごたえたっぷり。馬券作戦に役立つ情報が満載です。

関連サイト:競馬トウスポWeb

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング