◆最後の2ハロン勝負で2馬身半差は圧勝である 候補はいっぱい存在しても、他馬と比較する際の能力基準にふさわしいエース級が少なかったこの世代に、ようやく「核」の1頭らしい候補が浮上してきた。
これで
スワーヴリチャード(父ハーツクライ)は、例年、路線の中で重要な位置を占めることが多い東京スポーツ杯をクビ差2着、そしてこの共同通信杯を2馬身半差で完勝し【2-2-0-0】。
東京の1800mを2戦、阪神の2000mを2戦。春のクラシックに必要なスピード能力を今回の東京1800m「1分47秒5(自身の上がり34秒2)」で示すと同時に、ここまで坂のある東京と阪神の中距離で、勝ち馬を追い詰めての2着惜敗は2回あるが、差されて負けたことはない。スタミナ面の不安もほとんどないと考えられる。
ここ数年の共同通信杯の上位馬には、16年ディーマジェスティ、15年リアルスティール、ドゥラメンテ、14年イスラボニータ、12年ゴールドシップ、ディープブリランテ、スピルバーグ…などが並んでいるのも、スワーヴリチャードには心強い後押しである。
2歳牡馬チャンピオンのサトノアレス(父ディープインパクト)は、GI勝ち馬ではあるが、1600mの最高記録は阪神1600mの1分35秒4であり、1800mは3戦し最高記録が中山の1分50秒2(自身の上がり34秒8)。【3-2-0-0】でも、まだ路線の基準馬ではない。
ホープフルSを2分01秒3(10ハロンすべて12秒5以内という素晴らしい中身)で完勝し、葉牡丹賞では、のちに京成杯を勝ったコマノインパルス(父バゴ)を完封して2分01秒0で勝っているレイデオロ(父キングカメハメハ)が、ことクラシック路線の展望では能力基準になる馬としてリードしている。ただ、2000mを連続して激走したからか、この中間の立て直しにやや時間がかかっているのでは(?)とささやかれる。こういうウワサは信用はできないが……。
スワーヴリチャードは、課題のあったスタートも今回は巧みというには遠いが、悪くなかった。置かれるとここまでと同じように差し=追い込みになるのを嫌った四位騎手は、気合をつけて好位のインを取りに出た。ライバルが外を回って進出しはじめた3コーナー過ぎで巧みにひと息入れ、コーナーワークでロスを最小限にとどめると、あとは外の
ムーヴザワールド(父ディープインパクト)のストライドを確認しながらスパート。「11秒4-11秒7」の高速の終盤400mで、ライバルをまったく問題にしなかった。最後の2ハロン勝負で2馬身半差は圧勝である。
土曜のクイーンCでアドマイヤミヤビが1分33秒2で完勝するなど、現3歳世代を中心に目下絶好調のハーツクライ産駒。母方は近親に目立った活躍馬はいないものの、千数百ページに達するファミリーテーブルや、血統大系の最初のページに登場する伝統のファミリー(F1-a号族)出身である。これでクラシック展望は一気に広がった。
2着には、またまた伏兵評価の6番人気だった
エトルディーニュ(父エイシンサンディ)。これで勝った札幌の未勝利戦以外「3、4、5、3、2、4、2、2」着。500万下でも、オープンでも勝ち馬とはすべて「0秒2差以上」の完敗。だから決まって人気薄だが、2〜4着争いとなると無類の勝負強さをみせる不思議な伏兵である。祖母プリンセストウジンは公営からJRA入りしたあと、50戦以上もして14回馬券に絡んだが、(思いだして成績を確認したら)1番人気に支持されて馬券に絡んだことは1度もないという穴馬の典型だった。一族の近年の代表馬はシグナスヒーロー(父イナリワン)。その昔、テンジンショウグンが日経賞を単勝355倍で勝ち、馬連21万円台の歴史的な波乱になった際、2着に入って大波乱の片棒を担いだ穴馬である。エトルディーニュはこれまで1番人気はおろか、2番人気にもなったこともない。これでオープン馬。よって、このあともずっと人気薄確定である。上手に付き合いたい。
最終的に1番人気になったムーヴザワールドは、道中スワーヴリチャードとずっと前後する位置にいたから、展開の不利はなかった。だが、最初からモタつき加減のフットワークで、追い出しての反応はこれまで以上に鈍かった。このレース、JRAの10頭はみんな1勝馬であり(重賞2着のある馬が2頭)、もっとも条件分けの獲得賞金の多い馬でも1150万円。クラシック出走に「ホップ…ステップ…」の、まだホップの段階であり、馬体重増は勝ったスワーヴリチャードと、エアウィンザー(父キングカメハメハ)のプラス2キロだけ。みんな休み明けのひと叩きの1戦ではないから、結果を出すべく仕上がっていた。なんとなくまだ腰の甘そうなムーヴザワールドも仕上がっていた。しかし、痛恨の3着にとどまって【1-0-2-0】。条件賞金は400万円のままである。クラシック挑戦には、このあとの日程は楽ではない。
今週は、いろいろ複雑な乗り代わりが関係したのだろう。京都記念のマカヒキはムーア。なぜかルメールは共同通信杯の
タイセイスターリー。今回のムーヴザワールドの鞍上は戸崎騎手だった。冬の休養中ではないかと思われたムーア騎手を呼び寄せた1番人気のマカヒキは、まさかの3着。戸崎騎手に変わった1番人気のムーヴザワールドも、伸び切れずに3着止まり。短期免許のムーア騎手は2月28日までなので、マカヒキの次のレースに乗る可能性はほとんどない。先につづく展望とは関係なく、今回だけは負けられないという意味の乗り代わりだったのか。でも、勝負の女神は2着もない「ノー」だった。きびしく、難しいものである。
3番人気の
エアウィンザー(父キングカメハメハ)は、全兄のエアスピネルと見た目には同じような印象を与える体型だが、調教のフットワークなどむしろしなやかで、シャープに映った。ところが、スタート直後からストライドが伸びず、しばらく前肢が揃ってしまうような硬い動きで追走に苦労し、最後は勝ったスワーヴリチャードから約3馬身半(0秒6差)の6着止まり。これで4戦1勝、条件賞金は400万円のまま。ムーヴザワールドとともに、非常にきびしいクラシック展望となってしまった。