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ゴールドドリームの高い能力と鞍上の好騎乗が光った/フェブラリーS

  • 2017年02月20日(月) 18時00分


◆2000m級も楽にこなすエースに育ってもらおう

 上位人気馬の票数は接近したが、「種牡馬ゴールドアリュール、18日に心臓疾患で急死」の報が加わり、2番人気に浮上した産駒ゴールドドリームの鮮やかな差し切りが決まった。

 流れが予想以上に速くなったとはいえ、1分35秒1(レースの前後半46秒2-48秒9)は、こと良馬場の現コースでは、2010年のエスポワールシチー(父ゴールドアリュール)の1分34秒9などに次ぐ好時計である。

 力強く伸びて差し切ったのは、それは4歳ゴールドドリーム自身の高い能力だが、流れが速いとみるや中団で少しなだめるように進出を待ち、余力十分と判断すると前がせまくなる危険を回避すべく、モーニンベストウォーリアの外に出して一気にスパートした鞍上の好騎乗が光った。M.デムーロはこれでフェブラリーS【2-1-1-1】である。不良馬場の高松宮記念(コパノリチャード)や、ヴィクトワールピサのドバイWC(AWトラック)など、デムーロはほかの騎手よりタフな競馬が合うイメージもある。最近はちょっと好不調の波が大きすぎるようなところがなくもないけれど…。

 前回のチャンピオンズC12着は、武蔵野Sから中2週でテンションが高くなりすぎて集中力を欠いたため、あえて前哨戦を使わなかった陣営の今回のローテーションも大正解だった。きびしい流れの東京1600mのフェブラリーSには、たまたま…の勝ち馬などいない。一段と層が厚くなり、昨年4歳馬としてレコード勝ちしたモーニン(父ヘニーヒューズ)、2着に突っ込んだ4歳ノンコノユメ(父トワイ二ング)でさえ、ちょっと停滞するとすぐに評価が下がってしまうのが現在のダート界トップクラスの勢力図である。まだ【5-2-1-1】のゴールドドリームにはさらにパワーアップし、2000m級も楽にこなすエースに育ってもらおう。

 父ゴールドアリュール(父サンデーサイレンス)は、2003年のフェブラリーSの勝ち馬。「2010年のエスポワールシチー、2014年、2015年のコパノリッキー、そして2017年のゴールドドリーム」がその後継勝ち馬となった。すばらしい能力と特徴の伝達である。

 ゴールドドリームの5代母スペシャル(父フォルリ、母ソング)は、ダートも大歓迎だった近年の名馬エルコンドルパサーの5代血統表に3回も登場する「スペシャル=リサデル全姉妹クロス」の主役であり、日本の生産界に多大な貢献を果たしたエルコンドルパサーとゴールドドリームは同じファミリー出身。エルコンドルパサーの3代母がリサデルである。

 2月18日に急逝した種牡馬ゴールドアリュール(18歳。父サンデーサイレンス)は、2004年から2017年シーズンの種牡馬生活で、圧倒的なダート巧者を送りつづけている。初年度の産駒が4歳に達した2009年以降、全日本のダート競馬限定サイアーランキングは、昨2016年まで「2・2・2・2・2・1・2・1」位である。今年もここまで1位。今春5頭の交配をこなしたところで急死してしまったが、まだデビューしていない世代が4世代(2歳、1歳、0歳。来季18年生まれはごく少数)も残っている。

 ここまでに種牡馬登録されている後継馬は、スマートファルコン(16年の新種牡馬ランキングのダート限定部門1位)エスポワールシチー(初年度産駒は今年2歳デビュー。血統登録59頭)、テラザクラウド(同。2頭)の3頭にとどまるが、今年のフェブラリーSのゴールドドリーム。14、15年の勝ち馬コパノリッキー。クリソライト…。さらにはこの日、ヒヤシンス賞を勝って4戦4勝となったエピカリスなど、後継種牡馬候補はいくらでもいる。「ゴールドアリュール系」から、やがてドバイWC・ブリーダーズC・ケンタッキーダービー・ペガサスWCなど、世界のビッグレースに挑戦する逸材が出現するかもしれない。

 ベストウォーリア(父マジェスティックウォリアーは、2016年の春は日本で供用)は、またまた2着惜敗。これでダートの重賞レース5連続2着となってしまった。G1の2着が9回もありながら、とうとう勝てなかった少し以前のシーキングザダイヤ(父ストームキャット。種牡馬として日本→USA→チリ)を思わせたが、ベストウォーリアは南部杯(Jpn1)を2勝している。

 負けたとはいえ、7歳になってもまったく能力減がないことを示したから、同じ2着惜敗でも価値の高い2着である。ゴールドドリームの完勝かと思えたゴール前200m、そこからベストウォーリアはあきらめることなくもう一回伸びた。1600mは十分に守備範囲だが、1400mの方がもっと合う印象もある同馬に、(芝もそうだが)距離1400mにG1級のビッグレースがないのはちょっと残念な距離体系だろう。ダートの距離1400m自体は、公営の競馬場でもJRAでも珍しくないが、小回りのコース形態からして、多くは枠順の有利不利が生じすぎるから、重要レース設定が難しい。また、距離1400m(7ハロン)は国によって属する区分が異なる距離でもある。

 予測を上回って1番人気になったカフジテイク(父プリサイスエンド)は、直線外から懸命に追い込んだが0秒1差の3着。騎乗した津村明秀騎手は、「うまいポジションを確保できなかったのは、完全に僕のミスです」と悲嘆したが、この流れでもっと前の、たとえば後方4〜5番手から追走となったら、東京ダートで「5戦連続」となった、ただ1頭だけ上がり34秒台の伸び脚は無理だったともいえる。

 コース取りなど、津村騎手は自身の物足りなさを最大の敗因にするが、カフジテイクに期待したファンは、カフジテイクの大きな可能性を信じたと同時に、限界も十分に理解していたようなところがあり、津村騎手が物足りなかったから「カフジテイクが届かなかったのだ」とは、オーナーも思ってはいないと思える。前回と同じ福永祐一騎手が乗っていたとしても、カフジテイクはカフジテイク。周囲の記者も「良く乗ったんじゃないか。能力は出している」。再三レース再生を見ながら、みんな同じような見解だった。

 モーニンは、いつもながら素晴らしい馬体を誇ったが、内枠ではもまれ弱さが露呈する心配があり、積極策は仕方がない。ハイペースとはいうが、自分より前でもっときびしいラップを踏んだニシケンモノノフ(5着・父メイショウボーラー)に並べないのだから、今回は完敗である。立ち直っていると映ったノンコノユメも7着止まり。去勢はやむを得ない苦渋の決断だったが、失敗ではなく、まだ答えは出ていない復調の途上と考えたい。

 コパノリッキーは、すんなり行けずに仕方なくハイペース追走はチャンピオンだから仕方がない。同型馬がいてのハイペース向きではないのだろう。たまたまかもしれないが、同馬の東京ダート1600m良馬場の内容は、今年も2連覇時もとくに差はない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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