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【騎手から調教師へ】田中博康騎手(3)『自分も育ててもらったように、弟子を育てたい』

  • 2017年02月27日(月) 12時01分
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▲26日中山競馬場での引退セレモニー、たくさんの騎手仲間に囲まれて(撮影:下野雄規)


先週末の25日26日が、ジョッキー最後のステージとなった田中博康騎手。ラスト騎乗は、師匠である高橋祥泰厩舎の管理馬でした。ジョッキー人生をやり遂げ、いよいよ調教師としての第一歩。今週は、来年3月の開業に向けてのビジョンに迫ります。どんな厩舎にしたいか、どんな調教師になりたいか――そこにはジョッキー経験を活かした、秘めた熱い思いがありました。(取材:赤見千尋)


(前回のつづき)

ジョッキーから好かれる厩舎が理想


赤見 来年3月の開業に向けて、着々と準備を進めていると思うのですが、厩舎カラーはもう決めていますか?

田中 はい。ネイビーにえんじです。フランスで最初にお世話になったミケル・デルザングル厩舎のに近いんですけど、初めて見た時に「すごくかっこいいな」って。その時の印象が強く残っていて、デルザングル厩舎のように活躍できることを願って、そうさせてもらいました。

赤見 じゃあ、厩舎のロゴも決まってるんですか?

田中 ロゴは今考えてもらってます。同級生にデザイナーがいるのでお願いしたんですが、ロゴを決める時って、ビジョンとか目標とかいろいろヒアリングするらしいですね。僕も「こういう厩舎にしたい」という気持ちを伝えました。

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▲「ロゴを作る時に、こういう厩舎にしたいという気持ちを伝えました」


赤見 それ、ぜひ聞きたいです! どんな厩舎にしたいですか?

田中 開業がまだ先なのであくまで自分のイメージですが、一番に考えているのは「活気のある厩舎にしたい」ということです。特に、ジョッキーから好かれる厩舎って、すごくいいなって思うんですよね。

赤見 「この厩舎の馬に乗りたい」と思ってもらえるような。

田中 はい。自分がジョッキーだからかもしれないですけど、そういう厩舎を目指したいです。そのためには馬主さんや牧場など、いろいろなところからも信頼される厩舎にならないといけないですね。

赤見 これからは「先生」って呼ばれますね。

田中 いや…正直、呼ばれたくないです(苦笑)。定着してることなので、僕が止めたところで何ともならないでしょうけど。僕の場合、年上のスタッフがほとんどになると思うので不安もありますけど、しっかりとコミュニケーション取りながらやっていきたいです。

赤見 海外だと、同世代の調教師は結構いるんですか?

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▲30代前半での調教師転身「海外だと、同世代の調教師は結構いるんですか?」


田中 30代はいますけど、30代の前半となるとあまりいないです。ジョセフ・オブライエンなんかは、22歳でジョッキーを引退して調教師になりましたけどね(名伯楽エイダン・オブライエンの長男。英ダービー2勝など若き名手として知られた)。もうGIを勝ちましたし、すごいですよね。刺激を受けます。

赤見 同じ「ジョッキーから調教師へ」という道ですもんね。ただ、ジョッキーと調教師では、仕事の性質は違うものになりますよね。

田中 ジョッキーは競馬という最後の部分を担いますけど、調教師の役割は一頭の競走馬の過程の大半を占めますからね。それだけに辛いこともたくさんあるでしょうけど、やりがいは本当にあるんじゃないかなと思ってます。簡単に出来てしまうことなら、やりがいは感じない。難しくて奥が深いからこそ、追求していきたいです。

赤見 海外で学んだことで、取り入れたいことはありますか?

田中 もちろんあります。向こうの人って、動物の扱いが本当に上手だなと思っていて。それは馬だけじゃなく、犬の扱いを見ていてもそうで。距離が近いんですよね。動物の習性をよく理解しているからだと思います。

赤見 だからラチのない森の中でも、調教ができるんですね。

田中 それだけ主従関係がしっかりしているんですよね。向こうの馬がおとなしいのは、自然の中で調教してるからだって言われることもありますが、僕はそうではないと思います。じゃあフランスの馬が日本に来たらうるさくなるかって言うと、違うでしょうしね。どうしてそういうことができるのか、考えてながら取り入れていきたいです。

赤見 個人的には元騎手の調教師が、どの騎手を乗せるのかがすごく気になるんです。たくさん乗せてる騎手とか、勝負の時に乗せる騎手とか。

田中 ああ、たしかにその気持ちはわかります。

赤見 誰を乗せたいですか?

田中 それは秘密で(笑)。お世話になった(武)豊さんには、ぜひお願いしたいです。乗ってもらえるかはわからないですけど(笑)。個人的には、しっかり考えて乗るジョッキーがいいなと思います。ジョッキーって競馬で本当に大事な要素ですし、ジョッキーとしっかり関係を築いていきたいですね。弟子を取れるのであれば、なおさら。

赤見 じゃあ、いつかは弟子をとりたいという思いが。

田中 あります。藤沢和雄先生はたくさん弟子を育てていますし、うちの師匠が僕を弟子として育ててくれた思いもよく分かりますので。厩舎は勝つことが大事ですけど、ただ勝つよりも「人が育って、馬も育つ」という循環がいいですよね。

赤見 最近では弟子をとる厩舎が減っていますから、その思いを早くから抱いているのが素敵ですね。

田中 ジョッキーの育成に貢献できたら、という思いはあります。めぐりめぐって、馬作りにもつながると思いますしね。僕はジョッキーとしてはいまいちだったので、新たに調教師としていい仕事ができるように、競馬をもっとアピールできるように貢献したいと思っています。来年開業したら、どうか応援をよろしくお願いします。

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▲最終騎乗は師匠・高橋祥泰師の管理馬、9番人気のミラクルウィングで4着。これからは師匠のような調教師を目指して(撮影:下野雄規)


(文中敬称略、了)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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