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【北村友一×藤岡佑介】第2回『実はかなりの職人気質 レース中は“マイワールド”』

  • 2017年03月15日(水) 18時01分
with 佑

▲実はかなりの職人気質、北村騎手のこだわりが明らかに


今回のテーマは『騎乗論』。実はかなりの職人気質という北村騎手。中でも、鐙と手綱の長さには並々ならぬこだわりがあると言います。先輩である佑介騎手も一目置くほど、馬乗りを突き詰めていく北村騎手の姿勢。それは武器である一方、弱点になる場合もあると言います。「人気馬の乗り方」「GIに勝つためには」―日々悩みながら黙々と上を目指す、北村騎手の本音に迫ります。(取材・構成:不破由妃子)


(前回のつづき)

返し馬で、手綱を離してバランスを確認することも


佑介 友一はもともと関節がすごく柔らかくて、馬に乗るのがめっちゃ上手。俺は友一のそんな騎乗スタイルが好きで、最初は一方的に興味を持った。それがさっき話したサンライズプリンスあたりから、より職人色が増してきて。明確な目的意識を持って取り組んでいるのがわかるから、友一と話していると勉強になることがたくさんあるよ。

北村 どうやったら馬の動きを邪魔せずに乗れるのか、どこでバランスを取るのが一番いいのか、どこで衝撃を吸収したらいいのかなど、すごく考えるようになりましたね。

佑介 基本的に鐙(アブミ)はずっと短めだけど、手綱はだいぶ長く持つようになったよな。今となっては、友一ほど鐙が短くて手綱が長いジョッキーはなかなかいないよ。鐙が短いということは、それだけ馬との接地面が少ないわけで、そんな不安定ななかで口も自由にさせているっていう。

北村 ミルコがゴールした後によくパッと手を離すじゃないですか。僕が思うのは、1、2コーナーや向正面でもああやって手を離せるバランスで乗りたいなっていうこと。口をいじらずに、鐙だけでバランスを取れるところで乗るのが一番……いや、それが正解かどうかはわかりませんが、それが馬にとって一番負担が少ないんじゃないかと思って。だから、返し馬でもたまに手綱を離して、バランスを確認したりしています。

佑介 確かに馬にとってストレスはないだろうけど、ものすごく難しいことを目指してるよね(苦笑)。俺は逆に、馬とはちゃんとコンタクトを取って乗りたいタイプ。手綱を離して歩かせるだけでも怖いよ。友一は常歩で馬場に入っていくときも、手綱を長くして絶対に口に触らないもんね。

北村 そうですね。藤岡先輩も含めて、みなさん返し馬でコンタクトを取りながら反応や雰囲気を探っていくと思うんですけど、僕はノーコンタクトの状態で馬の反応を見ていくんです。それで、ああしよう、こうしようと考える。

佑介 そこに関しては、めっちゃこだわっているのが見ていてわかるよ。もともと友一は凝り性やから、今はそこを突き詰めてるんやろうなって。

北村 でも、楽に走れるという意味で、馬にとってフリーの状態が一番だとも思っていません。長手綱で乗ったからといって、必ずしも馬が体を使えるわけでもないですしね。だから、同じ長手綱でも、この馬はちょっとコンタクトを取ったほうが体を大きく使うんだなとか、そっち側から探っていくようにしています。

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▲返し馬でもレースでも馬との対話を一番重視(写真は2016年ファイナルS優勝時 (C)netkeiba)


佑介 そこは本当にこだわりやね。すごいなと思うし、それが友一の武器でもあると思う。ただ、一方で弱点となる場合も。

北村 そうなんですよね。スタートしてからのポジション取りとか…。引かざるを得ない場面がどうしてもでてきてしまう。

佑介 コンマ何秒で決まる世界にあって、手綱が長いとそのぶんコンタクトを取るのが遅れるからね。ましてや、人気馬に乗ってもそのスタンスを変えないとなると、そこはもう単なる隙になってしまう。大きいレースになればなるほど、そこはタイトになっていく場面だから。とくに今のルールになってから、やってくる人がいっぱいいるしね。

北村 確かにそうですね。わかります。

佑介 俺も友一と同じでGIを勝つことを目標にしているから重要視しているんだけど、GIは能力が拮抗しているぶん、最初に取ったポジションが勝因にもなれば、致命傷にもなると思ってる。だから、手綱を詰めてもスムーズにコンタクトを取れるバランスがあるなら、そのほうがいいのかなって。友一はもともと馬乗りが上手だからさ、そういうところまで到達してほしいな。こういう話を俺主体でしていくと、また「お前が何を偉そうに言ってねん」って書かれてしまうんやけど(苦笑)。

北村 大丈夫ですよ。コラムのページにコメント欄はありませんから(笑)。それに、佑介さんのアドバイスはいつも本当に的確。いつもちゃんと見てくれているから。

最終レースの後の大絶叫…その真相は!?


佑介 誰に対しても同じではないよ。それに、俺としてはいつも偉そうに言っているつもりはさらさらなくて、友一に対しても、むしろ羨ましいと思う気持ちがある。そういうこだわりがある友一だからこそ、ハマるレースもたくさんあるもんね。長手綱にしてもそうだし、フォームを突き詰め出したら、それもまたとことん(笑)。レース中も、フォームのことばかり考えていた時期があったよね? 大事なのは、自分と馬との対話のみ! みたいな(笑)。

北村 そうそうそう! いや〜、本当にその通りです(苦笑)。

佑介 友一はそういう時期が長かった。たとえば、18頭で競馬をしていても、友一だけは“マイワールド”。友一のこだわりゆえなんだけど、勝つ気がないのか、追う気がないのかとか見られてしまって。

北村 その通りです! 藤岡先輩、やっぱスゴイ(苦笑)。正直、割と最近までそんな感じでした。去年の夏に何かの取材でも話したんですけど、自分と馬の世界だけで競馬をしていることが本当に多くて、あくまでもその馬のリズムで、その馬が気持ちよく走ることだけを突き詰めていたなぁって。でもやっぱり、それだけではダメだと今は思っています。

佑介 その変化もわかるよ。去年の秋口あたりからは、“マイワールド”以上に勝つことにこだわって競馬をしているように見えるから。細かい駆け引きも含めて、友一は今、一緒に乗っていてすごく面白い。ポジションを確認して乗らなきゃいけないジョッキーだよ。

with 佑

▲北村騎手の変化を感じ取ってる佑介騎手「細かい駆け引きも含めて、友一は一緒に乗っていてすごく面白い」


北村 ありがとうございます。でも、立ち回りは本当にまだまだダメですし、やっぱり根底には自分の馬のリズムを大切にしたいという気持ちがあって…。ん〜、いろいろ悩ましいです。負けるときは、本当にやる気がないのかと言われてしまうくらい、アッサリ負けてしまうんですけど…。でもやる気がないわけでは決してなくて…。

佑介 そうだよな。俺はわかってる。だって、友一だからこそ勝てた競馬もめっちゃあるから。それに、最近はすごく楽しそうに乗っているように見えるよ。今、競馬が面白いやろ?

北村 はい。ローカルでは人気の馬に乗せていただいているぶん、以前より考えることが増えていますし、それに比例して感謝の気持ちもどんどん大きくなっているから、「今、結果を出したい」「今、もっと上手くなりたい」「今、全部吸収したい」っていうのが正直な気持ちです。

佑介 それだけ前向きな欲があるということは、精神的にも充実している証拠だと思うよ。

北村 そうなんですかねぇ。精神面では、まだまだ課題ばかりです。2つ勝っても3つ勝っても、最終レースで嫌な負け方をすると、いまだに無駄に筋トレをしたり、無駄に馬場を走ってみたり…(苦笑)。

佑介 知ってる! 最終レースのあと、いきなり「アアアー!!!」とか叫びながら、そのまま馬場を走ってるもんな(笑)。

(文中敬称略、次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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