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危なげなく勝ってみせたキタサンブラック/大阪杯

  • 2017年04月03日(月) 18時00分


◆キタサンブラックに楽をさせない果敢な挑戦者の出現を期待したい

 5歳キタサンブラック(父ブラックタイド)が、昇格第1回のG1「大阪杯2000m」を人気に応えて完勝した。これで、菊花賞3000m、天皇賞・春3200m、ジャパンC2400mにつづきGI4勝目となった。最初、どちらかというとスピード色の濃い中距離タイプではないかと思われたが、3〜4歳時に制したビッグレースはすべて長距離区分であり、2000mの中距離G1を勝ったのは今回の大阪杯が初めてだった。

 通算成績15戦【9-2-3-1】。無類のしぶとさ、勝負強さが最大の持ち味で、正直に能力を全開するキタサンブラックはこれで10戦連続3着以内。めったに1番人気にならないが、今回のように1番人気に支持されると、【3-0-0-0】。昨秋のジャパンC、そして今回の大阪杯など、危なげなく勝ってみせる点でも、きわめて誠実なチャンピオンである。

 良馬場に回復したこの日の阪神は、午前中の3歳未勝利戦の芝1600mで1分34秒9が記録された。マルターズアポジーなどの出方しだいでは1分58秒台前半(レースレコードは11年の1分57秒8)もあるかと思えたが、絵にかいたような一定の平均ペースが成立し、レース全体のバランスは「59秒6-59秒3」=1分58秒9。

 飛ばしているように映ったマルターズアポジーの前半1000m通過は59秒6なので、そこから少なくとも1秒は離れた3番手にいたキタサンブラックは楽なスローの好位追走となり、前後半推定バランスは、「60秒7-58秒2」=1分58秒9となった。オープンの阪神の内回り2000mとすれば予測されていた以上のゆったりペースで前半を乗り切ったあと、後半600mはピッチを上げて34秒3-12秒0である。

 前半1000m通過を推定60秒7の楽なペースで先行しいている人気のキタサンブラックを離れずにマークしていたのは2着したステファノス(父ディープインパクト)くらいであり、高速のシーズンではないとはいえ、他の有力馬はスローのキタサンブラックを射程に入れず、非常にぬるい追走だった。この流れだから当然のようにキタサンブラックに後半1000mを58秒そこそこでまとめられ、手も足も出なかった。

 キタサンブラックの菊花賞の3分03秒9は、最近10年間では6番目の勝ちタイムであり、天皇賞・春の3分15秒3は10年間で8番目、ジャパンCの2分25秒8は9番目に遅いタイムである。だが、走破タイムは今回の大阪杯が示すように、芝状態、ペース、相手のレベルが占める比重の方が高いから、必ずしもレベルは高くないという意味ではない。

 ただ、キタサンブラック(武豊)が先行すると、なぜかゆるいペースになることが多く、有馬記念の2分32秒6の惜敗も、超スローだった。しかし、キタサンブラックだけがとくに恵まれているわけではなく、ビッグレースで人気の中心馬が先行タイプだと、不思議なほど「流れは速くならない」のはずっと昔からのパターンである。人気の(力のある)先行タイプにペースを合わせると、みんな自分の方が苦しくなると考えてしまう。でも、人気の先行馬は逆に、みんな少しでも楽なペースにしようとするからである。

 昨年の天皇賞・春は、自分で主導権をにぎり「49秒7-48秒6-50秒4-46秒6」。前後半の1600mずつにすると「1分38秒3-1分37秒0」=3分15秒3だった。

 残り800mになった2400m通過地点は2分28秒7。良馬場の最近10年間では「9番目」に遅いスローだったという記録がある。好勝負に持ち込めたのは、今回の大阪杯のステファノスと同じように先行してキタサンブラックをピタッとマークしていたカレンミロティックだけだった。2連覇を狙う天皇賞・春のキタサンブラックに、有馬記念と同様、サトノダイヤモンド(ルメール)は途中から接近しそうだが、その昨年末の有馬記念は超のつくスローだった。2頭の人気馬にスローで先行されては、レースの興味は半減する危険がある。果敢な挑戦者となる人馬の出現を期待したい。

 そのルメール騎手が乗った2番人気のマカヒキ(父ディープインパクト)は、上がり33秒9。もっと後方にいたアンビシャス(父ディープインパクト)の33秒6、少し前方にいたヤマカツエース(父キングカメハメハ)の33秒8とともに差は詰め、キタサンブラックに0秒4差の4着。数字だけだとさして差がない印象もあるが、見せ場なしの完敗だった。

 デキは前回より明らかに良かったと思えるが、負け方が良くない。勝負どころにさしかかる以前にもう置かれ過ぎている。4コーナー手前からも猛然と伸びたわけではない。早熟などということはあり得ないが、早くから活躍してしまったディープインパクト産駒にありがちな活力消耗のカベなのか、近年ではワンアンドオンリーと同じような日本ダービー馬の宿命(ツキや活力を使い果たす燃え尽き症候群)なのか、ルメール騎手が最初から阪神2000mでは勝ち目はないと弱気だったためなのか。身体つきは戻っているので、予定する宝塚記念で大きく巻き返して欲しいものである。

 3番人気のサトノクラウン(父マルジュ)は、直前輸送なのでマイナス12キロは大きな死角ではないが、レース前にちょっと気負いすぎの印象があった。デムーロ騎手は「コースが合わない」ことを敗因にあげたが、完敗するような厳しいレースではなかっただけに、マカヒキとともにちょっとがっかりの結果だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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