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世界の競馬サークルで輝きを放つ日本産ブランド

  • 2017年04月12日(水) 12時00分


◆日本産ハーツクライ産駒のヨシダがアメリカで初勝利を挙げる

 9日(日曜日)に北米ケンタッキー州のキーンランド競馬場で行われた開催の、第4競走に組まれたメイドン(芝9F)を、日本産ハーツクライ産駒のヨシダ(牡3)が優勝。デビュー2戦目にして初勝利を挙げた。

 2014年2月24日に安平のノーザンファームで生まれたのがヨシダだ。母ヒルダズパッションは、東海岸のトップトレーナー、トッド・プレッチャー厩舎に所属し、サラトガのG1バレリーナS(d7F)を含む5つの重賞を制した活躍馬である。4歳の秋にファシグティプトン・ノヴェンバーセールに上場され、ノーザンファームの吉田勝己氏が122万5千ドル(当時のレートで約9800万円)で購買して、日本で繁殖入り。その2番仔となるのが、ヨシダである。ちなみに同馬の1歳年上の初仔は、池江泰寿厩舎所属の2勝馬(4月9日現在)ジークカイザー(牡4、父ディープインパクト)である。

 ヒルダズパッションの2番仔は、2015年のJRHAセレクトセール1歳セッションに上場され、ここで同馬を9400万円で購入したのが、この時がセレクトセール初参戦だったアメリカのウィンスター・ファームであった。

 電話通信事業で成功して財をなしたケニー・トラウト氏が、ケンタッキーに持つ競馬と生産の組織がウィンスター・ファームだ。レキシントン近郊のヴァーセイルスに2400エーカーという広大な敷地を要し、生産から育成、現役馬の保有、種牡馬の繋養まで、競走馬事業を幅広く営んでいる。種馬場には、2011年の全米リーディングサイヤー・ディストーテッドヒューモアを筆頭に、3冠馬アメリカンフェイローを輩出したパイオニアオヴザナイル、昨年のG1全日本2歳優駿勝ち馬リエノテソーロなど日本でも複数の活躍馬を出しているスパイツタウンなど、20頭余りの種牡馬が繋養されている。

 そのウィンスターで、現場の責任者を務めているのがエリオット・ウォルデン氏だ。90年代から今世紀のはじめにかけて、調教師として活躍。ホークアタックで95年のセクレタリアトSを、ヴィクトリーギャロップで98年のベルモントSを制したのをはじめ、9つのG1を含む60の重賞競走を制している。42歳だった2005年に調教師を辞めて、ウィンスターに加入。2010年から社長の職に就いている。

 そのウォルデン氏が、エージェントであるSFブラッドストックのトム・ライアン氏を伴い、2015年のセレクトセールに参戦した主目的は、エンパイアメーカー産駒を探すことだった。2011年から日本で供用されていたエンパイアメーカーは、アメリカに残してきた産駒から、G1BCレディースクラシック連覇のロイヤルデルタ、G1アーカンソーダービー勝ち馬ボディマイスターら、続々と活躍馬が出現。日本産のエンパイアメーカー産駒を購入してアメリカで走らせようという目論見をもっての来日であった(その後エンパイアメーカーは買い戻され、2016年から再びアメリカ供用となっている)。

 ウォルデン氏は実際に、1歳セッションで2頭、当歳セッションで1頭のエンパイアメーカー産駒を購入したのだが、下見をしているうちに、彼の目を捉えて離さなくなってしまったのが、1歳セッションに上場されていた母ヒルダズパッションの牡馬だったのだ。

 そして、予定にはなかったことだが、1億円近い金額を投じて同馬を購入することになったのである。

 ウォルデン氏によれば、購買後すぐに、生産者であるノーザンファームの吉田勝己氏に、「この馬をヨシダと名付けてよいか」と尋ね、吉田氏が「それは名誉なこと」と快諾したとのことだ。

 テオ・アー・キン氏を中心とした競馬組織チャイナホースクラブとウィンスターとの共同所有馬となったヨシダは、東海岸のウィリアム・モット厩舎に入厩。昨年11月19日にアケダクトで行われたメイドン(芝8F)でデビューし、10頭立ての7番手から追い込んだものの、勝ち馬に1/2馬身届かぬ2着に終わっている。その後、ソエがひどくなったために、一旦放牧に出し、再調整されて臨んだのが、9日の一戦だった。

 初戦とは打って変わって、スタート直後にハナに立ったヨシダは、4コーナーから後続との差を広げ、最後は4馬身という決定的な差をつけて逃げ切り勝ち。このパフォーマンスに対し、米国の競馬日刊紙サラブレッド・デイリー・ニュース(TDN)は、極めて印象的な勝ち方をした若駒に与える「TDNライジングスター」の称号をヨシダに与え、その将来性を高く評価している。

 ウォルデン氏はレース後、「芝の大きなところを狙っていくことになるであろう」と、今後の見通しを語っている。

 先週半ばにフランスから、日本産ディープインパクト産駒アキヒロが英ダービーに登録したとの話題が届いたと思ったら、週末にはアメリカから、日本産ハーツクライ産駒ヨシダの初勝利というニュースが届いたわけだ。日本産というブランドが、世界の競馬サークルで今、大きな輝きを放っている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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