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闘志の塊のような人馬だったアルアインと松山弘平騎手/皐月賞

  • 2017年04月17日(月) 18時00分


◆ただ、皐月賞レコード激走は反動を生じやすい

 皐月賞レコードの「1分57秒8(コースレコードとタイ記録)」となった高速レースが展開された中、アルアイン(父ディープインパクト)の無類の勝負強さが爆発した一戦だった。

 3コーナー過ぎから各馬が次々とスパートしハロンラップが11秒4に加速されると、4コーナー手前でもっとも手応えが怪しくなり、失速して下がりかけたように映ったのがアルアイン(松山弘平騎手)だった。もうコースを選ぶ余裕などなく、懸命に先の馬に追いすがると、道中はずっと同じ位置にいたファンディーナの内にぽっかりスペースができていた。

 あとはもう懸命に追いまくるだけ。最後は手前を変える余力もなく、ゴール寸前は外に大きく斜行しながら(他馬に影響は与えていないから大丈夫)、それでも抜け出してみせた。闘志の塊のような人馬だった。

 3月の毎日杯1800mを1分46秒5。08年のディープスカイ(日本ダービー馬)の1分46秒0、13年キズナ(日本ダービー馬)の1分46秒2に次ぐ史上3位の好時計で勝ってきたのに、9番人気にとどまったのは、若い松山弘平騎手(27)がここまで中央G1は37戦未勝利のうえ、皐月賞騎乗は初めて、という理由のほかに、かなり胴が詰まってみえる体型が初の2000mに死角大だったからだろう。

 だが、母ドバイマジェスティはチャンピオンスプリンターではあっても、その父はいま再び全盛時を迎えているA.P.インディ系であり、ファミリーが短距離一族というわけでもない。ディープインパクト(母方が典型的な欧州系)は、ストームキャットの牝馬で成功しているように、北米のスピード系統との組み合わせで大成功している。

 距離延長を心配されていたが、毎日杯1800mのタイム、また初の2000mを皐月賞レコードの1分57秒8で快勝した内容から、そんなにマイラー色の濃い馬ではないことが証明されたといえる。ただ、日本ダービーのためには克服しなければならない問題がある。

 昨年、1分57秒9のレースレコードで激走したディーマジェスティは、疲労で発熱し本番は完調ではなく3着止まり、以後も不振。その前の皐月賞レコードは、13年のロゴタイプの1分58秒0。同馬は日本ダービー5着など、以後ここまで21戦1勝。その前の皐月賞レコードは、02年ノーリーズンの1分58秒5。同馬は日本ダービー8着など、以降8戦0勝。

 他に皐月賞を1分58秒7で勝った09年アンライバルドは、そのあと5戦0勝。1分58秒6だった04年のダイワメジャーは、日本ダービー6着。のど鳴りに見舞われやがて見事に立ち直ったが、皐月賞以降の3歳時は3戦0勝だった。15年に1分58秒2で勝ったドゥラメンテは日本ダービーを勝ったが、そのあとは3戦1勝だけで残念な引退。快時計の皐月賞激走と無縁ではない。春の皐月賞2000m「1分57〜58秒台」の速い時計は、ときに鬼門である。

 今年も、土曜日の芝の3歳未勝利戦2000mがいきなり高速決着の2分00秒4。上がり46秒7-34秒5。みんな2000mの持ち時計をそろって「2秒」も更新した。「JRAは、またやったのか?」という声があちこちから飛び出した。世界のどこの国でもビッグレースのために馬場の整備(調整)は行うが、2000mで前の週よりいきなり「2秒」も高速になるのは、不信を伴う。通常とはまったく異なる高速レースを強いることによって、現実に反動(後遺)を生じた馬が実際に複数存在するのだから、G1用の芝整備といっても、もう少し控えたものにしたいものである。

 激戦でのレコード激走の反動は仕方がない。ただ、わざわざレースレコードが更新されるためのような整備は変である。ゴール寸前、よれるくらいの激走でレコードの1分57秒8で乗り切ったアルアインは、ひょっとすると能力以上のものを絞りだした激走だった可能性(危険)がある。何事もなかったかのように、日本ダービーに向けての調整に入れることを願いたい。

 同じ池江泰寿調教師の管理するペルシアンナイト(父ハービンジャー)が、巧みにインから抜け出して2着。今年のG1は、最初のダートのフェブラリーSを別にして、高松宮記念、桜花賞、大阪杯を社台グループではない生産牧場の馬が快走して3連勝していたが、ここは一転「3着までを独占」してみせた。好素材を何頭もかかえる池江厩舎、そして社台グループの底力爆発である。後方にひかえ、インからスルスルと進出し、好位のインにいた人気のファンディーナにスパートをうながし、その空いたインに突っ込んで勝機をつかんだかと思えたM.デムーロ騎手は、昨年はリオンディーズ(斜行→降着)の不名誉があり、今年は期するものがあった。勝ち馬のがんばりに「クビ差」及ばなかったとはいえ、見事な技ありの2着である。気配の良さも光っていた。ハービンジャー産駒のG1競走連対は、3世代目にして初めてである。

 母オリエントチャーム(父サンデーサイレンス)の全兄ゴールドアリュールは、タニノギムレットの日本ダービーを0秒3差の5着だった。距離はOK。今回はあまりに時計が速すぎたが、日本ダービー2400mでの好走も約束されただろう。

 ダンビュライト(父ルーラーシップ)は、良馬場の2000mでは時計に死角があったが、なんと弥生賞3着の時計を「5秒6」も短縮する1分57秒9の小差3着。強気に先行し、坂を上がるあたりでは勝ったかと思わせるしぶといレース運びだった。条件賞金は1050万のままだが、これで日本ダービーに出走可能。少しタイムを要するくらいのコンディションなら、もっと渋いレースができそうである。

「アグネスレディー→アグネスフローラ→アグネスタキオン→ディープスカイ→」。親子5代のクラシック制覇の記録がかかっていたクリンチャーが粘って4着。また、途中から勝算のない追走はあきらめたか、日本ダービーのための前哨戦に徹したかのように後方に下げたレイデオロ(父キングカメハメハ)が直線だけインから突っ込んで5着だった。控えて直線だけの競馬だから、10着以内ではNo.1の上がり34秒0を記録できたのはたしかだが、今回の馬体はまだ緩く映った。本番に向けての上昇が楽しみである。

 人気の牝馬ファンディーナ(父ディープインパクト)は、相変わらずスケールあふれる馬体で、前の素晴らしい馬体のペルシアンナイトが平凡にみえる瞬間さえあった。敗因はいくつもあるだろう。もちろん最初から外に出す手はないが、ずっと大事に控えてイン追走となり、自分のリズムで展開できなかったのは痛い。ずっと外に馬がいて、なおかつそれらの馬がプレッシャーをかけてくるような厳しいレースの経験がなかった。1分58秒3で、0秒5差の7着。大敗したわけでも、力が及ばなかったという内容でもない。挑戦は始まったばかりである。

「やっぱり、しょせん牝馬だから…」などと、したり顔の関係者もいたが、それは皐月賞でも注目され期待されるような素晴らしい牝馬に対する羨望の裏返しであるように思えた。日本ダービーはもっと厳しいが、同じ東京2400mのオークスに出走するなら、やっぱり日本ダービーというさらに強気の挑戦の道はある。ハナに立って、自分のペースで…という戦い方もなくはない。たしかに負けはしたが弱気になることはない。

 実際、並んで入線したレイデオロも、スワーヴリチャード(父ハーツクライ)も、おそらく日本ダービーでは最上位の有力馬として支持される馬であるのだから。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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