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地方競馬は“B級グルメ”が濃い!/斎藤修

  • 2017年04月24日(月) 18時00分
▲NAR特設サイト「地方って、スゴい。」との連動コラム

▲NAR特設サイト「地方って、スゴい。」との連動コラム


「競馬が、濃い。」をコンセプトに、コラムや動画で地方競馬の面白さを伝えるSP企画がスタート! 第1弾のテーマは「B級グルメ」。取材で全国を飛び回る斎藤修氏が、選りすぐりの“競馬場グルメ”を紹介します。(文、写真:斎藤修)


馬券検討より「何を食おうか?」

 地方競馬の遠征で、レースや馬券と同じくらいに楽しみなのが、競馬場内や街中での食事ではないだろうか。いや、“食事”というほどかしこまったものではなく、“メシ”と言ったほうがいいかもしれない。ぼくは移動の電車や飛行機の中で、馬券の検討よりも「さて、今日は競馬場で何を食おうか?」と考えることのほうが多いような気がする。

 馬券は資金さえ尽きなければいくらでも買えるが、メシとなると、そういうわけにはいかない。数時間の滞在なら1食、1レースから最終レースまで滞在しても、せいぜい2食。年に1、2度しか行くことがない競馬場なら、何を食おうかという悩みはさらに深刻なものとなる。

 何を食べるか。当然、その競馬場でしか食べられないものや、土地土地の名物の優先度が高くなる。たとえば、日本全国どこでも食べられる、ラーメン、カレー、うどん、そばなどは、よほど奇をてらったものでもない限りそれほど代わり映えもせず、選択肢から真っ先に除外される。

 しかし、そこにこそ落とし穴があった、と気付かされたのが盛岡競馬場だ。

 盛岡といえば一番の名物は、ジャンボ焼鳥。岩手の郷土料理「ひっつみ」も捨てがたい。どちらも屋台村の売店で売っている。

 ところが、ある日、ある人にすすめられ、食べてみたラーメンの美味しさ、滋味深さにびっくりした。屋台村の真ん中あたりにある『スガワラ』というお店だ。

 スガワラのメニューには、盛岡三大麺に数えられる、冷麺、じゃじゃ麺もある。三大麺のもうひとつ、わんこそばは、さすがに競馬場の売店などで提供するのは難しい。冷麺もじゃじゃ麺も、地元の競馬ファンが当たり前のように食べているので、もちろん間違いはない。

 しかしそういうわけで、スガワラのラーメン(500円)だ。見た目はとってもシンプル。家系だ、野菜マシマシだ、北極だ、などという個性的で味の濃いラーメンが当たり前となった今では、こうしたシンプルなラーメンのほうがむしろ新鮮。とにかくスープがうまい。ダシは、動物系がメインだろうが、しっかりと魚介系も感じることができる。ホッと落ち着ける味のラーメンだ。

盛岡「スガワラ」ラーメン

▲盛岡「スガワラ」 ラーメン(500円)


 今の盛岡競馬場は、オープンしたのが1996年。聞けばスガワラさんは、現在のご主人の先代が、旧盛岡競馬場の時代から営業していて、ラーメンのスープも先代から受け継がれたものだそうだ。

 地方競馬も馬券発売はネットがかなりの割合を占めるようになり、必然的に本場に来場するファンは少なくなっている。それでも変わらず営業を続けているというのは、地元ファンに支えられウン十年、ということなのだろう。

 普通のメニューで最近、当たりと思ったもののひとつに、船橋競馬場のスタンド1階、ゴール近くにある『駿彩』のかき揚げそばがある。実はここ、以前もそば・うどんの売店が入っていたのだが、昨年(2016年)春に店舗が変わり、『駿彩』になった。

 ここのそばの特徴は、麺の細さ。手打ちの本格的なそばならともかく、立ち食い系ファストフードで、こんな細いそばは見たことない。うどんでいえば、冷麦くらいの太さだろうか。その麺に、関東系の濃いダシがよくからむ。

船橋「駿彩」かき揚げそば

▲船橋「駿彩」かき揚げそば(500円)


 さらにうれしいのは、かき揚げが揚げたてでサクサクなこと。それゆえ、注文してから少し待たされることが多い。それでもやっぱり美味しいものを食べられるほうがいい。ここのかき揚げには、さいの目切りのジャガイモが混ざっていて、それもアクセントになっている。

 揚げたてサクサクのかき揚げということでは、大井競馬場L-WINGの2階にある『かしわや』もかなりのオススメだ。

 加賀藩百万石のお膝元、金沢競馬場なら、迷わず寿司だ。地方競馬で、板前さんが目の前で寿司を握ってくれるというのは、おそらく金沢競馬にしかないのではないだろうか。

 しかも2軒(!)。正門を入ってすぐのところにあるのが『金澤玉寿司』。そしてずんずんと奥に進んでパドック奥の食堂街の一角にあるのが『宇ノ気(うのけ)玉寿司』。両方とも玉寿司だが、まったく別のお店。

 金澤玉寿司は、回転こそしていないものの、お皿の数で会計というシステムで、それこそ回転寿司なみの価格で季節の新鮮なネタが食べられる。競馬場という性格上、仕入れるネタの量が限られているらしく、お昼前後のなるべく早い時間をオススメする。なお金澤玉寿司では、持ち帰り用の柿の葉寿司もオススメだ。にぎり鮨も折り詰めにしてくる。

 そして個人的なイチオシは、宇ノ気玉寿司の「松前」。松前とは、いわゆる鯖(サバ)の押し寿司のこと。押し寿司にする鯖は昆布で〆てあるが、江戸時代、その昆布が松前藩(北海道の南端)から海路で運ばれてきていたことから、この地方では鯖の押し寿司を「松前」と呼ぶようになったらしい。

▲金沢「宇ノ気玉寿司」松前

▲金沢「宇ノ気玉寿司」 松前(600円)


 その松前は作りおきではなく、注文ごとに、目の前で型に詰めて押し寿司してくれる。それがなんと(!)600円也。お店のカウンターで食べても、もちろん美味しいのだが、持ち帰りにしてもらい、数時間経ったのち、酢飯と昆布〆された鯖が馴染んで、なお一層美味しくなる。

  尾張名古屋の名物といえば、エビフライに味噌カツだ。

 名古屋競馬場でエビフライといえば『当り屋』。ご飯に豚汁などを付けて定食にすると1300円と、競馬場の定食としてはやや値が張るが、注文ごとに揚げてくれる大ぶりのエビが3匹。値段以上の満足感は間違いない。

 そして味噌カツなら、食堂街でパドックに一番近い『大島屋』がオススメ。カツの衣は限りなく薄く、肉は分厚く、一口噛めばじゅわっとジューシー。もちろん注文ごとに揚げてくれる揚げたてアツアツ。定食は、豚汁か貝汁かが選べる。キャベツだけでなくマカロニサラダも付いていて、ドレッシングはノンオイルタイプとマヨネーズとあって、お好みで使えるのもうれしい。

▲名古屋「大島屋」 とんかつ・御飯(みそ味)

▲名古屋「大島屋」 とんかつ・御飯(みそ味)(990円)


 ちなみにメニューに掲載されている正式名称は、「とんかつ・御飯(みそ味かソース味か選べます、豚汁か貝汁が選べます)」というもの。ボリュームタップリ高級店レベルと言っていい味噌カツ定食が、名古屋競馬場では、なんと990円(!)。千円でおつりがもらえてしまう。

 2012年からナイター競馬(金曜日のみ)が始まった園田競馬場は、大阪の文化ともいえる串カツだ(園田競馬場の所在地は大阪ではなく兵庫県尼崎市だが)。

 串カツ専門の『串勝や』は、“その金ナイター”が始まるタイミングの場内リニューアルで、ほかのいくつかの新規店舗とともにオープンした。壁にズラリと貼られた串カツのメニューは、「端から全部!」と注文したくなるほど。厨房をぐるりと囲んだカウンター席に座れば、ジュワジュワと串カツを揚げる音が聞こえてきて、ますます食欲をそそられる。

 串カツといえば、ビールだ、ビール! しかし。残念ながら、園田競馬場には取材で行くことが多いので、さすがにビールというわけにはいかない。注文するのは、串カツ定食だ。その日、オススメの串カツが数本、お皿に盛られてくる。単品で注文すれば、おそらく500円くらいはするだろうという串カツの盛り合わせに、ご飯と味噌汁がついて、定食なら、なんと600円。もちろんキャベツもたっぷりついてくる。

▲園田「串勝や」 串カツ定食

▲園田「串勝や」 串カツ定食(600円)


 串勝やでは、トンカツ定食もオススメだ。注文ごとに、肉を叩くところから始めて、という揚げたてだ。

 さて、ここまで「揚げたて」というフレーズが何度出てきただろうか。天ぷら類やカツ類では、「揚げたて」はそれほどまでにこだわるポイントということ。

 九州唯一の競馬場となってしまった佐賀競馬場は、鳥栖市にある。サッカーJリーグ、サガン鳥栖のホームスタジアム(ベストアメニティスタジアム)もあるJR鳥栖駅まで、博多から特急なら20分、快速なら35分。鳥栖駅から競馬場までは、路線バスなら20分、タクシーなら15分ほど。

 まず鳥栖駅に降り立つと、駅弁の中央軒が出店している立ち食いそばのダシの香りにそそられる。お腹に自信があるなら、まずここで「かしわそば」を食べてもいいだろう。

 佐賀競馬場の正門を入ると、すぐ右、『龍ラーメン』『のだ屋』という2軒の店舗がある。前を通ると、どちらの店も、店頭に立つおばちゃんの呼び込みにまず圧倒されることになる。

 鳥栖は、博多と長崎の間という立地ゆえか、博多名物「とんこつラーメン」、長崎名物「ちゃんぽん」ともに、龍ラーメン、のだ屋、双方のメニューにラインナップされている。さらりと乳白色のスープが食欲をそそるとんこつラーメン、シャキシャキ野菜たっぷりのちゃんぽん。どちらも捨てがたい。

 しかし、佐賀競馬場では、ちょっとマニアックともいえる、「ごぼう天そば」を紹介したい。上記、のだ屋でもごぼう天そばを食べられるが、こちらはスタンド2階、4コーナー寄りにひっそりとある『鳥栖料飲店協同組合』のごぼう天そば(450円)。

 立ち食いそばやで天ぷらそばといえば、全国的にも、かき揚げがデフォルトだろう。しかし九州、特に博多近辺で天ぷらそばといえば、デフォルトはごぼう天だ。先に紹介した鳥栖駅の中央軒のメニューでも、かき揚げはなく、あるのは、ごぼう天とえび天。丸天というのもあるが、これは関東地方で言うところのさつま揚げ。

 単にごぼう天といっても、お店によってさまざま。千切りにしたごぼうをかき揚げ状に天ぷらにしているのが一般的だが、鳥栖料飲店協同組合のごぼう天は、太いごぼうを斜め薄切りにしたものを数枚ずつ揚げてある。

▲佐賀「鳥栖料飲店協同組合」 ごぼう天そば

▲佐賀「鳥栖料飲店協同組合」 ごぼう天そば(450円)


 ここを訪れるおじさんたちの推定8割は、食券の自動販売機で「ごぼう天そば」をポチッと押す。そしてそのほとんどの人が、一緒に「かしわめし」(200円、鶏肉の炊き込みご飯)も食べている。どうやらこのあたりでは、ごぼう天そばとかしわめしは鉄板の組み合わせであるらしい。

 そうそう、帰りには鳥栖駅でもう一度、中央軒に寄って、焼麦、もしくは焼麦弁当を買うことをオススメする。焼麦=シャオマイと読む。いわゆるシュウマイのこと。駅弁業界では、東の崎陽軒、西の中央軒と言われているらしい。

※価格は変更になる場合がございます

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