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仕上がりの良さは他を圧するものがあったアエロリット/NHKマイルC

  • 2017年05月08日(月) 18時00分


◆もともとこの時期のマイル戦で、牝馬と牡馬のトップクラスに力量の差は少ない

 混戦がささやかれ大きく人気が割れた中、勝ったのは高い支持を受けた人気の牝馬アエロリット(父クロフネ)だった。今年、このメンバーでは牝馬のほうがレベルは高いと評価され、1番人気のカラクレナイ(父ローエングリン)こそ凡走したものの、18頭中4頭の牝馬が「1着、2着、7着、17着」したから、牝馬上位はその通りだったことになる。

 牝馬の「1着、2着」独占は、2番人気のラインクラフト(桜花賞馬)が勝ち、桜花賞3着のデアリングハート(10番人気)が2着した2005年につづき2度目。2005年といえば、ディープインパクトが無敗で3冠馬に輝いた年であり、ディープインパクト以外の男馬は必ずしもレベルは高くないとされていた経緯もある。もっとも、もともとこの時期のマイル戦で、牝馬のトップクラスと、マイルを目指すことになった牡馬のトップクラスに力量の差は少ない。

 圧倒的な外国産馬旋風が去ってからのここ10年ちょっとに限れば、その05年のラインクラフトを筆頭に、07年ピンクカメオ、昨2016年のメジャーエンブレム、そして今年のアエロリット。

 半数に近い4頭もの勝ち馬が「牝馬」だから、今年のように東京1600mの記録で大きく上回ったアエロリットの完勝は、順当だったといえるかもしれない。

 1月のクイーンCを1分33秒3で2着。当時は出負け気味のスタートからかかり気味にどんどん進出し、キャリアの浅い牝馬の東京1600m戦とすれば失速凡走のパターンだったが、マイペースで先行したレーヌミノル(父ダイワメジャー。のちの桜花賞馬)を交わし、差してきたアドマイヤミヤビと半馬身差。失速しかかってから差し返す勝負強さをみせていた。

 桜花賞でも出負けし、このときは道中の進出を断念し、直線勝負に徹して5着止まりだったが、上がり3ハロン35秒0は、メンバー中2位タイ記録。オークス2400mは距離不向きとして狙いをここに定めていた。牧場での短期放牧期間があったため、美浦での追い切り本数は少なかったが、絶好の最終追い切りをみせたあと、この日の仕上がり状態の良さは他を圧するものがあった。

 菊沢隆徳調教師は騎手時代を含めて初G1制覇。その義兄になる横山典弘騎手は、1999年シンボリインディ、2015年クラリティスカイにつづき、NHKマイルC・3勝目だった。次の世代を担うジョッキーとなり、これからの活躍が期待される横山和生騎手(24)、菊沢一樹騎手(19)、横山武史騎手(18)には、これ以上ない大きな発奮材料が加わったはずである。

 波乱必至のNHKマイルCにふさわしく、2着に伸びてきたのは13番人気のリエノテソーロ(父スペイツタウン)だった。多くの新聞の調教欄に「いつにも増して素晴らしい動き」を示したことが載り、Gチャンネルの調教VTRをみて飛びついたファンもいたはずである。たしかに父スペイツタウン(父ゴーンウエスト)の快走はダートに限定され、母方もUSA色の濃いダート向き血統である。また、スペイツタウン産駒の活躍もダート中心だが、世界では日本以上に種牡馬ゴーンウエスト系の評価は高い。USAの芝G1(ハリウッドダービー)勝ち馬だけでなく、仏の芝マイルのG1ジャンプラ賞の勝ち馬も、英の芝での勝ち馬も送っている。まして牝馬リエノテソーロは芝で2勝し、今回も対戦のタイムトリップにも勝っていた。

 距離不向きと思われたのはたしかだが、教訓「2〜3歳馬には芝馬、ダート馬の差は少ない。快調教に目を奪われたら、候補に入れるべき」なのである。まして、荒れることが分かっているNHKマイルCだった。今回、史上第3位に相当する1分32秒3のレース全体の流れは「46秒1-46秒2」。こういう緩急のない一定ラップは、ダート適性の高い馬が対応しやすい流れでもあった。

 3着に粘ったボンセルヴィーソ(父ダイワメジャー)は、勝ちみには遅くとも芝のマイル重賞を「2着、3着、3着」。また最後にあと一歩足りない物足りなさを出したものの、初の東京1600mを、自身「46秒1-46秒8」=1分32秒9(上がり35秒0)は立派なものである。

 ダイワメジャー産駒は昨年のメジャーエンブレム、今年の桜花賞馬レーヌミノルなど典型的なマイラー型が多いが、ボンセルヴィーソのファミリーは距離延長に不安のない一族であり、ダイワメジャーも今年は種牡馬生活のピークと思える16歳。自身と同じように、そろそろ2000m級なら楽にこなせる産駒が増えてくる可能性がある。

 4着レッドアンシェル(父マンハッタンカフェ)は、前走比14キロの馬体がやっぱり少しガレて映った。それで4着は立派だが、秋に向けて立て直したい。ミスエルテ(父フランケル)は素晴らしい馬体のバランスを誇るので細くは映らないが、1戦ごとに馬体が減ってデビュー時の464キロが→当日輸送なしで446キロ。まだ先がある。ムリする時期ではなかったか。

 人気の中心だったカラクレナイは、当日輸送ではないから馬体減もなく、仕上がりは決して悪くなかったが、関東所属の牝馬が、桜花賞や秋華賞でいきなりの関西遠征だとまったくいいところなく終わるパターンと同じ。近年の馬だから輸送そのものは再三の移動でなれていても、当日輸送ではなく直前移動の滞在競馬は初めて。まして、初コース、初の左回り。内枠とあって半マイル通過46秒1の速い流れを早めに追走したのも初めてだった。4コーナーを回った地点で、デムーロ騎手はギブアップしている。桜花賞組が好走しているのだから、能力ではなく今回は基準外の一戦だろう。

 モンドキャンノ(父キンシャサノキセキ)は、引いたのが最内の1番枠。ルメール騎手も先に行っては良くないタイプは承知だが、高速馬場で、この枠順で下げてはその時点でアウトであることも分かっている(上位3頭は中団より前に位置していた馬)。ムリすることなく大事に先行したが、追ってから伸びなかった。改めて、阪神JFより1秒4も遅かった朝日杯FSのレースレベルも問題で、現時点では1400m向きだろう。

 期待したアウトライアーズ(父ヴィクトワールピサ)は、少し休ませたのがリフレッシュになるはずだったが、返し馬の動きがあまりに硬すぎた。好スタートを下げて後半にかけたが、同様にインを回ってきたカラクレナイ、モンドキャンノと同じで、直線伸びる気配がなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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